プロ野球界を引退後、アメリカンフットボールに転向した元DeNA・石川雄洋【写真:荒川祐史】

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DeNAで16年間プレーし通算1003安打をマークした石川雄洋

 プロ野球界を引退し、アメリカンフットボールの世界に挑戦して1年が経った。DeNAで16年間プレーして通算1003安打を放った石川雄洋。抜群の身体能力を生かしたプレースタイルは新天地でも変わることはない。今回、Full-Countの独占インタビューに応じ、試行錯誤を続けた“ルーキーイヤー”と今後の展望を語った。

「伸び悩む時期もありましたが、一歩ずつ乗り越えながら段階を踏めているかなと。まだ、まだ上手くなるんじゃないかなと感じている自分もいる。誰もが入れる世界じゃない。ここまでやれていることに価値があると思っています」

 昨年6月、社会人アメリカンフットボールリーグ「Xリーグ」の「ノジマ相模原ライズ」に入団。わずか2か月の練習を経て、同年9月の富士通フロンティアーズ戦と開幕戦にはワイドレシーバーとして出場した。ロングパスをキャッチするなど、光るプレーを見せてデビュー戦で注目を集めた。

 野球に比べて戦術も多彩で専門用語の多いアメフト。競技に慣れるのも苦労したが、一番不安だったことは「友達ができるのかな?」だったという。プロ野球選手がいきなりアメフトに転向し、短期間でユニホームを手にして公式戦の舞台に出場する――。時に周囲は“色物”として石川に視線を送ることもあった。

「6月に合流して、約2か月の練習で試合に出場できた。僕自身もビックリしたし、これまでやってきた人たちにしたら面白くないと思って当然。アメフトを辞めてプロ野球に挑戦して試合に出られることは絶対ないですよね? 語弊があるかもしれませんが、僕が監督だったら選んでない。でも、実力の世界であることは確かだと思っています」

自慢の俊足は今も健在「20代の選手と一緒に走っても負けることはないです」

 基本的にチームの練習は土日がメイン。引退したばかりの頃の体重は74キロだったが、アメフトはコンタクトスポーツ。厳しい当たりにも負けない体を作るために平日はトレーニングジムで鍛えて8キロの増量に成功した。さらに、DeNA時代から武器だった走力にも磨きをかけた。

「実力からすれば、まだ全然下の方。ですが、20代の選手と一緒に走っても負けることはないです。僕のポジションは走って、しっかりパスをキャッチすること。1試合でそこまで出番はありませんが、ワンチャンスを生かさないと試合に出られない。野球でいえば、代打みたいな感じですかね。勝負強さ、集中力はこの世界でも生かされている」

 石川は今年7月で36歳を迎える。精神的、肉体的に衰えがきてもおかしくないが、それを否定する。

「今年で2年目を迎えますが、練習や試合だけを見れば、まだ半年ぐらいしかやっていない。経験がない分、上手くなる伸びしろがあるんじゃないかって。僕を獲ってくれたチーム、関係者にも『アイツを獲って良かったな』と思われるプレーをしていくことが使命だと思っています」

「自分が全力で走れない、勝負できてない、レベルが落ちてると感じたらやっても意味がない」

 プロ野球で現役を引退したように、アメフトの世界でも必ずユニホームを脱ぐ瞬間は訪れる。年齢的にも大きな怪我をすれば“終わり”が来るのは十分理解している。それでも、先を見ず、与えられた仕事場で全力を出せるように日々、トレーニングを行っている。

「いつまでやりたい、とかは全く思っていない。もちろん、怪我はしたくないですが、ビビってなんかいられない。自分が全力で走れない、勝負できてない、レベルが落ちてると感じたらやっても意味がない。『まだ、まだいけるじゃん』と思っているなら、やってもいい」

 現在の収入源は古巣DeNA戦の解説だ。月に数本をこなし、残りの時間はトレーニングに費やしている。足りない分は、これまでの貯金を切り崩しながら“第2の人生”に全力で取り組んでいる。

「不思議と何とかなると思っていますね(笑)。コロナもあって出歩くことはほとんどない。服とかも昔ほど欲しくない。普通の生活ができていますし、生活レベルを落とせている。それが恥ずかしいこととは思っていません。今は、試合で『タケいくよ』と、言われてもいいように準備をするだけです」

 横浜スタジアムでファンを魅了した石川の“プレースタイル”は今も変わらない。無謀な挑戦と思われたアメフトの世界で、再び活躍する姿をファンは心待ちにしている。(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)