【BLOGOSチャンネル】「オフレコだ」と言われて書けない本当の理由は？ フリージャーナリスト3人が明かすマスコミの実態 - BLOGOS編集部
※この記事は2011年07月20日にBLOGOSで公開されたものです
松本龍・復興相は、オフレコ破りによって辞任に追い込まれた。もし東北放送がいつも通り発言を隠蔽していたら、今も松本氏が大臣を務めていた可能性は高い。今まで大手メディアはどれだけの暴言を「オフレコ」により闇へ葬ってきたのか。「メルマガ」は雑誌に代わる新しいメディアになれるのか、ネットメディアの出現でジャーナリズムにどんな変化があったのか、フリーと記者クラブの確執とは・・・12日のBLOGOSチャンネルでは、政界と癒着するマスメディアの実態が露わになった。これは「livedoor ネットマガジン」が、今月より「BLOGOS（ブロゴス）メルマガ」としてリニューアルされたことを記念して、メルマガ執筆者による討論番組を生放送したものだった。
出演は「須田慎一郎の政経コンフィデンシャル」著者、経済ジャーナリストの須田慎一郎氏。「そこそこ週刊・畠山理仁」著者、フリーランスライターの畠山理仁氏。「今週の小川裕夫」著者、フリーライター・カメラマンの小川裕夫氏。司会はBLOGOS編集長の大谷公太が務めた。
日ごろから取材の「現場」にいる３人が、タブーなし、リミットなしでメディアの問題を討論。日本のジャーナリズムが抱える問題点が明らかになってきた。【構成：安藤健二（BLOGOS編集部）】
ジャーナリストになったきっかけは？
大谷：BLOGOS編集長の大谷広太です。今日のBLOGOSチャンネルはいつもと趣向を変えまして、先日、ライブドアネットマガジンがBLOGOSメルマガにリニューアルしたことを記念して、BLOGOSの参加ブロガーでもありBLOGOSメルマガの書き手でもあるお三方を招いて、これからのジャーナリズムがどうあるべきかを考えていきたいと思っています。
では、本日の出演者の方をご紹介していきます。私の隣にいらっしゃる方が経済ジャーナリストの須田慎一郎さん。続きまして、フリーランスライターの畠山理仁さん。フリーライターでカメラマンの小川裕夫さんです。よろしくお願いします。
一同：よろしくお願いします。
大谷：早速なんですが、皆さんジャーナリストやライターを「やってみよう」と思ったきっかけは、どんなところにあったんでしょうか？どなたからでも。
畠山：（笑）では大先輩から。
須田：大先輩でアナログ世代の須田慎一郎です（笑）。青臭い話をさせていただくと、私は高校の頃から「ジャーナリズムの世界に入りたい」という気持ちがあったんですよ。当時は媒体は新聞、テレビ、雑誌などしかなかったもので、そんなに今のように選択肢がたくさんあったわけじゃなかったんです。その中でやっぱり新聞記者になりたいなぁと考えていたんですけど……。
実は私の高校の一級上の先輩が（元国土交通相の）民主党の馬淵澄夫さん。それで先日「先輩ですよね？」と言ったら、「そうだよ！」と。体育会系の学校だったものですからね、先輩・後輩の関係は非常に厳しい。「お前昔からそんなこと（新聞記者になりたいと）言ってたよなぁ」と言われましたね。
そうは言っても、新聞記者はものすごく成績優秀で一流大学を出てないと、なかなか日刊紙なんか入れないんですよ。で、逆に言えば、僕は学生時代に、高校・大学とほとんど学校に行かなかったんです。まあ、ジャーナリストって「オレは今日からジャーナリストだ！」と宣言しちゃえばジャーナリストになっちゃうものなんですよ。
その点で言うと、卒業前に4年生の秋口あたりには就職先を決めないと間に合わないんだけど、（僕の場合は）ようやく卒業が決まったのが、4年生の12月ごろでしたからね。その頃から「もう給料もらいたいな」と思っていて、それである銀行業界紙に潜り込んだ……というのが、私のジャーナリストとしてのスタートですね。
大谷：さきほど畠山さんと小川さんが須田さんのことを「大先輩」と呼んでいたわけですが、ちょっとその須田さんがジャーナリストを目指されていた頃と、畠山さんの頃とは違うところがあるとは思うんですが。
畠山：僕の場合は……。須田さんが先ほどおっしゃっていたように、新聞記者は優秀な大学を卒業して、とかはそういう時代で、それは今も変わってないと思うんですが、僕は大学入ってすぐくらいに、とにかく「記者になりたい」と思っていたんです。大学受験も新聞学科があるところを目指していたんですが、入ってみて、夜な夜な飲み歩いていて、たまたま知り合った人が編集プロダクションと言って雑誌の編集を請け負う会社をやってる方で、その方が大学の先輩でした。
「将来的には雑誌とか、現場に行って原稿を書く仕事をしたいんだ」と言ったら、「分かった！じゃあ明日から来い。原稿教えてやるから」って言われて、その翌日から行ったら大学に行かなくなってしまって、そのまま記者の仕事を始めてしまいました、それで今に至ると。大体、ライターが通るコースですよね（苦笑）
大谷：小川さんは？
小川：僕も似たような感じではあるんです。去年の就職率（の低さは）はとうとう僕らの世代を超えたって言われてるんですけど、2000年卒業って一番求人率が低かった年なんで、最初から就職活動してなかったんですよ。なので、卒業してブラブラっとしてて、今のような「グルナビ」みたいなもので、「ぱど」のデジタル版の「デジタルぱど」を立ち上げるから、それで「お店を取材しに行ってくれ」とスタッフ50人くらい募集するというので、そこに応募したんです。2000年のまだインターネットがそれほど普及してない時代で、（午後11時から午前8時まで定額料金で通信できる）テレホーダイというサービスが主流の時代でした。
それで僕は都電荒川線沿線の担当になりまして、荒川線沿いのちっちゃいお店に「インターネットの取材なんですが」と行っても、「インターネットって何ですか？」と相手にしてもらえなくて、それで結局3カ月やったんです。本当は3カ月後から本格運用が始まる予定だったんですが、僕に限らず他のエリアの方も取材ができなくて、結局、3カ月でプロジェクトが挫折して、仕事がなくなると。
その後、「全国市長会の機関紙を作る仕事をやらないか？」という話を頂きまして、それで2年半くらいずっと、そこの編集者をしていて、その後で独立して今に至るという感じですね。
「オフレコだ」と言われて書けない理由
大谷：今のお話を伺っていると、皆さん、学生時代から記者というか「書く仕事」に就きたいと考えて活動されて来られたようなんですが、この前、松本龍・復興担当大臣が「これはオフレコだから書くなよ」と言いました。もし、皆さんが大手新聞の記者になってたとしたら、「こういうことを訴えたい」というところと、「会社としては書けないこと」みたいな違いも出てくると思うのですが、今、フリーランスでやっていてそういうことを感じることはありますか？
須田：うーん。今までお話を伺ってきて思ったのは、残念なことながら3人とも当初はジャーナリストの落ちこぼれ軍団。劣等生なわけですよ。
畠山＆小川：（笑）
須田：一方でエリートコースがあって、一流大学で優秀な成績を収めて、相当の難易度の高い試験を突破しなければ、新聞記者やテレビ記者になれない。すなわち記者クラブのメンバーになれないわけですよね。そうすると、取材する側もされる側もエリートなわけですよ。持ちつ持たれつなところがあって、「（大臣が）オフレコって言ってるんだから、これはオフレコにしといた方がいいんじゃないかな？」とか、「彼も困ってるんだから配慮しない」と言った身内意識があるんですね。
そこ行くと、我々は身内意識がこれっぽっちもないですからね（笑）むしろ足を引っ張ってやろうという感じですから。そこは組織ジャーナリズムかそうじゃないかってこと以前に、利害関係ってところでは大きな違いがあるんじゃないかと思いますけどね。
畠山：あと、記者クラブに限らずですけど、新聞記者の人って毎日毎日、取材しなきゃいけないじゃないですか。（番記者だと）毎日顔を合わせてる人なので、「機嫌を損ねたら明日からつきあいにくいな」という思いもあると思うんですね。僕みたいに週刊誌の記者なんかをやってると、一発この人に取材してやり逃げなんてのも、中にはありますね。
僕の場合は政治の取材をやってることもあって、「関係を悪くしたくないな」って感情はもちろん働くですが、毎日ってわけじゃないので、一ヶ月後に何くわぬ顔で取材するってことができるんです。でも毎日、会社員として「ここにいなければいけない」と思う人の場合は、（心の）ブレーキが働くのかな？と思いますね。エリートになったことがないので、想像でしかないんですけれど（苦笑）
小川：僕は逆に、さっき言った市長会にいたので、「オフレコにしてくれ」と頼みに行く側だったので、先ほどの松本さんの気持ちが分からないでもないんですね。前に土屋義彦さんという方が埼玉県知事を務めていたんですが、元参院議長が辞めてから県知事になったんで、「こんな立派な人が知事になってくれるんだ」っていうくらい神様のように崇められていた人で、その人が娘さんの金銭事件で辞めてしまった。それは埼玉県政の中ではみんな知ってた話だったんだけど、ある意味オフレコだった、触っちゃいけないところだったと。でも、それが白日の下にさらされたときに、土屋さんはお辞めになったと。
だから今回の松本さんもそうなんですが、新聞社の人は取材対象者に対して、多少、空気を読むというところがあって。僕も市長会にいたときも「これは勘弁してください」と言われたときに、「（代わりに）こういう面白いネタがあるんで」とか意外と食いついてきたりしたことはありましたね。
須田：あと、僕は最近感じるんですけれど、かつてはねー、記者クラブの中でも「オフレコだ」なんて言われてもそれを素直に受け取る記者なんていなかった時代もあるんですよ。要するに取材対象者に厳しく切り込んでいくというね。最近の記者クラブの会見に出ると、パシャパシャとパソコンのキーボードを打つ音しか聞こえない。マシーンなんですよ、記者が！
畠山：キーパンチャーみたいな……。
須田：そんなんだったら、（会見に）出てこなくたっていいじゃねえか！ってくらいにね。要するに、質問もしなければ問題意識もなく、何でこんなレベルが低くなってしまったのかなぁと。ですからそこで、オフレコうんぬんの以前の問題として、記者として物事を判断したり問題意識を持つというところが、ほとんど抜けかけている。まるで新聞社やテレビ局に所属するロボットが会見に出てきてるような印象を持つんです。そんなような状況になっています。（記者の質が）ものすごく劣化しています。
畠山：記者が質問しないですよね。あんまりね。
小川：会見に行くと、質問する記者って決まってますよね。大体。
フリーランスに門戸を閉ざす記者クラブ
大谷：今、「記者クラブを開放してくれ」って話があって、それこそフリーランスの方ももっと参入していきたいってのがあると思うんです。でも、会見を開く側からすると、やっぱりきちんとした新聞社で身分が保障されている方の方が安心できる。「誰でも彼でも」となってしまうと、「どんな質問が飛んでくるか分からない」という怖さがあるのかもしれないですね。
畠山：逆に言ったら、政治家の場合だったら有権者の代表なわけですから、どんな質問が飛んできても答えられなきゃまずいですよね。記者クラブは本来「情報を出せ」と迫る側なのに、クラブの側が自ら「どんな質問をされるか分からないから、来る記者を選ぼう」とするのは、方向として逆なんじゃないかと思うんですよね。
たとえば物理的（室内スペース的）に中に入るのが難しいのであれば、代わりに幹事社が引き取って会見で代理で聞いてあげたっていいわけです。そうじゃなくて、「こういうことは聞かないでください」と言ってくるような記者クラブもある。
総務省の記者クラブが総務大臣の記者会見をやっていたときに、フリーの記者が質問や撮影ができない、という制限を抱えていました。勝手なルールなんで、こちらとしては一年間は仁義を通ました。「撮影させてくれ」「オブザーバーの記者にも質問させてくれ」と言ってきたんですが、一年間ずーっと無視されてきた。クラブ総会でも「検討しない」と言われた。それで「一年たったから申し訳ないけど、協定を破りますよ」と、勝手に撮影を始めて、普通にインターネット中継したんです。
そのときに、会見の途中で「何をやってるんですか！」と怒られて、質問のやり取りになって、貴重な時間を失ってしまいました。その後に、クラブの側が話し合って、クラブの側の見解というのを出してくるんですけど、その中で「記者会見のオープン化など、記者クラブ問題について度重なる質問をすることで会見の進行に支障を来たした」と言ってきました。いやいや記者クラブ問題は重要だと思っているから何度もしているのに、質問内容についてまで記者クラブの側が制限を加えようとするのはおかしいと今でも思っています。
小川：先ほどの松本大臣の話に戻るんですが、「記者クラブのせいであのようなオフレコ発言がまかり通ってきたんだ」という言われ方もするんですが、逆に言えば僕らのような人を入れちゃえば、会見の最初から最後までを流すことが可能になるわけですよね、
「宮城県知事が自分を待たせた」ってことで怒っていたらしいんですが、それを全部記録されていれば視聴者が判断できるわけなんです。松本龍さんは「全部を見て頂ければ、僕はそんな失礼なことを言ってない」と言うんですが、テレビ局が全部を流すわけないんで、どれを流すか流さないかはテレビ局の裁量に任されています。
「全部を見てくれれば分かる」というのだったら、そもそも全部を記録させていただかないと。（会見を開く側が）自分の身を守るためにも、本当は記者クラブじゃなくて、僕らのようなフリーランスやインターネットメディアを入れたりして、全部を記録するということを考えとくべきだったと思うんです。
畠山:でもあれ、全部記録していたら「知事が遅れてない」ということもバレちゃうのでは。
小川：バレちゃいますけどね（笑）
取材する側のリテラシーが問われる時代に
大谷：その話でいうと、昨年、小沢一郎さんが（政治資金の）疑惑が持ち上がったときに、ニコニコ動画に単独で出演されました。そのときの小沢さんの意識としては（既存のマスコミでは取り上げられる箇所が）部分的になってしまうので、自分の言いたいことを100%言い切るにはやはりネットだというご判断があったかと思うんです。
また、情報を受信する側も新聞やテレビだけではなく、ツイッターやネット中継で全部受け取れるという風にもなってきました。そうした中で、取材されていて何か変わったという風に感じることはありますか？
畠山：東京電力の会見でいえば、最初の頃は狭い部屋に記者をダーっと連れ込んで、勝手に質問を始めて勝手に答え始めるというのがしばらく続いていたんですが、それじゃ収集がつかないということで、東電の側が「挙手してお名前を言ってください」と言ったら、急に質問がガクっと減って記者会見がすぐに終わっちゃうというようなことが当初はあったんですね。
記者の側が「自分がどんな質問をするか」ということにあまり意識がなかったんですね。それは各省庁の大臣記者会見の会見録を見ててもそうなんですが、記者の名前ってほとんど出ないんですよ。ただ、問いと答えだけ書いてあって、どこの誰が質問したかってのは出ないから。だから、「えっ、こんなことも大臣に聞いてるの？」ってことまで質問しているんですね。
法務省の記者会見で「七夕には短冊に何を書きますか？」って2名連続でしてたりするんですよ。そういう意味で、どういう質問をしているのかってのが情報の受け手には分からなかったんだけど、ネット中継されることによって質問する記者も厳しい目にさらされるようになった。「また同じ質問してるよ！」とか言われて、どんな情報を大臣から引き出すかっていうことを記者の側かも考えなくちゃいけない時代になってきたかなと思います。
大谷：会見に誰でも入れるようになったことで、逆に取材する側のリテラシーや問題意識もどんどん淘汰されるようになると？
畠山：本当にニコニコ動画とかだと、質問している最中に「また下らない質問して！」とか、僕が質問している最中に「ヒゲ」とか「モミアゲ」とか突っ込みが出るわけですよ。まあ、モミアゲはどうしようもないんですが、質問の質は高めようと思えば高められるわけで。そういう意味では当たり障りのないことを答えて、わざわざオフレコにしなくてもいいようなことしか出てこなかったのが、もう少し質の高い情報が出るようになってくるんじゃないのかな。
「テレビもネットを意識するようになった」
大谷：須田さんはテレビの出演を非常に多く出てらっしゃいますが、テレビは変わってきているという印象はありますか？今回の討論のように、USTREAMなどで簡単に動画配信できる時代になっているわけですが。テレビ局や番組制作の上で変化はあるのでしょうか？
須田：はっきり言ってね、あんまり「変わったなー」という意識はないですよね。ただ、結果論として、ある意味での棲み分けが出来てきた。テレビや大手メディアが変わったとすれば、ネットメディアを意識するようになったことですね。ネット上でどう伝えられているのかということを、テレビにしても他のメディアにしても、気にするようになりましたよね。
ただ単純にテレビの向こうにいる人ではなくて、あえて軌道修正であるとかニーズを求める作業をするようになってきた。視聴率だけが指標であるというところから、少し変化は遂げてきたかな、と。
でも、作る側がどう内容を変えていくのかが問われることになりました。かつてアメリカのビジネスモデルっていうのは、「テレビ画面の前に何時間も人を座らせておくためにはどうすればいいのか？」ってところから始まるわけですよ。「3時間、4時間座らせておくためにはどうすればいいのか？」と。インターネットも同じだと思うんですね。そうすると、今はインターネットを見てるのか、テレビを見てるのかを区別してないはずなんです。テレビ朝日なのか、ニコニコ動画なのかを区別しなくなっている。
その中で、テレビとしてどういう物が提供できるかを考えていかないと（視聴者から）見捨てられるような時代になってきていると思いますね。
「自由報道協会」が誕生した経緯は
大谷：やはり地震が起きたときなどに、テレビの速報が便利であるとか、我々はネット企業なんですがテレビの強さも感じたのですが、そんな中で、最近はYouTube発であったり、Twitter発の情報をテレビが流すようになってきました。ネットもテレビも、それぞれ弱みもあれば強みもあるという風に分かってきたところだと思いますが、ネットの弱みというのは、たとえば畠山さんは自由報道協会をやられていてありましたか？
小川：その前に自由報道協会の説明をしないと（笑）。いきなり出てきたので視聴者の9割5分くらいは知らないのではないかと。では、暫定広報の（畠山さんの）方から……。
畠山：そういう団体があるんです。
（一同笑）
畠山：今年の1月27日に、小沢一郎さんの記者会見をやったんです。それは、今まで記者クラブが主催していた大手メディア向けではなくて、フリーランスやインターネットメディアの記者が主催したんです。なんでこういうことをやったかというと、各官公庁の記者会見は、各省庁の記者クラブが主催をしているからです。
先ほども少し申し上げましたが、記者クラブ以外の記者は質問ができなかったり、撮影ができなかったりとか、庁舎の中に入ることすら許されない警察署とかですね。検察は去年、フリーの記者の中でも数人が入れるようになりましたけども……。基本的には記者クラブも官庁の側も、「新聞・テレビ・通信社以外の記者は記者じゃない」という扱いで、取材の機会を与えてこなかった。
で、民主党は政権交代前には「政権交代したら取材の機会をみんなに与えるのが当たり前だ」というスタンスだったです。ところが蓋を開けてみたら、そうはなってなかった。これまで民主党の記者会見はオープンだったんですが、政権を取った途端に、今までは取材が出来ていた人も取材ができなくなってしまったので、「これは良くない」と思ったんです。
それで、「フリーやネットの記者が会見を主催して公人を呼んできて、誰もが取材源を十分に与える会を作ろう」ということになりました。メディアではなくて記者会見を主催して、そこにニコニコ動画も来ればライブドアも来れば、ビデオニュースドットコムも岩上安身さんも来るといった具合に情報のアクセスへの誘導だけはちゃんとしないと、「日本という国はまずいよ」ということだったんです。
それを公的機関ではなく、フリーの記者の下層の下層の方がやらなきゃいけなかったというのが、日本のすごい不幸なところだったと思うんですけど（苦笑）。それで立ち上げたのが自由報道協会でした。
これで自由報道協会の説明は終わりなんですが、ご質問はなんでしたっけ。「自由報道協会はけしからん」ってことでしたっけ？（笑）
大谷：いえいえ、受け手の側にとってもチャンネルが非常に広がっていると。BLOGOSでも自由報道協会さんの会見に出させていただいて、この前、ロシアの科学者の方の会見を記事にしたところ、「テレビや新聞に載らない情報だ」ということで非常にアクセスが好調で、広く読まれました。我々としても、「自由報道協会さんでやっている会見がユーザーさんに強く求められているんだな」と実感しました。
記者クラブ制度もたらした「情報の独占」
須田：今までの記者クラブ制度って「情報の独占」なんですよ。それが自由報道協会であったり、インターネット系メディアの報道によって解放されてきていると。要するにアクセス権というのは、フリーランスのジャーナリストがアクセスする権利ではなくて、要するに情報の受け手がそのアクセスする権利なのだと、僕は認識しているわけなんです。
ですから、いいとこ取りや繋ぎ取りをする既存メディアに対して批判があったのは、全部を公表せずに情報を囲い込んできたところにあったんですよね。それを「全部さらけだしちゃいましょう」というのは、既存メディアにとって恐怖以外の何者でもないし、そこは徹底的にガードがかかってくるんだろうなぁと思いますね。
畠山：テレビ局と新聞社が資本関係にあるというクロスオーナーシップの問題もあると思うんですが、（総務省の）会見の中では激しく質疑応答がなされているのに、実際の紙面や番組では全く報じられない。
すなわち、この問題が「なかったこと」になってしまう。記者クラブが、各省庁の中に広い記者室を借りていて「新聞・テレビ・通信社以外の記者は入れない」ってやってることすらも、普通の人はご存じない。その「報じない」ということがそもそも権力であって、彼らのビジネスモデルの一端だったわけですけど、それとは違う情報の流れが出来つつあるのかな、と思うようになっています。
須田：一部のメディアは記者会見の一問一答のやり取りをワンパッケージにして売ってるのよ。そんなことをネット上で全部公表されちゃったら、商売上がったりなんで。
小川：それともう一つは、今までの既存メディアは「何を報じるか」ではなくて「何を報じないか」ということが分かったんですね。今までのオフレコ発言に近いところがあって、「何を報じないか」は非常に重要な問題です。横並びで「これは大臣に申し訳ないから報じないでおこう」と、自主規制みたいな物がかかってきて、結局、知りたい情報が（世間に）知られないわけです。
そもそものメールマガジンの話に戻るんですが、そういうことがメールマガジンの誕生によって、個人それぞれが発信できるようになりなす。「何を報じないか」という自主規制や公権力者による規制が、ほとんど利かなくなってくる。つまり、これからはBLOGOSのメールマガジンの時代になってくるであろうと。
（一同笑）
オフレコの体をなしてなかった松本発言
須田：さっきの松本龍・復興大臣のオフレコ問題なんだけど、あれはオフレコの体をなしてないんですよ！
（一同笑）
須田：オフレコってのは「これから言う話はオフレコだよ」って言ってから、取材する側が「オフレコだけど聞きたいなぁ」という合意があってこそオフレコが成立するわけであって、一方的なオフレコなんてない。そもそもレベルが低すぎるんだよね。大臣自体が、勘違いしているというかバカというか。
その彼の言動を報じないというのは、マスコミとして本当にレベルが低い話であって。記者会見ではなくて一対一の取材の中でも「オフレコだよ」ってケースはよくあるんですけども、それを一切報じないのかというと、我々ジャーナリストはそうじゃない。それを何とか報道する方向で苦労するんですよ。だから、「財務省関係者によると」とか（取材源をボカすようにしたり）。要するに苦労してるんです。
「オフレコだったら聞かなくても結構」と、はねつけるのか。正々堂々と破って、今後はオフレコの情報がもらえないのを覚悟でやるのか。それは我々にとっても非常に悩ましいところではあるんですよ。
メールマガジンだからこそ書けることがある
大谷：松本大臣の話は別にしても、大手メディアとかだとスポンサーの問題などのお約束で言えないこともたくさん出てくると思うんですけど、フリーランスの強みでいうと、そういうところがないから、恐れずに報じることができるのでは？
畠山：うーん、そうとも限らないですね。既存の媒体……雑誌なんかでも書けないことって結構あるんですよ。大きな広告主が入っている企業のことを、たとえば、僕ら個人個人は「これは問題だ」と思って取材をしていても、営業の方から「うちではダメです！」と言われることが多かったんです。
ただ、今までは（僕らが）メディアを持っていなかったから、「よし、単行本にするときに書くか」ってくらいしか出来なかったんですけど、メールマガジンやウェブだったりで、たとえば須田さんでしたら須田さんご自身がメディアになれる。自由にルポができるっていう。そういう意味での分岐点にはなってますね。
大谷：そこはネットが出てきたことによって、情報も出しやすくなったし、受け手の側にとってもアクセスしやくなったということは言えると思います。そこで、またメルマガの話になるわけですが……。
（一同笑）
須田：非常に安いコストでツールを手に入れたという点では、メルマガっていうかインターネットの情報の送り方っていうのは、ものすごい画期的だと私は思いますよ！今日お話したかったのは、メルマガ的な物ってのは何も最近起こってきた物ではなくて、ちょっと歴史をさかのぼってお話したいと思います。
メルマガの前身というので、ニュースレターというのが、かなりありましてね。高野孟（たかの・はじめ）さんの「インサイダー」をはじめとして。意外にお金がかかるんですよ。印刷して出すまでに何十万円ってかかる。とてもじゃないけど、今やれっていうのは無理かなぁと。
高野さんは紙媒体からいち早く、ネットのメルマガに切り替えていったんじゃないかな。当時はネットの黎明期でしたが。それでも今は、ここに集まっている3人が3人ともメルマガが持てる時代になったんだあなぁと感慨深いですね。
畠山：本当にインターネットって安くていいですよね。前に小沢一郎さんの会見をiPhoneで中継したときにも思ったんですけど、多くのテレビカメラが何億円とかかってる中継車からケーブルを引っぱってやってるところで、iPhoneで中継しちゃったんですよ。「インターネットって安くていいな」と実感しました。
今までは大資本じゃないとメディアを持てなかったのに、今は個々人が安い値段で下手したら無料で出来て、さらには購読してくださるお客様がいるというね。お金がいただけてしまうという時代になったということは、僕みたいに低空飛行を続けてた人が内容さえ面白ければ、急上昇することが可能になったという意味では、すごい下克上の可能性を秘めた面白い世界になってきましたね。
特別な訓練を受けてなくても、視点が独特だったり商品として耐えうる物であれば、いろんな人が情報の発信者になれるという可能性を秘めてますね。
一巡して「メールマガジンの時代」に
小川：それはさっき須田さんがおっしゃってたように、ニュースレターがメルマガに移ってきたというのも一つなんですが、社会的なインフラ整備……。さっき言っていたようなテレホーダイからADSLから光回線になったり通信網のインフラが整ってきたことで、メールマガジンもまた再び光を浴びる媒体になってきたと思いますね。
10年くらい前にメールマガジンのブームがあったんですが、それが一時期「いやいや、メールマガジンなんて金出して読まないよ」なんて時代になったんです。それが一巡して、「やっぱりメールマガジンの時代でしょ」となりつつあるのかな、って気はしますけどね。
須田：それとメルマガってのは、記者クラブ制度と車の両輪だと思うんですよ。記者クラブ制度のオープン化と。記者クラブ制度はさきほど、情報の独占って意味があると先ほど申しましたが、もう一つ大きな役割があって、既存メディアの「記者を育てる」って意味合いがあるんですよ。
記者クラブの中に新米記者を放り投げることによって、いろいろと影響力のある人達とのやり取りを通じて、取材のやり方を学んでいくわけです。どっちかというと、記者クラブに所属している記者さんって若いでしょ。
ですから、ベテランになってくると、そこで学んできたことを別の形で生かすようになるわけです。それがなぜ既存メディアだけに独占されているのかっていう問題意識があってね。若いフリーランスの人達が出てくるためには、メルマガっていう発表媒体があることも必要。もう一つは熟練度を上げていくためにも（メルマガを）積極的にツールとして活用していく必要があるんだと思いますね。
大谷：その点はシビアな面もありますよね。お金を払って頂くためには中身の問題に気を遣いますからね。
（一同笑）
小川：逆にテレビってスイッチをつければお金を払わなくていいわけじゃないですか。そうするとテレビの作り手っていうのが、段々と視聴者に向かなくなってきますよね。視聴者を気にしてるのに、視聴者を向いてないというか。スポンサーに配慮するばかりになってしまう。
須田：おっしゃる通りです。今回の福島第一原発の問題にしても、東電に関しては今はフリーですよ。タブーがなくなっちゃった。でも、かつては東京電力というのは、ものすごい大スポンサーだから絶対的な批判とか論評は出来なかったんだけども……。
その一方で、関西電力、中部電力、電事連（電気事業連合会 ）なんかは未だにタブーですよ。その辺はテレビを見ている方も分かって見ているのかなぁと気になってしまうんですね。その辺はメルマガの可能性というか、生きていく道は十分にあると思いますよ。
視聴者がそうしたことに気づいたときに、既存メディアにとっては「恐ろしい」と感じるような激変が起きると思いますね。
鍵を握るのは「受け手の人数」
大谷：ツイッターなどでもそうなんですが、情報の受け手の側が、自分で情報を探しにに行くようになっている気がするんですね。そこでさらにお金を払うというのが課題というか、どう敷居を下げるのかというのもポイントになってきます。
畠山：情報を探しに行く人にとっては、ものすごくいい時代になってきてると思うんですね。海外の情報だって知ることができるし。ただ、既存メディアがなくならない理由が何かって言うと、見てる人が圧倒的に多いので、ネット上で自分から能動的に情報取りに行く人というのは、それに比べるとまだまだ少ないんです。
（ネット上で）お金を出して情報を得ようとする人が百分の一くらいって言われてます。大体そんな感じなのかなって気はしてますけど、情報が伝わる人ってのは少なくなっちゃうんですね。
テレビを見ている人と同じくらいネットを見る人が増えてくれば、メルマガとかインターネットメディアで食べていけるようになる。食べていけるということが分かれば、どんどん参入して、またそこで競争が起きて裾野が広がっていくということはあると思います。
既存メディアとネットメディアの最大の違いという点でいえば、やはり視聴者の数ということになりますよね。ただ、これから定年を迎える方も、会社時代にネットに接していた方が多いので、これからはネットを使う人の数が減るということはないと思います。
小川：そういう意味でいうと、たとえばテレビの視聴率ってのは1％で100万人って感じなんです。視聴率1％というとテレビ界でいえばものすごく低いんですが、たとえば僕のメルマガは月100円なんですけど、100万人が買ってくださったら月1億円になるんですね。そしたら、余裕で生活ができちゃう（笑）
もちろん、そんなことはあり得ないんですが、逆説的には言えると思うんですよ。百万人の視聴者では成り立たないけど、100万人の読者だったら余裕で成り立つんで。成立しやすいメディアだとは言えるんじゃないでしょうか。
大谷：まさに「メルマガで新時代が来たな！」という感じの一時間でございました。本日は、須田さん、畠山さん、小川さん、本当に有難うございました。
一同：有難うございました！
放送概要
番組タイトル：BLOGOSメルマガ誕生記念「新しいメディアとジャーナリズム」
放送日時：2011年7月12日（火）夜9時～10時
番組URL：http://blogos.com/feature/
ニコニコ生放送：http://live.nicovideo.jp/watch/lv55676465
出演者
須田慎一郎（すだ しんいちろう）
1961年東京都出身。
夕刊紙、週刊誌での執筆、テレビでのコメンテータとして活躍。政界、官界、財界での豊富な人脈をもとに、数々のスクープをものにしてきた。
畠山理仁（はたけやま みちよし）
1973年愛知県生まれ ▼早稲田大学在学中の1993年より週刊誌を中心に取材活動開始▼興味テーマは政治家と選挙▼2010年12月1日、オープン化が進む政府記者会見の現場をルポした『記者会見ゲリラ戦記』（扶桑社新書）を上梓
・メルマガ そこそこ週刊 畠山理仁｜フリーランスライター畠山理仁のブログ
小川裕夫（おがわ ひろお）
メインテーマは総務省・地方自治のライター・カメラマン
・メルマガ 今週の小川裕夫｜小川裕夫 １００％宣伝BLOG
