「無人戦車の時代」ついに到来か 陸でも変わる戦い方 展示会で見えた“近い将来”
ドローンなどの無人機を当たり前のように使用する時代、それは空だけでなく、陸でも近づいています。欧州の展示会にて、近い将来の“戦い方”の一端が垣間見えました。
エストニア発 “純戦闘用”無人車両の実力
6月13日から17日までパリで開催された世界最大級の防衛装備展示会「ユーロサトリ2022」に、エストニアのUGV(無人車両)メーカーのミルレム・ロボティクスが、自由主義陣営諸国で初めて開発された純粋な戦闘用UGV「Type-X」を出展しました。
Type-X。写真はCPWS II砲塔搭載型(画像:ミルレム・ロボティクス)。
ミルレム・ロボティクスは日本での知名度こそ高くありませんが、同社の開発したUGV「THeMIS」は、2022年7月の時点でアメリカ、イギリスなどNATO(北大西洋条約機構)加盟国7か国を含む12か国に採用されています。また、EU(ヨーロッパ連合)に加盟する7か国が開発するUGV「モジュラー地上システム」のベース車両となることも有力視されており、自由主義陣営諸国のUGV開発をリードしている企業と言えます。
もともとTHeMISは、兵士の携行する装備の輸送や、負傷した兵士の後送など、様々な用途への使用を想定して開発されたUGVです。とはいえ車体中央部の貨物搭載スペースには、遠隔で兵装を操作できる「リモート・ウェポン・ステーション」を搭載できることから、歩兵を支援する戦闘用UGVとしても注目されており、ミルレム・ロボティクスは機関銃搭載型や対戦車ミサイル搭載型、20mm機関砲搭載型などを開発しています。
THeMISの発表は2015年でした。その後世界各国の軍でUGVへの関心が高まり、THeMISよりも戦闘能力の高いUGVを求める声も大きくなったことから、ミルレム・ロボティクスは純粋な戦闘用であるType-Xを開発したというわけです。
警備・警護用のはずでは…強化されていたUGVの砲
Type-Xは全長6m、全幅2.9m、全高2.2mの装軌(キャタピラ)式車両で、サイズは陸上自衛隊が運用している73式装甲車(全長5.8m×全幅2.9m×全高2.21m)とほぼ同じです。
筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は今回のユーロサトリで初めてType-Xの実物を見たのですが、会場に戦車や歩兵戦闘車が多数展示されていたこともあって、「意外に小さいな」と感じてしまいました。
Type-Xが発表されたのは2020年6月のこと。この時公開された試作車には口径25mmまたは30mm機関砲を搭載できる、ベルギーの重工メーカー、ジョン・コッカリルが開発した無人砲塔「CPWS II」が取り付けられていました。低反動砲の搭載も可能とされてはいるものの、ジョン・コッカリルは、Type-Xの最初の現実的な用途は、基地警備やコンボイ(車列)の警護になるとの見通しを示した上で、CPWS IIがType-Xにとって最適な選択であると述べていました。
ユーロサトリ2022に出展されたType-X(竹内 修撮影)。
しかし今回ユーロサトリで展示された車体には、ノルウェーのコングスベルクが開発した40mm機関砲の搭載も可能な無人砲塔「プロテクターRT40」が搭載されています。
40mm機関砲は基地警備やコンボイの警護に使用する戦闘車両の主砲としてはやや過剰です。何故Type-Xの兵装を強化したのか、という疑問を覚えましたが、ミルレム・ロボティクスのブースで配布されていたパンフレットを手に取って、その疑問は一瞬で解消されました。
「ウィングマン・トゥ・メカナイズド・ユニット」(機械化部隊の忠実な僚機)
ユーロサトリで配布されていたType-Xのパンフレットには、このようなキャッチコピーが書かれていたのです。
空の「ウィングマン」に置き換えてみよう!
地上を走行する戦闘車両はウィングマンなのか? というツッコミも入れたいところですが、確かに、防衛省が航空自衛隊のF-2戦闘機の後継機として開発を進めている次期戦闘機は、偵察や攻撃を行うUAS(無人航空機システム)と行動を共にすることを想定しています。
有人戦闘機と行動を共にするUASの研究開発は、アメリカやオーストラリア、ヨーロッパ諸国などでも進められており、欧米ではそうしたUASを「ロイヤル・ウィングマン」(忠実な僚機)と呼んでいます。
つまり、陸のUGVへの「ウィングマン・トゥ・メカナイズド・ユニット」というキャッチコピーから、ミルレム・ロボティクスがType-Xを基地警備やコンボイの警護だけでなく、機械化部隊を構成する戦車や歩兵戦闘車と行動を共にして、本格的な戦闘を行うUGVへと進化させるという考えを見て取ることができるのです。
正面から見たType-X(竹内 修撮影)。
今回のユーロサトリではドイツのラインメタルが新型戦車KF51「パンター」を出展していますが、この戦車はUGVまたはUASの指揮統制を行う乗員が搭乗できるスペースを備えています。また、イギリスのチャレンジャー2戦車の改修型「チャレンジャー3」や、ドイツとフランスが開発を進めている将来戦闘車両「MGCS」なども、戦闘用UGVとの協働を視野に入れています。
将来の機甲部隊や機械化歩兵部隊は、1両の戦車や歩兵戦闘車が複数の戦闘用UGVを引き連れて戦いに臨む――このような形へと変わっていく可能性は十分あると筆者は思います。