「無罪確定ははじまり」風営法違反で摘発された元クラブ経営者が語る 法改正運動のウラ側 - BLOGOS編集部
※この記事は2016年07月20日にBLOGOSで公開されたものです
大阪・梅田のクラブ「NOON」営業中に「ダンスを踊らせた疑い」で摘発された元クラブ経営者・金光正年氏。今年6月9日の最高裁決定により無罪が確定したいま、同氏は何を思うのか。4年に渡る裁判、風営法改正運動について話を聞いた。【取材・執筆:村上隆則(@takanorim_)】
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「許可を取ってからモノを言え」という批判が多かった
――無罪確定おめでとうございます。前回の取材から4年が経ちましたが、法改正運動を始めた当初はどのような反応が多かったのでしょうか
金光正年氏(以下、金光氏):そりゃもう、BLOGOSのコメント欄が一番キツかったですよ(笑)
ただやっぱり「ルールに従った上で法改正運動を行うべき」という意見は多かったですね。「許可を取ってからモノを言え」というような。でもそれだと、許可を取っている事業者以外は声を上げられなくなってしまうじゃないですか。だから当時も、クラブ事業者は一切声を上げることができなかった。
でも僕らは「クラブが許可を取らないと営業できない」という風営法の制度そのものがおかしいという主張をしていたんですよね。今回新たにできた特定遊興飲食店営業※1(以下、特定遊興)に関しても危惧しているのはそこで、結局警察に許可を取って営業するという形になってしまった。そうするとまた何か問題があったときに「許可を取ってから批判しろ」という圧力が生まれてしまいますよね。ルールそのものがおかしい時に、そういう批判をされるのは筋違いだと思います。
※1:風営法の改正により、一定条件を満たすクラブは特定遊興飲食店営業の届出を行うことで深夜営業が可能になった
――金光さん自身は、今回の風営法改正についてどのようにお考えですか?
金光氏:僕は最終的に、今回の風営法改正には反対しています。結局文言が「ダンス」から「遊興」に変わっただけで、曖昧な基準で規制されるだけじゃないかと。だからダンス議連に対しても、議員さんひとりひとりに反対を表明してほしいとお願いしました。だからこの法律を変えたのは僕達ではないんです。
今回の法改正で積極的に動いたのはクラブとクラブカルチャーを守る会、日本ナイトクラブ協会、西日本クラブ協会、社交ダンスの方達です。僕が関わっているLet's DANCE署名推進委員会(以下、Let's DANCE)は今回の改正案ではダメだということで、最後の最後に反対しました。ただ、風営法からダンスホール規制がなくなったのは社交ダンスの方達の念願でしたから、それはよかったと思っています。
――なぜ他の団体と協力していくという形にならなかったのでしょうか
金光氏:本当は各団体と手を取りあってやっていければよかったと思います。ただ、Let's DANCEが立ち上がった時にネット上で左翼運動だとレッテルを貼られバッシングを受けたこともあって、少し距離をとって活動されたように思います。もちろん他の団体もLet's DANCEの署名運動がきっかけになったことは理解してくれていると思いますが。
――Let's DANCEの署名運動はネットを非常に上手く活用した運動の例だと思いますが、そこは意識していたのでしょうか
金光氏:もちろん、インターネットを最大限使っていこうという方針はありましたが、東日本大震災以降、TwitterやFacebookで情報を発信するための下地ができていたというのも大きいと思います。それがあったからこそ、Let's DANCE署名運動に坂本龍一さんや大友良英さんなどのミュージシャンや著名人が参加してくれて、大きなうねりを生むことができたと思います。
――Let's DANCEでは署名をインターネットで集めるという点も注目されました
金光氏:ネットで集めた署名ももちろん効果はあるんです。でも僕らは法改正を目的としていたので、やはり直筆の請願署名を集めたいと思っていました。署名を集める際に、フジロックやサマソニなどの音楽フェスで活動させてもらったのはありがたかったですね。サマソニで署名活動をする際にはLet's DANCEの方でも「ボランティアを100人集めるぞ」と言ったんですが、スタッフに「金光さん、それ無理です」って怒られまして(笑)それでも78名のボランティアが協力してくれたんです。
結局、地道な署名活動を続けることで10万署名※2を達成することができたんですが、その原動力はやっぱり、音楽を仕事にしている人、音楽が好きな人達が垣根なく協力してくれたことだったと思います。
※2:Let's DANCEの最終署名数は16万署名(社交ダンス団体とその他ダンス団体6万署名を含む)
つきつめていくと、クラブ営業規制ではなくダンス営業規制だった
――社交ダンス団体の方とも一緒に運動していましたが
金光氏:署名活動を続けていく中で、ある時社交ダンスをやっている方から「あなたたち本当にやるんですか?」とLet's DANCEにメールがきまして、「やります」と。それをきっかけに社交ダンスの皆さんとも交流を持つことができて、彼らとも一緒に運動をやっていけることになりました。
実は風営法ができてからずっと困っていたのは社交ダンスだったんです。あの方達の想いは30年そこらのクラブ営業をしてる僕らの比じゃないですから。それこそ60年以上、ダンスが風営法から外れるというのが夢だったわけです。だから過去に何回もそういう運動をされてます。
Let's DANCE署名運動を始める際にも、この問題の根っこはどこにあるのかということをみんなでつきつめて考えたんですが、それはやっぱり「ダンス営業規制」だったんですよね。
――別の世界の方と一緒に運動することでスムーズになった点はありましたか
金光氏:今回うまくいったのは、やはり社交ダンスやサルサダンスなどのペアダンスの皆さんの力が一番大きいです。実は19年前にも社交ダンスの方達が風営法から「ダンス」という文言を外すという運動をしていました。それで、その時にもダンス議連を結成していた小坂憲次先生に我々もお願いに行ったんです。それで小坂先生が引き受けて下さいまして。今回新たにダンス議連を結成するときには小坂先生が「ダンスが好きな議員じゃないと認めない」と言って下さったみたいなんですよ。それを聞いた時は嬉しかったですね。
そういった経緯もあって、クラブの問題からダンスの問題にシフトしていったんですが、今度は「クラブはイメージが悪いから、社交ダンスを巻き込んでクラブの問題をダンスの問題にすり替えている」と批判されてしまったんですよ。すり替えたつもりはなかったんですけどね。
――音楽を流したり、証人が実際にステップを踏むなど、裁判の様子も話題になりました
金光氏:僕が摘発されたのはブリティッシュロックのイベントだったんですよね。だから実際に、その時流れていたOasisの曲を法廷で再生して「こんな曲で何がいかがわしいことがあんねん」と証明したかった。それも世論を味方につけるための弁護団のアイデアでした。
一審無罪が出るまでは、弁護団も99.9%の有罪率※3を覆すのは難しいという感じでしたが、彼らの緻密な論理の組み立てと前のめりな姿勢が裁判官を動かしたのかなと思います。高裁でも「必ず違憲判決を取るぞ」と意気込んでたくらいですから。一審無罪が出てからは一気に風向きが変わって、批判がピタっと止んだのは印象的でした。
※3:日本の刑事事件は起訴されると有罪となる確率が99.9%だといわれている
――地裁、高裁、最高裁と長丁場だったと思いますが、無罪が確定したときはどんな印象でしたか
金光氏:実は車で新潟に行く途中に、新聞記者さんから電話で無罪確定を知らされたんです。だから実感もなにもなく、「ええーっ!ホンマかいな!?」という感じでした。普通は書面が届いて知るそうなんですが、そんなこともあるのかなと。北陸道のど真ん中にいたので結局会見にも出席できませんでした(笑)
――今後の活動は
金光氏:最高裁決定というのは、やっぱり力があるんです。今回、法改正と無罪確定を受けて、店の深夜酒類提供飲食店営業の届出をするために所轄の警察署に行きました。最初は特定遊興でないと受理できないと言われたんですが、大阪府警、警察庁にかけあってもらい「私は、クラブで行うダンスは遊興にあたらないと解釈しています。」と添えたところ受理されたんですよ。これはつまり、クラブのダンスは特定遊興によって規制されないという事例ができたということです。
これをテコに、今後も風営法のアップデートを目指して、まだまだ運動は続けていくつもりです。だから僕にとっては、無罪確定ははじまりにすぎないんですよ。
プロフィール
金光 正年元クラブ経営者。2012年、大阪・梅田のクラブNOONの営業中に「ダンスを踊らせた疑い」で摘発される。その後4年間の裁判を経て、2016年6月9日の最高裁上告棄却によって無罪が確定した。風営法の改正を目指す、Let’s DANCE署名推進運営委員会でも活動。