「選挙フェス」「プラカード」…参院選の選挙運動を振り返る - BLOGOS編集部

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※この記事は2016年07月27日にBLOGOSで公開されたものです

今月10日に投開票が行われた参院選は、ネット選挙運動が解禁された2013年7月の参院選から数えて3度目の国政選挙でもあった。 解禁時には大きな話題を呼んだものの、結果的には「大勢には影響を与えない」とも言われてきたネット選挙。あれから3年、参院選や目下の都知事選ではどのように活用されているのだろうか。

編集部では、ネットや街頭における新しい選挙手法に着目している、東京工業大学准教授の西田亮介氏に話を聞いた。【大谷広太(編集部)】

■進化した「選挙フェス」とその課題

ー東京選挙区では、ユニークな選挙活動として三宅洋平氏の動向が話題になっていました。

西田:三宅氏は、前回(2013年)の参院選で「緑の党」(当時)から比例代表で立候補し、17万票あまりを集めて話題になりました。今回の参院選でも落選はしましたが、有権者数で見れば東京選挙区に限定されたことで、前回より分母が小さくなっているにもかかわらず、25万票も集めています。三宅さんはもともといわゆるメジャーではない、インディーズシーンのミュージシャンで、彼の政治活動が実質的にここ5年くらいのものだということを考慮すれば、やはりこれは無視できない数字で、それなりに注目すべき急伸の度合いではないかと思います。2013年の参院選で話題になった山本太郎議員がお茶の間タレントで、映画俳優として圧倒的な認知度を踏まえた選挙運動を展開できたことと比較しても、尚更その手法には興味深いものがあります。

何度か選挙フェスの現場も見に行きましたが、彼の街頭演説会である「選挙フェス」のスタッフや、足を止めて話を聞いている人たちの様子を見ると、いわゆる音楽関係者・市民運動家風の方だけでなく、とても多様でした。

よく選挙フェスは、音楽の野外イベントのアナロジーとして報じられていますが、「選挙フェス」は、音楽イベントを単に模倣したものにとどまらず、選挙運動としても洗練されてきたという印象を持っています。たとえば、会場の整理や巡回、ビラ、寄付のお願い、「公選ハガキ」の配布の徹底など、スタッフの動き方が組織化、効率化されていました。また、拡声器の使用ができなくなる20時を過ぎると、山本太郎氏も交えて3ショットを撮るよう促し、ソーシャルメディアでの拡散を狙う、などといった一般の音楽イベントとは異なった選挙に特化した工夫が随所に実装されています。これはやはり前回参院選、それから松戸市の市議会選挙でDELI(三木幸仁)氏が当選した選挙での応援の経験を継承しながら、改善を続けてきた影響といえるでしょう。

服装も、以前はタンクトップを着ていることもありましたが、今回はシャツを着ている場面も多かった印象です。小さな違いかもしれませんが、年長世代の印象を意識したからではないでしょうか。そのような細部に至るまで、試行錯誤の跡が見て取れます。

ー「生活の党と山本太郎となかまたち」の陣営の組織が支援もあったのではないでしょうか。

西田:そうだと思います。もちろんそのノウハウも活かされていると思いますし、動員も行われているのではないでしょうか。というのも、山本太郎議員が登場した時が、一番歓声が大きかった、という場面もありましたから。渋谷の選挙フェスは、ある種盛り上がりのピークで、音楽も盛り上がっています。しかしその他の場所では音楽のライブは最前列などを除くと、音楽では聴衆の反応を引き出せていない場面もありました。その一方、山本太郎議員が登場するというアナウンスが流れただけで、拍手喝采が起きていました。

ー演説の際にはBGMを使用していましたね。DJによるプレイ、本人も含めた歌の生演奏も印象的でした。

選挙フェスDAY 1 JR吉祥寺駅北口

西田: BGMのボリュームの調整もやっていたと思います。実際の音楽ライブなどでも用いられるそうですが、聴衆の反応などにあわせて、とくに後半に向けて音量を上げていき、盛り上がりを演出する手法と類似性を感じます。プロのミュージシャンならではともいえるのかもしれません。

選挙フェスDay2 JR高円寺駅北口

もちろんプロの音楽の使用やライブ演奏については、ある種の利益提供にあたるのではないかという意見もあり、公職選挙法上グレーゾーンではありますが、実際に取り締まるのはなかなか難しいようです。

三宅さん自身が著書で明かしているのですが、彼は喜納昌吉さん(音楽家、元参院議員)の音楽を使った選挙運動に大変感銘を受けています。市民派の間で引き継がれてきた手法を三宅流にアレンジしているようです。松戸市議会議員選挙で当選したDELI氏は、ヒップホップミュージシャンが選挙運動に音楽を取り入れていましたし、三宅さんも応援で参加していました。



ー「選挙フェス」的な手法は、今後どうなっていくでしょうか。

西田:「選挙フェス」も、開催する場所によっては、音楽イベントと比較すると盛り上がっているとは決して言えない面もありました。しかし、一般的な政治家の街頭演説よりはよっぽど盛り上がています。また帰宅時間にたまたま通ったと思しき人たちが長い間足を止めて、ビラを見ながら三宅さんと山本太郎議員の演説に聴き入るというシーンもたびたび見かけました。また海外に目を向けてみれば、スペインのポデモスや、アメリカのバーニー・サンダースの運動のように、左派的な主張+ネット中心+若者中心の、グローバルな異議申し立ての運動と呼応する部分があると思います。ある種の世界的なトレンドでもありますし、三宅さんも意識しているところがあったと思います。ネットとその先の海外の視聴者やメディアを意識してだと思うのですが、英語で少し長い尺のメッセージを発する場面もありました。国内の選挙でありながら、海外や英語での発信を意識しているところも興味深い点です。

ところで、既存の政治勢力がステレオタイプ化していくなかで、こうした新しい勢力が立ち上がってくることは良いことだ、というポジティブな捉え方もあります。そもそも新しいプレイヤーが乏しさが、日本の政治の硬直化を生み出しているという見方もできなくはありませんから、こうして新しいプレイヤーが登場し一定の存在感を見せるだけでも、政治と選挙に新しい緊張感が生まれます。

ただ、三宅さんに関しては政策面でやや具体性に乏しかったのは残念な点ともいえます。また急進勢力にありがちなことですが、リスクも伴います。今回、エセ科学的な点が指摘されたり、過剰なエコのような主張が批判も受けていましたが、「よくわからないけれど、三宅さんが言っているので信じる」という人が出てきてしまう可能性があります。これはぼくの著書『マーケティング化する民主主義』などでは、「ハーメルンの笛吹き」の比喩で表現しましたが、エビデンスや合理的説明に欠くカリスマには、当然カルト化や先鋭化のリスクを有しています。政治家が有権者の代表であるという観点からすると、各候補者は自身への「信頼」を求めるだけではなく「説明」をしていく必要があるのではないでしょうか。

また、ネットワーク的・流動的なのが特徴ですから、逆に言えば組織としては不安定とも言えるでしょう。

最近、三宅さんが落選したのは不正選挙があったからではないかという噂をネットで見かけました。ただし、幾つかの観点が抜けているように感じます。たとえば選挙フェスに集まっている人は都民に限りません。不正選挙の根拠とされた小笠原村では三宅さんがダントツ一位だったという話題ですが、人口が少ないうえに、三宅さんのエコに関する主張とも親和性が高いという地理的要因を想起すべきです。

いずれにせよ、東京選挙区が1000万票を取り合うというゲームだということを思い出せば、まったく規模が違う話です。日本の選挙システムは他国と比較してもかなり厳しく運用されています。まことしやかに陰謀論のような主張を続けていると、ちょっとおかしな方向にいってしまうのではないかということを懸念します。

■マスメディアとネットの新たな関係性が見え始めた

ー三宅氏はLINEでの拡散も試みていましたし、野党側の候補の支援者には、スマホの画面は公職選挙法が定めるビラなどの「文書図画」に当たらないとして、「画面に候補の情報を表示させてみんなに見せよう」といった呼びかけをしている方もいました。

西田:スマホの画面を見せるのは、それが不特定多数に向けたものであれば、文書図画の頒布について定めた公選法第142条ではなく、第143条で制限される「文書図画の掲示」に該当する可能性もあるので合法性については判断が別れるかもしれません。

ネット選挙の対策をするのがもはやスタンダードになり、「何もしない」という候補者はほぼゼロになったのではないでしょうか。そのような意味でも、ネット選挙は、2013年から3回の国政選挙を経て、日本でもあっという間に定着しました。

ところで、これまでの選挙運動は、あくまでもその場に居合わせた人対するもので、候補者側にもその都度「一回きり」という意識があったと思います。個々の選挙運動が「点」で、別個に存在しているイメージです。

それが選挙フェスでは、ネットと連動し、生中継や動画・画像で拡散されることで、リアルな選挙運動とネットでの選挙運動を往復させながら効果を増幅することが可能になったと思います。ソーシャルメディアを見て「演説会が盛り上がってるみたいだから、一度行ってみよう」ということで、足を運んだ方も多いのではないでしょうか。つまり、現場の選挙運動を、ネットやソーシャルメディア上の拡散と盛り上がり/盛り上げの往復で繋ぎ、「線」的に連続した選挙運動にデザインしているといえます。これを、組織でサポートし、「面」として展開する仕掛けに、次の課題とティッピングポイントがある印象です。ここが組み合わされば、ちょっと大きなうねりになるかもしれません。

ーTwitterやFacebookで、候補者の写真に街頭演説の日時や場所のテキストを載せて拡散させる、という手法も一般化しましたね。

西田:プラカード用の画像をソーシャルメディアで拡散し、コンビニのコピー機でプリントアウトさせ、みんなで持ち寄って候補者を取り囲むというSEALDs的な手法も、特に市民連合、野党サイドで見られました。

ーその様子を写真に撮って、またソーシャルメディアで拡散すると。マスメディアが候補者のSNSのフォロワー数が比較するようにもなりました。

西田:盛り上がっている様子をテレビや新聞に取り上げてもらう手法ですね。マスメディアもまた、ネタや情報をネットに求めるようになってきています。

マスメディアはネットを参照し、ネットはマスメディアを参照するという、新たな関係性が出てきていると言えるでしょう。

それにより、候補者の側も単に演説だけしていればいいということではなくなってきました。今回は主だった動きがあまり見えなかった自民党も、ネットの反応を見ながら翌日の演説の内容を微調整していく、ということを実践してきました。その点に関しては、著書『メディアと自民党』にからめて、やはり以前、BLOGOSさんのインタビューで大きく取り上げていただきました(『"自民党と広告代理店の陰謀"は本当なのか? 』)。

長らく日本の政治プロモーションや政治マーケティングは時代遅れだと言われていたものが、ここに来て少し動きはじめた印象です。

ー与党側の候補が野党側の手法を取り入れだしたのも面白いですね。

西田:都知事選でも、とくに自公などが推薦する増田さんが前述の野党的なプロモーションを模倣し始めているように見えますね。「政策なら増田」という主旨のプラカードで増田氏を囲むという手法を見ました。今後、三宅的なものが与党サイドに模倣されたときにどうなるのかということは、大変興味深い点です。あるいは模倣可能などうかということも含めてですね。

ただ、選挙運動がマーケティング化し、パフォーマンス主体になると、やはりコストの勝負になると同時に、「情」と「情」の戦いのような形になってしまいます。そうすると、やはり資金や動員など既存のリソースを投入できる勢力が有利でしょうし、だからこそ逆に「理」というか、中身と政策こそが重要になる局面が出てくるのではないでしょうか。

参院選前にもBLOGOS上で指摘したとおり(『参院選後には“熱狂なき国民投票”の可能性も…』)、来るべき憲法改正を問う国民投票では、まさにパフォーマンス主体の運動のぶつかり合いになる可能性が高いと思います。国民投票法が、公職選挙法と比較すると規制が緩い作りになっていて、アメリカの大統領選挙や大阪都構想の是非を問うた住民投票と似たつくりになっていることに起因します。少なくとも、制度としてはポピュリズムを促進しかねませんが、憲法改正というテーマをめぐって、いかに熱意をもった熟議を実現するかがメディアやジャーナリズムの役割としては重要になってくると思います。最近の国政選挙を見ても、改憲派、護憲派ともに、強い主張を持っている陣営だけが加熱して、一般の生活者は冷め切っていて、議論それ自体に参加しない、投票にさえ行かないといった事態と、「熱意なき憲法改正」を懸念します。

それらを踏まえると、今後は個々のネット・街頭の選挙運動手法もさることながら、そこで発信されている内容や、本来議論されるべき問題に焦点が当っているのか、そこに注目し、それらを読み解き、きちんと生活者に伝える方法をデザインしていく必要性がより高まっていると思います。

(にしだ・りょうすけ)東京工業大学大学リベラルアーツ研究教育院准教授。博士(政策・メディア)。1983年京都生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。(独)中小機構経営支援情報センターリサーチャー、立命館大学特別招聘准教授などを経て現職。専門は情報社会論と公共政策。 著書に「ネット選挙とデジタル・デモクラシー」(NHK出版)、「ネット選挙 解禁がもたらす日本社会の変容」(東洋経済新報社)、「無業社会 働くことができない若者たちの未来」(朝日新書)「若年無業者白書2014-2015」(共著、バリューブックス)、「メディアと自民党」 (角川新書)など。