【特集：震災から100日（２）】避難所インタビュー：放射能でダメならダメって、はっきり言って欲しい。 - BLOGOS編集部
※この記事は2011年06月21日にBLOGOSで公開されたものです
被災地インタビュー その２緊急時避難準備区域に該当する、南相馬市原町のご自宅から、24kmほど。福島第一原発周辺地域からの避難所、福島県相馬郡新地町の駒ヶ嶺公民館へ戻る酒井さんにご一緒させていただきました。【取材・構成 田野幸伸（BLOGOS編集部）】
酒井咲依さんには小学校4年生と2年生の2人のお子さんがいらっしゃいます。
避難生活の実情
－いつからこちらの避難所に？
4月15日に避難してきました。編入先の駒ヶ嶺小学校が4月13日の始業式で、それに合わせて。桜が咲き始める時期でまだ寒く、ストーブがないと無理でしたね。私たちは後から入ってきたが、その前から避難している方も沢山いらっしゃいました。
－お風呂はどうしてるのですか？
最初は3日に1回自衛隊がバスで迎えに来て、新地町にある「憩いの湯」に行っていた。午後3時半頃に迎えに来ていた。でも3時半だと仕事帰りのご主人や、学校帰りの子供たちも間に合わない。そこで、自衛隊に要望したら、相馬市にある避難所の中学校に自衛隊の設営したお風呂があって、そこへ夕方6時45分に連れて行ってくれるようになった。最近は毎日迎えに来てくれる。ただ、仮設住宅が完成して、相馬市の避難所から人がいなくなるので、そのお風呂も撤収されてしまいます。私たちは仮設に入るまでは、町の有料施設を利用することになります。出費は痛いですね。
－食事や洗濯は？
5月いっぱいまでは、東京から自治労の人たちがボランティアで来てくれていて、24時間体制で2人ずつ泊まっていてくれた。その人たちがお世話をしてくれて、その日避難所にいるメンバーで炊事室でご飯を作った。洗濯は2台洗濯機が用意されていて、順番に使ってます。早いもの順ですね。ここは（放射線の影響が少なくて）外に干せるから、何とかなってます。
ここで、同じく避難している別のご家族も合流してくださいました。多嶋春江さんは5年生と年長さんのお子さん、十河麻理子さんは年少のお子さんと、お腹に赤ちゃんがいます。
－いつからこちらの避難所に？
私たちは3月の終わりぐらいに入りました。同じ原町からバラバラに避難してきていて、たまたまご近所が集まった。やはり、子供への放射能の影響を考えて、避難してきた。主人の仕事場（火力発電所）との距離も近かったので、ここにしました。なんだかんだ3ヶ月近くいますね。
－新しい学校に子供達はすぐ慣れた？
イヤだと言っていたけど、慣れるしかないでしょと言った。下の子はまだ幼稚園で、金銭面に不安があって新しい幼稚園に入れられず、やっと入れる幼稚園を相馬に見つけた。避難所のすぐ隣に保育所があるが、費用が高くて入れられない。今まで月に1万円くらいだったが、このあたりでは2万円だった。ムリだった。来年小学校入学だけど、隣町の学校なので、友達が回りにだれもいない。それが心配。
－仮設住宅は決まりましたか？
申し込みはしました。新地町（避難してるところ）の人が優先で、余ったところに入るから、まだはっきり決定はしてない。申し込んだ仮設は同じ町内だが、学区が変わってしまう。子供がまた転校する事になるので、悩んでいる。せっかく慣れたのに・・・
同じ学区の仮設住宅を希望していたが、建設予定地に地割れが見つかって、数を建てられなかった。なので、転校が必要になってしまった。地割れの上には住めないし・・・
原町から5人、浪江や各地から合わせて20人くらい転校してきている。今は1学年1クラスで30人くらい。次に行く学校はもう少し大きい。
仮設に入れるかどうかは直前まで分からない。入居日の2日前とかにわかる。私たちには情報が入ってこないから。南相馬市にも仮設住宅は建っていて、そこを希望する人もいる。私たちは「自主避難」自分で決めて自分で行動しろと言われている。だけど、子供と妊婦とお年寄りは帰ってくるなと言われた。避難しろとは言わない、自分で決めろと言う。国から費用も出ないし補償もない。市の言うことも変わるし・・・
－避難生活は何が大変ですか？
朝は6時にカーテンが空いて、消灯は10時。他の避難所から移ってきたし、慣れたね。ぜんぜん平気。自炊は大変かな・・・。最初は食材も少ししかなく、ある食材で献立を考えないといけないから大変だった。食材は町役場で一括支給される。最近ようやく、「材料は何が欲しい？」と希望を聞いてくれるようになった。
－その中でも一番大変だったのは？
人間関係・・・・
写真一覧
－子供は避難所にすぐ慣れた？
子供たちの適応能力はすごくて、すぐに慣れた。ただ、小さい子はいいが、上の5年生の子はストレスでおなかを壊したり、具合悪くて病院行ったり。遊んでいる間は大丈夫なんだけど、だんだん心に積もってくるらしく。たまに愚痴をこぼしてます。大人もみんな、ストレスが溜まるから、日中は外に出ることが多い。ここにずっといたら、おかしくなっちゃう。小さい子がずっと走ってるし（笑）
子供達も最初はＴＶが見られないことに不満があったみたいだけど、体を動かして遊ぶのが楽しいらしく、もう、テレビはあっても見なくなった。友達とずっと一緒に遊べるのがいいみたい。外で遊ぶのは親的には心配なんですけど。
－余震は大丈夫でしたか？
余震も慣れたねー。最初は地震速報があるとテレビに集まっていたけど、ちょっとの揺れじゃ動じなくなった。子供たちも揺れると笑ってた。毎日だったから。心配は放射能、子供の将来にどう影響が出るのか、誰もわからない。大丈夫だって言われても、信じていいのか。子供は川に行って遊んだり、土を触ったりするし、危機感がない。
－仮設住宅に入れると、一区切りになりますか？
仮設住宅はプライベートな空間が出来るし、お風呂も入れるけど。出費が大変。電気・水道・ガス・食費。家賃以外は全て。仮設に入ると食料ももらえなくなる。それが不安。仮設への引越しも自己負担。トラックを手配する人もいるし、自分の車で往復する人もいる。避難所に入ってしまえば、20キロ圏内の人も同じ条件。自分でやらないと。
－十河さん、出産のご予定は？
来月7月29日頃です。
－もうすぐじゃないですか！？ 仮設住宅の優先入居とかないんですか！？
優先順位には入っているんですけど、結局最後まで残ってしまって・・・ここの避難所が自分の町じゃないから、結局みんなと一緒になってしまったんです。
－3ヶ月で避難所の様子も変わりましたか？
この避難所も少しずつ減ってきた。36人くらいいたけど、今は26人。避難所は物資置き場にもなっていて、仮設住宅に持っていく布団が山積みになっていた。遊ぶスペースはあまりなかった。子供は上がるなって言っても布団の上に上がって怒られるし（笑）ぺ･ヨンジュンからの救援物資も積んであった。私たちは見ただけで、どこかに運ばれて行ったけど・・・
避難所の放射線量は微弱だった。 写真一覧
－お子さんの体調に変化は？
アトピーがひどくなったかな。布団もあまり干せないし。夜泣きとかはなかった。
－新しい学校に何か言ってますか？
最初は、ここの学校が新しくて綺麗で喜んでいたが、最近は前の学校の友達を思い出して、ここでは友達が作れないと言っている。私たちはまだ20キロ～30キロ圏なので、車で家に帰ることは出来るが、同じ避難所にいる浪江町（20キロ以内）の人たちは家にも戻れないから大変。浪江から避難してきている柴田七楓ちゃん（５才）は幼稚園に行きたくないって毎日泣いたり、（来年からの）小学校にも行きたくないって、大変だった。
※横にいた七楓ちゃん：「ともだち、できたもん！」
今は友達出来て、よかったなあと思いますが。
－今、望むことは
安定した生活を下さい。不安な状態を何とかして欲しい。安心して帰れる家が欲しいんです。仮設も2年間しかいられない。この町には賃貸物件もほとんどない。だから、元の家に戻るしかないが、それまでに原発が収束するのか。2年後行き場がないのはどうしたらいいのか？
原発が納まらないことには帰れない。今の状態で帰ってもいいですよと言われても、もし、何かあったら、どうしていいのか分からないし、逃げる道路もないし。ここにいても何かあったら逃げられないんですけど・・・だから、ＴＶとかでもはっきり言って欲しいです。「ダメならダメ」って。隠さないで、「ダメです！逃げてください！」って言えば納得する。
放射線を測る線量系も私たちはもらえないし、だから、ＴＶで言ってる数字を信じるしかないんだけど、実際測ったら報じられているよりだいぶ高くて、ふざけるんじゃないと。はっきり言ってくれれば、みんな自分で考えるのに。中途半端が一番困る。役場は「大丈夫です」しか言わない。私たちはまだいいけど、妊婦や子供はどうするの。
（妊婦の十河さん、お腹をさすって）へんな子生まれたらどうしようね。大丈夫って言われてもね。
ま、今は「なるようになるさ」と思ってるけどね。ここまでくれば。
－仕事は見つかりそうですか？
しばらくは失業保険が出るのでいいが、その後心配だから、仕事は見つけたい。でも、震災前と同じ条件で仕事が見つかるとは思ってない。正社員はかなり難しい。仮設を出るまでの2年間で、最低限家に帰れるように、何とかして欲しいですね・・・
原発が何とかなれば、仕事も、学校も何とかなってくる。とにかく、原発を・・・
取材を終えて
約1時間のインタビューの間、公民館ではずっと子供達が走り回り、大勢で一つのボールを追いかけていた。ＴＶも携帯ゲームもないけれど、とても楽しそうだったのが印象に残った。
隣町からの避難者には、妊婦でも仮設住宅の割り当ては一番最後。大人でさえこうなのだから、子供達が「余所者」として学校に馴染むのは大変だっただろう。仮設住宅への入居が決まれば、ようやく慣れた学校をまた転校しなくてはいけない。無邪気な笑顔に、心が痛んだ。
（つづく）
【関連記事】
・【特集：震災から100日（１）】福島・緊急時避難準備区域の住民インタビュー～90年生きてきて、野菜を買って食べるのは初めてだ～
・【特集：震災から100日（３）】都市型災害 仙台で何が起きていたのか
・【特集：震災から100日（４）】2年続けて津波に襲われた離島を救う、地元のオリンピック選手たち
・【特集：震災から100日（５）】震災1ヶ月で再開した宮古市魚市場～生き残った11隻のトロール船～
・【特集：震災から100日（６）】テント商店街から元気を「仮設の町」誕生
