部活動で超勤100時間、勤務日数30日の教員も―馳文部科学大臣「今のあり方は見直す必要がある」 - BLOGOS編集部
※この記事は2016年03月15日にBLOGOSで公開されたものです
3月10日、参議院文教科学委員会で共産党の田村智子議員が質疑を行った。教員の過重労働の問題を取り上げた田村議員に対して、馳大臣などが回答した。本記事では、その質疑の様子を書き起こしでお伝えする。実際の質疑の様子は参議院インターネット審議中継で確認することができる。(※可読性を考慮して一部発言を文章として整えています。)
馳大臣「教職員の長時間労働は喫緊の課題」
田村:教員の多忙化についてです。今年2月29日、東京地裁が西東京市の小学校の新任女性教員の自殺について、公務災害であるとして、「公務外」認定を取り消しました。クラスのトラブルへの対応、週7時間の主任者研修、毎日2~3時間もの残業、それでも間に合わずに持ち帰り残業・・・。これらの業務によって、強い精神的、肉体的負荷があった。こういう判断をしたものです。
教員の多忙化の解消。これは政府も掲げています。これ喫緊の課題であり、具体的な改善策を進めるべきだと思いますが。いかがですか。
馳大臣:平成26年度に公表された「OECD国際教員指導環境調査」の結果等によって、田村委員ご指摘のとおり、教員の長時間労働の実態が示されていると認識しております。
このような状況の中で、学校における教員の業務負担の軽減のため、業務の精選や効率化に取り組むことは重要であると考えており、昨年7月に策定し、教育委員会に周知した「学校現場における業務改善のためのガイドライン」においても、教育委員会が学校において精選すべき業務を明確化することなどを通じ、公務の効率化を推進するよう求めております。また、平成28年度予算案において、学校現場における業務改善のための取り組みやマネジメント力の向上のための取り組みに対する支援を行う経費を計上しているところであります。
文科省としては、これらの取り組みを通じ、学校現場における教員の業務負担の軽減を図ることで、学校教育全体の質の向上に取り組んでまいりたいと思います。
もう1点、ちょっとご指摘ありましたので、お答えしたいと思います。私2年前に、超党派の議員連盟で、過労死等防止対策推進法の取りまとめの座長をさせていただきました。その中で、すべての職種、公務員、または経営者・従業者にかかわらず、いわゆる過労死等、これはいかに本人、家族、職場、そして社会全体の損失であるかということを前提にして、取り組みを促した法案を立法した者としても、改めて教職員の長時間労働の問題や保護者からのプレッシャーもありましょうし、あるいは提出すべき書類の多さや様々な教育的な課題に対応しなければいけないプレッシャーもあろうと。
こういうことを存じておりますので、あらためて、この過労死等防止対策推進法の趣旨にのっとっても、私は教職員の長時間労働については、私は喫緊の課題として取り組む必要がある。こういう認識を持っております。
田村:この長時間、過密労働の解消の前提、それは労働時間の正確な把握です。文科省も2006年4月、通知で「管理職が勤務時間を現認する、またはICカード等の客観的な記録を基礎とする。このいずれかによって勤務時間を把握する」ように求めています。私は、やはり客観的な記録による勤務時間の把握、民間事業では当たり前の、このことを学校でも行うべきだと思います。
具体的な事例を挙げます。愛知県教委は教員の在校時間から超勤の調査を行っています。これは、市町村教育委員会からの報告によるものですけれども、この中で実は岡崎市だけが超勤80時間以上という教員の割合が異様に少ない報告結果になっているのです。これはまだ資料でお配りしていないのですけれども。
中学校で見ると、岡崎市の周辺の市は、4割から多いところでは8割の教員が、80時間以上の超勤なんです。ところが、岡崎市だけが2.7%。これ不思議に思った労働組合が、情報開示請求して調べてみたら、70時間台とか79時間台の教員が異常に多いということがわかったのです。
岡崎市というのは教員が自己申告で、在校時間を記録し、報告をしています。こうなると、80時間を超えないようにコントロールされたのではないか、という疑問がわいてくるわけです。事実、月刊誌『教育』というところに、岡崎市の教員が次のような投書をしています。
80 時間を超えないようにと、校長からの指導がはいり、みな適当に時間を調整して出していた。それを受けて市教委は、「各学校の取り組みのおかげで、時間外労働 が80時間を超える先生がほとんどいない。これは大きな成果である」と喧伝している。自己申告など裁量の幅のあるやりかたでは、職場の実態把握どころか、長時間残業が逆に隠されてしまう。こういう可能性も否定が出来ないと思います。やはり、民間では当たり前のタイムカードなど、客観的な勤務時間の把握に、公立学校も踏み出すべきだと思いますが、局長いかがですか。
それを聞くたびに「そんなバカな」と思う。ためしに80時間を超える記 録を提出したことがある。すると、校長からすぐに呼び出しが掛かった。「これを出すと、市教委から私ところに間違いなく指導が入ると思う。これから年度末の 忙しい時に差し掛かるのに、『帰れ』といわれたらもっと大変になるでしょう。まぁ自分たちの首を絞めないためにも、ここは80時間以内におさめて、出しなおしてくれんか」と。全然納得できなかったが、仕方なく、79時間55分に書き直して提出した。
今日も家庭訪問が終わって、授業参観の準備などをしていたら、退勤時間が21時を回ってしまった。しかし、そのまま記録したら、時間外労働が100時間を超えかねないので、19時に退勤したことにしておいた。
小松局長: 教員、学校の先生方の労働時間について、まず管理職が、きちっと把握をして、その実態に基づいて、業務のあり方等を改善していくという事は大変重要なことだと思います。
これを大前提といたしまして、先程、ご指摘の私共の通知指導というのは、労働安全衛生法等の一部改正の施行通知のことと理解いたしますが、職場の労働時間につきましては、それぞれの規模、組織運営等の実情に応じて、各学校で適切な方法で把握するということが必要でございます。
きちんと把握をして、あるべきように持っていくというのが、管理職の責任であると思いますけれど。労働時間の把握につきましては、現認、報告、点呼、目視という風にいろいろございます。この中で、各教育委員会に対しましては、私共も通知を出しまして、管理職が自ら現認するか、あるいはICカード等のような記録を基礎として確認するか。こうした方法によって、労働時間の適正な把握につとめるよう指導しているところでございます。
こういう形で適切に把握をしていただく、各職場によってきちんとした把握をしていただくということが大事だと私共としては考えております。
「6時半から22時まで学校に。私の当たり前は”当たり前”ではない」
田村:大臣にもお聞きしたい。過労死防止のまさにその法案をつくったわけですから。これ、現認というのは、目視なんていうものもあるわけですよ。何人残っているのか。どうしてこれで労働時間がつかめるのか。これは過労死の裁判でもいかに労働時間を把握するか。長時間労働だという証拠をだすか。これが一番の問題だということを大臣はお聞きになったことが多くあると思います。客観的な把握が、必要だと思いませんか。
馳大臣:なかなかこうして答弁をすると、答弁が一人歩きをする可能性があるのかな、と思いながらも。実は私も立法を通じて、労働時間をきちんと把握しておくことと同時に、管理職とそこで働いている方々のコミュニケーションにおいて、適切な労働環境をつくりあげることは極めて重要な原点であると。まず、こういう認識は持っております。
私が教員であった頃の経験では、私は非常に学校が好きだったので、逆にもう朝6時半から夜大体22時ぐらいまで、部活動もし、採点もし、授業の準備もしておりました。ただ、私は、それを当たり前と思っておりましたが、当たり前と思ってはいけないというのは、私は現実的な取り組みではなかろうかと。
こういう風にいまひとつの所管として思っておりますので、改めて、私自身も、全部皆さんがタイムカードという風にいっせいに指令をすることはできませんが、各都道府県、また設置をしている市町村の教育委員会において、適切に判断をして把握されるようにしておくことが原点中の原点だと私は思います。
田村:ぜひ学校がどのように勤務時間を掴んでいるのかを文科省は調査してほしいと思いますし、愛知県の取り組みは非常に重要だと思っています。80時間越え、100時間越えの教員の割合。どれだけいるのか。これはぜひ、全国的な調査をやっていただきたい。要望しておきたいと思います。
時間把握は最初の一歩なのです。具体的にそれによって、過重負担が解消されなければなりません。労働安全衛生法に基づいて、やはり集団的な職場の環境改善の進めていく体制をつくることが求められていると思います。
先進事例として紹介をしたいと思います。川口市は自治体レベルで、労働安全衛生の委員会が設置をされていて、 ここで労使の協議も行いながら、全市的な対策もとられはじめているのです。そのひとつが、教員のメンタルヘルスだけを担当する心理職。これを市においたんです。
通常はスクールカウンセラーが、児童生徒も教職員も両方見る、相談を受けるとされているのですが、これでは教員のメンタルヘルスに足りないという対応なんです。
そうすると配置された心理職の方は、学校訪問をしたり、24時間対応で電話相談をやったり、あるいは治療が必要と思われる方に病院紹介したりと、非常に積極的な取り組みをして結果として、学校に勤務しながら、病院に通って、心身の健康を回復していく。こういう教員が何人も出始めた。休職に至らずにとどめた。20~30名、年間休職を防いだと報告されているのです。
財政的な効果は数億円だと。2人目置くことになったというんですね。こういう管理職、あるいは市も取り組むようにする。こういう取り組み非常に重要だと思いますが、いかがですか?
馳大臣:好ましい取り組みだと思います。
部活動画原因で超勤100時間、勤務日数30日?
田村:担当者決めたけど、衛星担当の人はたった一人とか、こういう学校は少なくありませんので。ぜひ、管理職も市教委もそこに関心をもって、協議の中にはいっていく。そういう集団的な体制を作っていただきたいと思います。もう一つ、過重負担の要因とされている部活動についてもお聞きをしたい。資料でお配りした3枚目。これは名古屋市のある中学校の教員の一人一人の超勤時間についてです。
休日の部活動指導に対する特殊業務手当ての受け取りの記録。あるいは超勤時間の記録。労働組合が、名古屋市に開示請求して入手した資料をまとめたものです。名古屋市はパソコンへのログイン、ログアウトで出退勤の記録を行っているので非常に客観的な記録だといえます。
これ見ると、まあすごいんですよ。100時間越え、運動部活の顧問、100時間超えの超勤ザーッといるわけですね。9月の出校日というのを見ても勤務日数30日間、つまり1日も休んでいない。こういう記録が出てくるわけですよ。
文科省は2013年に、「運動部活動での指導のガイドライン」というのを、調査研究協力者会議の報告としてまとめていて、この中で「一週間の中に適切な間隔で休みをとること。これは生徒にとっても重要」ということがまとめられていると思います。この資料、超勤が167時間とかね。185時間とか。出校日数28日とか。運動部活動の顧問の皆さん。この記録見て、大臣いかがおもわれますか?
馳大臣:「あまりにも」というのは率直な一言であります。
田村:先生方が署名にも取り組んで提出されたというニュースもありましたれど、部活動のあり方。近年でまた活動時間延びているんじゃないかという指摘もあるんです。資料の一枚目と二枚目は名古屋大学の内田良先生が、ベネッセが行った「子供の生活実態基本調査」を基に、2004年と2009 年を比較して、1週間あたり中学校や高校で、どれだけ部活動の活動日数があるか。あるいは、1日あたりの活動時間がどれだけか、を比べているんですけれども。
文科省は1996年にも調査研究協力者会議の報告で、中学校では1週間に2日、高校では1日以上休養日が必要だとか、練習時間も平日は長くても2~3時間だと。こういうまとめをしているのですけれども、これと照らしてどうかという資料です。
そうすると、そのガイドラインに照らしても、一週間あたりの活動日数が6日以上という中学校、高校どちらも、年度が経った方が増えている。2004年よりも2009年の方が増えている。1日あたりの時間も増えている。こういう傾向があります。
ここはやはり子供たちの成長発達にとっても、先生方の超過勤務という問題にとっても、何らかの見直し、部活動のあり方の見直しといいましょうか、必要だと思いますが。局長いかがでしょうか?
スポーツ庁高橋次長:ただいま委員ご指摘の平成9年の調査研究報告においては、中学校では週当たり2日以上の休養日を設定すること。あるいは、平日はながくても2~3時間以内といった例を示しております。こういった考え方は、現在でも引き継がれている望ましい考え方だと思っております。
田村:休みを取らずにどんどん練習した方が勝ち抜けるなんていうのは、科学的に言っても私は根拠がないと思います。
ぜひ、積極的な取り組みで部活動のあり方の見直しに、子供たちの立場だとスポーツ庁で、先生方の立場だと初中局(初等中等教育局)になると思うのですけれども、お互い力あわせてですね、取り組んでいただきたいと思います。
初中局長にも確認をしたいのですけれども、実は先生方の部活動指導が、自主活動だとみなされてしまうような傾向というのが、相変わらずあるんですよ。確認します。少なくとも土日の特殊業務手当が支払われている時間、これは学校管理下で業務に従事している時間だと思いますが、いかがですか?
小松局長:ご指摘のとおりでございます。
田村:短い答弁でありがとうございます。先程の資料をもう一度見てほしいのですが、土日出勤だけでも1日8時間の勤務。休日だけで月50時間超えるという労働実態になっているんですよ。
厚生労働省は、月45時間を超える残業は健康に影響がでる可能性があるとして、事業所にたいして指導を行っています。そうすると、土日、部活動だけで、45時間を超えていたら、速やかな是正が必要だという事は明らかだと思います。
大臣にも見解をお聞きしたいと思います。部活動を真に子供たちの成長の資するものにする、それから超勤の大きな原因になっている、この部活動。このあり方、見直しが必要だと思いますが、いかがですか?
馳大臣:おそらく、この田村委員のご指摘を石井委員長や橋本委員も頷きながら聞いておられたと思います。
どうしても、「いままでこういうふうにやってきたから、私たちもこうしなければいけないんだ」といった強迫観念といったものが、指導者や部の伝統として引き継がれているということが多々見られます。私は見直しの必要はあると思っています。
田村:ぜひ具体的に対策をとっていただきたいと思います。
最後に、根本的には教職員の過重負担の解決というのは、教員の定数増にこそありますし、クラスサイズを小さくしていくこと。こういう政策によって、行われなければ、根本的な問題の解決にはもちろんなりません。しかし、同時にいま指摘したようなことは法改正が必要なく、ただちに具体的な対策がとれることばか りです。文部科学省が積極的な取り組みを行うことを強く求めて質問を終わります。