異例の屋外ステージで実施された2022年のWWDC。1000人を超える開発者と、300人以上のジャーナリストが集まった

写真拡大

 アップルが約2年ぶりに米・カリフォルニア州のクパチーノにある本社Apple Parkに来場者を招く形でイベントを開催した。次期OSのアップデートや、関連する新しいサービスの計画と展望を紹介する世界開発者会議「WWDC」だ。来月に発売を迎える新しい「MacBook Air」の情報とともに、現地を取材したイベントのレポートを伝えたい。

●アップルにとっても挑戦だった2年ぶりの“リアル開催”



 2020年春以降、世界に新型コロナウイルス感染症によるパンデミックが広がったことが、大規模な展示会やイベントの開催にも大きな影響を与えた。アップルも毎年多くの来場者を集めて、本社Apple Parkやその他の場所で開催していたデバイスの発表会や、WWDCのリアル開催を断念。2020年・2021年と続けて、すべてのイベントをオンライン配信に限定する形で実施してきた。

 2022年のWWDCは、アップルが久しぶりに人を集めてリアル開催に踏み切ったイベントになった。とはいえ、6月6日〜10日にわたる日程のうち、来場者が対面する形で開催されたのは初日の基調講演と関連するイベントに限られた。会場となったApple Parkへの入場には、全員が新型コロナウィルス感染症の抗原検査と陰性証明の提出、および会場内でのマスク着用を義務付けるなど感染予防対策が徹底された。

 基調講演には世界各地から1000人を超えるデベロッパーと、300人以上のジャーナリストが集まった。感染症対策を徹底する狙いもあったのだろう。イベントは異例の屋外ステージでの開催となったが、カリフォルニアのエネルギッシュな陽射しにも恵まれ、WWDCのイベントは“静かな熱気”に包まれた。

●デザインも大胆な変貌を遂げた「MacBook Air」



 基調講演の直後には、来月に発売を迎える新型MacBook Airのタッチ&トライも行われた。アップルが独自に設計したApple M2チップを搭載する新しいMacBook Airは、Apple M1チップを搭載する現行機種に比べて、グラフィックス処理や機械学習の演算処理がまた飛躍的に向上する。

 シリーズとして初めてデザインも大胆な変貌を遂げている。初代MacBook Airからシンボルとしてきた“くさび形”のウェッジシェイプデザインを変えて、スリムでフラットな形状、シャープにエッジを立たせた精悍なデザインにアップデート。カラーバリエーションには従来からのシルバーとスペースグレイのほか、新色のミッドナイトとスターライトが加わる。タッチ&トライの会場に集まったジャーナリストも、特に「ミッドナイト」に強い関心を寄せていた。

 

 サイズを13.6インチとして、狭額縁フレームの周辺まで画面を展開するLiquid Retinaディスプレイの画質は力強く鮮明だった。4基のスピーカーシステムを搭載するオーディオも強化されているので、動画や音楽再生、またはビデオ会議へのリアルな没入感が得られるだろう。

 

 多くのイノベーションを実現しながら、本体の質量を現行のM1チップを搭載するMacBook Airよりも50g軽い1.24kgに抑えた。昨今の円安ドル高の影響を受けたものか、基本仕様機の価格は3万円ほど高くなっている。数々のアップデートのボリュームを考えれば妥当であると筆者は考えるが、MacBookシリーズの入門機であるAirがいよいよ10万円台後半の価格に突入したことに不安を覚える向きがあることも分かる。2020年に発売されたM1チップ搭載のMacBook Airが併売される背景には、安価なMacBookを求める声に対する配慮もあるのだろう。

●基幹デバイスのOSを刷新、テーマは「パーソナライゼーション」



 WWDCではアップルの主要な四つのデバイスの次期OS、iOS 16/iPadOS 16/macOS Ventura(macOS 13)/watchOS 9に関するアップデートが発表された。その内容は細かく多岐に渡るため、本稿では全体を貫く二つの大きなテーマに絞り、関連するポイントを紹介したいと思う。

 一つのテーマは「パーソナライゼーション」だ。次期OSはユーザーが外観や使い勝手を自分好みにカスタマイズしやすくなる。あるいはデバイスを通じて集まる沢山のデータの中から、ユーザーが必要とするものを簡単に取捨選択して参照できるようになる。

 例を挙げるならばiOSのロック画面のパーソナライゼーションだ。日時のフォントやプリセットの壁紙に選択肢が広がるだけでなく、カレンダーのイベントや天気、アクティビティリングの進捗などの情報を「ウィジェット」として配置して、ひと目で参照できるデザインとした。

 WWDCに集まったデベロッパが注目した機能は、ロック画面にスポーツの試合の途中経過や、デリバリーサービスの配達状況などリアルタイムに進行する出来事を表示できる「ライブアクティビティ」だ。毎度、ロック画面を解除してアプリを立ち上げることなく、必要とする情報の更新状況が把握できるとても便利な機能だ。日本でもフードデリバリーやタクシー、テーマパークの混雑状況を確認する用途などに歓迎されそうだ。

 次期のmacOS、iOSなどにも標準搭載される「メール」アプリには、メールの送信予約や、送信直後にキャンセルできる機能などが加わる。また、特定の日時にメッセージを再確認するようユーザーが「リマインダー」を設定したり、メールを送った相手から久しく返信がない場合にはフォローアップを自動的に促す。デバイスがコンシェルジュのように振る舞う、新しいパーソナライゼーション機能にも注目したい。

●デバイスやOS同士の「コラボレーション」にも注目



 もう一つの大きなテーマは「コラボレーション」だ。iPhoneをMacに合体させて、Webカメラのように使える「連係カメラ」がWWDCのステージで発表された際には、会場の各所から驚きの声があがった。連係カメラはiPhoneとMacをWi-Fi/Bluetoothでつなぎ、iPhoneのカメラで捉えたユーザーの姿や手元の様子をビデオ会議の送り出し映像として反映できるというものだ。

 年内の提供を予定するmacOS Venturaは、2017年以降に発売されたMacBook ProやiMacなど、比較的発売後から年数の経つ機種にも投入できる。近年発売されたPCには元から高性能なフロントカメラが内蔵されている製品も多くある。これらのPCに対して、ビデオ会議の際などに見劣りしない映像を送り届けるためにも、連係カメラはとても重宝する新機能になりそうだ。iPhoneが新しい機種であれば、ユーザーが画面中央の位置に常時映るように自動調整する「センターフレーム」や、暗めの場所でも明るく色鮮やかな映像に引き立てる「スタジオ照明」のオプションも使える。

 デバイス連携に関連する話題では、iPadOS 16から搭載される「ステージマネージャ」にも多くの関心が集まった。従来、iPadOSはアプリを全画面表示にするか、Split Viewなどの機能を使って分割表示にするマルチタスク体験を基本としていた。ステージマネージャにより、複数のウィンドウを重ねて表示したり、ウィンドウのサイズを変更することも可能になる。

 さらにiPadを外部ディスプレイに接続すると、iPadとディスプレイ、それぞれの側に最大四つのアプリをアクティブな状態のまま、複数のウィンドウを重ねて表示できることから、マルチタスクによる作業が大いにはかどる期待が持てる。macOS Venturaにも同様のステージマネージャが新規に採用される。新しいユーザーインターフェースによる「体験の連係」にも注目したい。

●間もなく各OSのパブリックベータも提供を開始する



 次期OSの開発者向けベータ版はWWDCの開幕とともに提供が始まった。これから多くのデベロッパが、新しい機能を活かした独創的なアプリやサービスを秋以降の各OSの提供に合わせてつくり込むことになる。

 また来月以降にはローンチ前の次期OSの問題特定と修正、品質向上に役立てることを目的としてプレリリースソフトウェアを無料で公開するApple Beta Software Programも始まる。今秋に期待される各OSを搭載するデバイスの発表までの期間もまた、大いに盛り上がるだろう。(フリーライター・山本敦)