※この記事は2017年05月09日にBLOGOSで公開されたものです

5月8日に行われた衆議院予算委員会で、民進党の長妻議員から憲法改正への見解を問われた安倍首相が、「読売新聞に書いているので、熟読していただければいい」と応じたことが話題になっている。

本記事では、実際の質疑の様子を書き起こしでお伝えする。なお、実際の質疑の様子は衆議院インターネット審議中継で確認することができる。(※可読性を考慮して一部発言を文章として整えています。)

首相「憲法について議論する場は、憲法審査会」

長妻:自衛隊・憲法の問題で、私からすると唐突感がありましたが、総理が2020年までに新憲法施行とおっしゃった真意を教えていだきたいと思います。

安倍:私は、いまこの場には内閣総理大臣として立っておりまして、予算委員会は政府に対する質疑という形で議論が行われる場だと思います。各党が憲法について議論する場として設けられているのが憲法審査会ですので、そこでご議論をいただきたいと思います。

一方、私が今回第19回の公開憲法フォーラムにおけるビデオメッセージ等を通じて、自民党総裁として憲法改正についての考えを公にしたのは、国会における政党間の議論を活性化するためでございます。

御党の細野議員も建設的な提案をされていますが、大いに国会両院の憲法審査会において、各党間でぜひ直していきたいと考えているところです。

長妻:それだけですか、答弁は?

いやいや、あれだけはっきりと(ビデオメッセージ等では発言していたのに)なぜ国会でおっしゃらないんですか?

以前総理と、何度もご記憶あると思いますが、予算委員会で自民党憲法草案について相当混み入った議論を総理も答えておられて議論をしました。いままでずっとしてたじゃないですか、憲法の議論。総裁としてご答弁というような前提ではありましたが、なぜ急に説明されないんですか?

安倍:いよいよ憲法審査会において、議論が佳境に入っていくときを迎えているわけです。まさに憲法について議論する場は、本来憲法審査会の場であろうと思います。

先ほど申し上げましたビデオメッセージの際にも断っていますが、自由民主党総裁としてお話しをさせていただきました。この場に立っているのは、長妻議員もご承知の通り、自民党総裁として立っているのではありません。私が質問にお応えする義務を負っているのは、内閣総理大臣であることをもって質問に答えるという立場であるということからも、この場においては内閣総理大臣としての責任における答弁に限定させていただいております。

他方で、どうぞ憲法審査会において活発な議論をされたらいかがでしょうかということを申し上げたいわけです。

長妻:私は、逆だと思うんですね。いよいよ迫ってきたからこそ、総理は国会で説明をされる、あるいはご自身の主張を述べられるということなんじゃないでしょうか?

憲法審査会について我が党の幹事とも話しましたが、相当首をかしげてました。「なぜ頭ごなしにそういうことになるのか」と。

報道されているように、船田さんという自民党の憲法審査会の幹事も「もっと慎重に(発言)してほしい」と。与野党の議論が崩れてしまうんじゃないか、そんな懸念を表明されています。

かつて総理は96条について改正するとバーンとぶち上げて、ご存知だったと思いますが、そのときに憲法審査会がせっかく与野党で積み上げてきたのに、そこで混乱をきたして議論が遅れたという悪い前例もあるわけです。

ここで一切おっしゃらずに報道やビデオではどんどん発言をされるということ、そのやり方について私は非常に違和感を感じます。

〆切を設けるということについてもいかがなものかと。今日は法制局長官に来ていただいておりますので、拝見したビデオメッセージについて質問します。まず、いまの自衛隊というのは違憲ですか?

横畠内閣法制局長官:自衛隊は昭和29年の自衛隊法制定により設けられたものであり、政府として一貫して自衛隊は我が国を防衛するための必要最小限度の実力組織であって、憲法に違反するものではないと解してきております。

なお、昨年3月にはいわゆる平和安全法制が施行され、自衛隊にはいわゆる新3要件、武力の行使の3要件を満たす場合における、我が国を防衛するための必要最小限度の実力の行使を含む新たな任務が付与されたところでありますが、これを含めて自衛隊は我が国を防衛するための必要最小限度の実力組織であることにかわりはなく、合憲であると解しております。

長妻:総理が一切お答えくださらないので、新聞記事や総理のビデオメッセージで観たことについて質問せざるを得ないのですが。

結局総理の真意というは、1項と2項は変えない。なぜ3項に自衛隊を付け足すのかというと、自衛隊は違憲だという学者のみなさんもいるので、すっきりさせるためであると。「ですから、たいしたことじゃないんですよ」という趣旨をおっしゃっていると私は了解しています。

では法制局長官にお伺いしますが、仮にいまの憲法の条文に自衛隊をきちっと位置づけるとすると、いまと全く変わらないということでいいんですね?

横畠内閣法制局長官:お尋ねは憲法の改正をめぐるご議論だと思いますが、憲法の改正につきましては、国民、特に国会におけるご議論に待ちたいと思います。

長妻:そうすると我々は何も判断することができないですよね。どういうことを考えられて、一体どうなっているのか。憲法審査会にも何にも話がない、と。

法制局長官、では一般論で聞きましょう。仮に憲法9条に、いまの1項2項は維持したまま、自衛隊をきちっと位置づけるというような考え方の条文を入れるとすると、何がどういう風に変わるのか変わらないのか。あるいは条文の書き方によって変化するのか。そこら辺はいかがでございますか?

横畠内閣法制局長官:まさに国会でご議論いただくべき事柄であると考えます。

長妻:これは、実際に憲法審査会の自民党の幹事の方も、非常に困ったというか、慎重にしてほしいというようなことをおっしゃっています。

実際に我々が検討するにも、自衛隊を3項で明記するだけだとすると集団的自衛権はいまの現状と変わらないのか。あるいはフルスペックの集団的自衛権として自衛隊が位置づけられるのかどうか。いろんな論点があるわけでございまして、ぜひ憲法審査会に…。

でも、憲法審査会の幹事の方々は総理の真意を分かっているのでしょうか?そもそも自民党の方々が憲法審査会で議論しろ議論しろと言ったって、憲法審査会の与党の先生方がみんな総理の話をすべて把握しているとは思えません。非常におかしな説明だと思わざるをえないわけでございます。

総理にもう1回お伺いしますが。私も縷々自民党の憲法草案について、ここで質疑をさせていただきました。そのときはお答えいただいていましたけれども、自民党のたとえば9条。自民党憲法草案の「国防軍」とか、あるいは「公共の福祉」という文言をすべて「公益および公の秩序」に変えるとか。あるいは憲法97条の「基本的人権の尊重」という条文をばっさり全部削除する。

こういう自民党の憲法草案についても総理と色々議論しましたが、いま申し上げたこの3つの観点については取り下げると。自民党憲法草案の主要な3点については取り下げると、こういう認識でよろしいんでしょうか?

安倍:繰り返しになりますが、私はここで内閣総理大臣として立っており、いわば私は内閣総理大臣として義務を負って答弁しているわけでございます。

自民党総裁としての考え方は相当詳しく読売新聞に書いてありますから、ぜひそれを熟読していただいて…

※場内騒然 (ヤジ:「そんなひどいことを・・」・「おい、ちょっと」「新聞読めっていうのかい」「そんなバカなことないでしょう」「新聞読めって」)

安倍:すいません・・・ちょっと静かに・・・。いま、答弁の途中でありますから落ち着いていただきたいと思います。よろしいですか?

答弁の途中で言ったら「ダメだ」ということでありますが、答えている最中でありまして。つまり党総裁としてはそこで述べていますから、党総裁としての考え方はそこで知っていただきたい。

ここで党総裁としての考え方を縷々述べるべきではないというのが私の考え方でありますから、ぜひそこで自民党総裁としては知っていただきたい。あるいはまたビデオで述べているわけでございます。そこでいま長妻議員は色々疑問が湧いてくるということですが、それはまさに憲法審査会においてご議論をいただくということであります。

それと自民党の中で既に議論して出来上がったものが現行の自民党の改正草案でございます。これは谷垣総裁時代に作ったものでありまして、これが民主的な、自民党の公式的な考えであります。

そこで、先ほどなぜ私が新聞等を熟読していただきと申し上げたか。しかしそれが発端ですから。それが発端で質問されているんでしょう? 新聞記事とビデオメッセージを基に質問をされているわけでありますから。しかしそれは…よろしいですか?みなさんだいぶ騒いでいらっしゃいますから…

長妻:自民党草案を取り消すんですか?っていう質問ですよ。

安倍::そこに十分に総裁としての考え方は既に述べているわけでありまして、その中で草案との考え方についても説明をしているわけであります。

一方、なぜそれを行ったかというと、自民党総裁としてのリーダーシップ、責任を伴うリーダーシップとして申し上げているわけでございます。

これは、取り下げるかどうかということではありません。これはすでに前から何回も…随分みなさんヤジばっかりしていて聞いておられないかもしれませんが…。私は何回も申し上げているはずですよ。これ(草案)がそのまま通るとは考えていない。

三分の二が必要なんですから。衆参ともに、例えば我が党は三分の二をもっていないわけでありますから、三分の二で発議するにはどうしたらいいか。そもそも議案がそのまま通るということにはならないだろうと。まさに憲法審査会の中において、だんだん議論が収斂していくものだろうと思うわけでありまして。取り下げる取り下げないという問題ではないわけで。

自民党の考え方を申し上げているわけであります。どこも自分の考えどおりにはならないのは…。長妻さんね、政治っていうのは自分の考え通りにはならないんです、これ当たり前ですが。

そこで結果を出すうえにおいては…

議長:総理、すいません簡潔に願います。

安倍:簡潔に申し上げますと、結果を出すためには、議論していく中で段々収斂していく。その中におけるひとつの考え方として申し上げたところでございます。どうかその点をご理解いただきたいと思うところでございます。

議長:その前に一点、一部新聞社の件等々ありましたが、やはりこの場では不適切でございますので、今後気をつけていただきたいと思います。

長妻:私も長年国会で質問いたしましたが、自分の発言は読売新聞を読めというような答弁というのは初めてです。

相当総理は本当にちょっとどうなのかな、という風に思います。 

◆◆◆◆◆◆

なお、長妻議員はこのほかに北朝鮮問題などについても質問を行っている。