ANAついに「737MAXへ更新」解禁 他社で2度の事故もなぜ導入継続? それが「安全で効率的」な理由
ANAが2025年以降にボーイング「737MAX」シリーズの「737-8」を導入します。737MAXは相次ぐ事故で運航停止となった旅客機。同機を導入継続するメリットはどのようなもので、安全性の懸念はないのでしょうか。
2度の事故で1年9か月の運航停止に
2022年7月11日、ANA(全日空)グループが、現在国内線で運航している「ボーイング737-800」の後継機として、ボーイング737シリーズの最新派生型「737MAX」シリーズのひとつ、「737-8」発注に向けた最終購入契約締結を発表しました。導入は2025年度以降になります。
ANAのボーイング737-8のイメージ(画像:ANA)。
ボーイング737MAXは2016年に初飛行した、ロングセラー機737シリーズの最新モデル。大型で効率の良いエンジンの採用や操縦システムの改修などが加えられており、ANAによると、737-800を始めとする在来タイプと比較して約15%ほど、燃費効率の向上などが図られているとのことです。
しかし737MAXは、2018年にジャカルタで、2019年にエチオピアで連続して墜落事故が発生。これにより、各国の航空当局で運航停止措置が1年9か月もの間下されていました。ANAグループでも、これをうけ根本的な事故原因の究明や、適切なシステム改修を進め、運航停止措置の解除がなされるまで正式な購入契約の取り交わしを見送っていたそうです。
これらの事故原因は、737MAXから新搭載された「操縦特性補正システム(MCAS)」が作動したことで、パイロットの意に反して機首を下げ続けたことが要因とされています。
737MAXシリーズに搭載されている新エンジンは、従来型より直径が大きいことが特徴。そのため、エンジン下部と地面の間隔を確保するために、主翼への取り付け位置が前方かつ上方に変更されています。これにより、飛行中フラップ(高揚力装置)が格納されている状態、かつ、機体の迎え角が大きい姿勢のときに、機首上げの力が大きくなる特性があります。
この対策のため、新搭載されたのが「操縦特性補正システム」です。
「操縦特性補正システム」なにが問題だったのか?
操縦特性補正システムは、主翼に対向する空気の流れの角度(迎え角)の大きさと機体の速度に応じて、自動的に水平尾翼にある「水平安定板(スタビライザー)」の角度を機首下げ方向に動かす機能です。つまり、一定条件で自動的に機首を下げてくれる機能ということができます。これを判断するのが、機首部分の「迎え角センサー」です。
2度の事故はこの「迎え角センサー」が、機首が上がりすぎていると誤判断したことをきっかけとした操縦特性補正システムのトラブルにより、パイロットの意思に反して機首が下がり続けたことが原因とされています。
運航停止期間中に、ボーイング社では同システムの誤作動防止や異常検知機能の追加、迎え角センサーの警告表示の見直し、飛行マニュアルの改定などを実施。2020年12月のブラジルのGOL航空を皮切りに順次運航が再開され、2022年5月時点で46社の航空会社が運航を再開・開始しており、「大きな不具合なく今もなお着実に運航実績を重ねている」(ANA)としています。
ボーイング737MAXのコクピットシミュレーター(乗りものニュース編集部撮影)。
ANAでは、製造国当局であるFAA(アメリカ連邦航空局)が、改修内容に対する検証を行ったことで、安全性の担保を確認。着実な運航実績の積み重ねもあったことから、当初の予定どおり、737MAXの導入を継続するに至ったそうです。
ANAによると、737-8、つまり737MAXに乗務予定のパイロットには、操縦特性補正システム機能の理解と習熟を目的とした内容の訓練が義務付けられているとのこと。この訓練についてANAの737パイロットは「操縦特性補正システムは特定条件によって作動するものなので、こういった状況を模擬訓練して、従来機との違いを確認・理解するといったものです」と話します。
一方、ANAの737MAXの導入継続については、さまざまな声があったのは事実。たとえば737シリーズのライバル機である、エアバスA320を地方路線の主力機にすべきといった意見です。737、A320ともにANAでは使用されており、キャパシティなどもほぼ同等。「737MAX」問題でA320シリーズに統一するという”鞍替え”は検討されなかったのでしょうか。
他機種に”鞍替え”されなかった理由
ANAによると、737-800後継機を、737MAX以外の旅客機へ再考するということはなかったとのことです。
選定要因については、「在来機である737-800との共通性や次世代機としての経済優位性も大きなポイント」とのこと。また、「技術進化により燃費の改善・整備費用の抑制・航続距離の延伸など様々な点で在来ボーイング737NGよりも優位性の高い機種であり、経済性に優れている」としています。737-8(737MAX)は在来型の737と互換性が高いことから、現在737-800にかけているリソースをそのまま活用しながら、新型機となったことで経済性・旅客の快適性も向上できるということでしょう。
ANAのボーイング737-800。将来「737MAX」へ更新される予定だ(松 稔生撮影)。
現在ANAが発表している737MAX「737-8」の発注機数は確定発注20機、オプション10機の計30機。担当者によると、2025年から年3〜4機程度のペースで導入を進めるとのことです。機数についても、当初の予定から発注機数を減らさずに継続されることになりました。
「737-8の導入機数を減らすことも検討していませんでした。現在ANAグループでは39機の737-800を保有しています。これらをすべて737-8に更新すると考えると、むしろ、今回の発注分ではまかないきれないと判断しています」(ANAの担当者)
このほかANAグループでは、737MAXのほか、貨物専用機としてボーイング777-8Fの導入を確定。こちらは2028年度以降に導入の予定とのことです。