悼む。結婚、離婚、そして去り際も突然だった野際陽子さん - 渡邉裕二
※この記事は2017年06月16日にBLOGOSで公開されたものです
テレビ朝日系連続ドラマ「やすらぎの郷」にレギュラー出演していた女優の野際陽子さんが13日死去していたことが15日、明らかにされた。81歳だった。通夜、葬儀は終了していると言う。2年前に肺がんが再発し、摘出手術を受けるなど治療中だったそうだ。レギュラー出演していた「やすらぎの郷」も、今年3月16日に行われた制作発表もメインキャストでありながら欠席していた。
野際さんは富山県富山市に生まれた。3歳から東京・杉並で育ち、立教大卒業後の58年にNHKにアナウンサーとして入局。60年から同局「おはようみなさん」の司会などで活躍したが62年にNHKを退職した。
野際さんは大学時代に劇団に所属していたこともあって、女優として活動していくことが夢だったようだ。そういったこともあって63年にTBS系「悲(ひ)の器」で女優デビュー。その後、仏ソルボンヌ大学に留学し仏文学を学んだりしたが、帰国して女優復帰して出演したTBSの人気アクション・ドラマ「キイハンター」で一気に開花した。同ドラマは5年間放送され、最高視聴率30%を獲得。野際さんにとっての代表作となった。
しかし、野際さんで一番印象に残っているのは…「女優・野際陽子」の前に何と言ってもアクション俳優・千葉真一との結婚・離婚かもしれない。もちろん女優としての評価は語り尽くせないが、やはり「キイハンター」と「千葉真一」は今でも、野際さんを語る上でのワードとしてはトップ項目になっているはずだ。
もっとも、筆者にとっては〝結婚〟よりも、世代的なものなのか「電撃離婚」の方が、印象に残っているのだが…。
2人の離婚は1994年2月7日に発表された。何だかんだと23年も前の話である。
思い返してみれば、ハリウッドでの映画製作を夢見る千葉と、売れっ子女優となった野際は、芸能界では〝理想の夫婦〟とも言われてきたものだ。誰もが〝おしどり夫婦〟だと思っていた。しかし、現実は違った。私生活というのは傍から見ているほど甘くはなかったようで、実際には〝すれ違い〟が「深刻だった」ようだ。
今だから言えることではあるが、当時は〝熟年離婚〟というのが、ちょっとしたブームになろうとしていた、2人は、そういった世の中の流れに乗るかのように別れた。結婚生活22年。千葉55歳、野際さん58歳だった。典型的な〝熟年離婚〟である。
それにしても22年間苦楽をともにし、連れ添った夫婦にも関わらず、2人の離婚決意は
「夫婦でいる意味が希薄になった」。
この言葉は、世の中的に「夫婦とは何か」を考えるキッカケになったとは思うが、それは逆にワイドショーにとっては格好のネタになったことは確か。ついでに言うなら、2人の離婚が引き金になって〝熟年離婚〟が増え、社会現象にもなったものである。言い方は悪いが〝熟年離婚〟の元祖だったかもしれない。
話は前後するが、2人は「キイハンター」で共演したのがキッカケで73年、イタリアのローマで結婚した。「5年間もの熱烈恋愛だった」そうだ。
「2人が理想の夫婦になった最大の要因は、千葉が日本体育大学出身のアクション・スターで、野際は立教大学からNHKのアナウンサーに進み、その後、女優となるという華麗な転身を図ったことでした。まさに知性派スター同士の理想的なカップルだったのです」(芸能関係者)。
ところが、千葉が手を出していた事業がバブルで崩壊、経済的にも苦しくなったことで2人の溝が決定的に深まっていたようだ。しかも当時、千葉はアメリカで俳優活動を続け、一方の野際さんは「ずっとあなたが好きだった」や「ダブル・キッチン」(共にTBS)などのドラマに出演、その特異な母親役で人気が急上昇中だった。
「千葉は、ハリウッドで映画製作をするために、日本よりロサンゼルスに滞在する方が多かった。日本にいる時も、映画のために京都に生活の拠点を構えた。もはや〝別居状態〟でした。何かあっても、お互い、すれ違いで話し合いにもならない。そういったことから夫婦生活は完全に冷め切ってしまったのかもしれません」(プロダクション関係者)。
その一方で、離婚の原因については千葉の不倫、女性問題なども囁かれた。
千葉をよく知る映画関係者は言う。
「どんなに記者会見でキレイなことを並べても、離婚の原因は千葉の〝金と女〟にあった。結局、野際さんが愛想を尽かしたことは間違いない」
と指摘していた。
野際さんは1人娘・真瀬樹里(まなせ・じゅり)の将来を案じて、離婚には悩んでいたらしいが「娘の女優デビューが決まったことで離婚に踏み切った」のだと言う。
ただ、さすがに千葉にとっては寝耳に水だったらしい。会見では、
「彼女から、『キーハンター』の時のような友達関係に戻ってみたいと言われた」
「映画バカと言われるぐらい夢を追いすぎ、家庭を顧みず、辛い思いをさせた」
と未練タラタラだった。どうやら苦渋の選択で了解したようだ。
そんな千葉を野際さんは、かばうかのように、
「同じ職業だから、彼が夢を追うのも理解できる。ただ、彼のいない、娘と2人だけの生活に慣れてしまっていたことも確か。最近、夫婦であるという感覚が薄らいでしまって…。だったら、友達に戻った方が励まし合っていけるんじゃないかと思った」。
慰謝料に関しては、野際さんは一切、請求しないと強調し、最後まで“円満離婚”だったことをアピールしていた。
離婚後の野際さんは、安定感のある女優として多くのドラマに出演した。
NHKのアナウンサー時代から交流のある黒柳徹子(83)とは公私ともに交流が深く、テレビ朝日系「徹子の部屋」には女性ゲスト最多の21回出演していた。
それにしても結婚、離婚…。そして去り際までも突然だった。