韓国の文在寅が「歴代大統領最高支持率」で任期満了の謎を探る
2022年5月9日の任期満了まで、文在寅(ムン・ジェイン)氏は歴代大統領の中でも稀に見る高支持率を維持した。「韓国の大統領は悲惨な末路を迎える」というジンクスがささやかれる中、なぜ最後まで4割以上の国民から支持されていたのか。
■終盤も4割以上が支持
世論調査会社韓国ギャラップが大統領選4日後の2022年4月18日に発表した調査結果によると、文氏の支持率は42%と選挙前からわずか3ポイント後退したのみだった。1987年の民主化宣言以降、任期終盤まで30%以上の支持率を維持した初めての大統領として表舞台から去ることになった。2017年に81%という高支持率で政権を握った文氏は、就任期間一貫して35%を上回る支持率を維持した。
しかし、支持者以外から見ると不可解なのは、高支持率の理由である。
前述の調査ではその理由として、「外交・国際関係(19%)」「新型コロナへの対応(15%)」という回答が多かった。しかし、文政権下では執拗な反日政策により、日本との関係は「国交正常化後最悪」と言われるほど悪化した。国際舞台でも数々の失態を犯し、他国から嘲笑を買っている。
自慢のコロナ対策「K防疫」はウイルスに難なく突破され、2022年3月中旬には1日の新規感染者が40万人を超えた。1週間の死者数は1日平均230人、重症患者数は1,244人と過去最多を記録し、欧米をはるかに上回る世界最悪規模となった。
文氏が注力してきた北朝鮮融和政策も暗礁に乗りあげ、両国の協議すら進まない状況だ。また、過去5年間で首都圏の住宅価格は2倍に高騰し、「ヨンクル(魂=借金)をかき集める」が流行語になるほどマイホームを手に入れるのが困難になった。
■スキャンダルまみれの文政権
それにもかかわらず、なぜ一部の国民は文氏の功績を高く評価しているのだろうか。
韓国メディアは本人や家族の大型スキャンダルがなかった点を、支持率維持の理由として挙げている。しかし、これについては側近のスキャンダルが噴出し過ぎて、文氏本人から焦点がそれたと見ることもできる。
前回(2017年)の大統領選挙中の世論操作疑惑で逮捕された金慶洙(キム・ギョンス)元慶尚南道知事、元秘書に対する性的暴行で実刑判決を受けた安熙正(アン・ヒジョン)前忠清南道知事、娘の不正大学入学や長男の米国籍を利用した兵役逃れ疑惑などで失脚した曹国(チョ・グク)元法相など、文政権はスキャンダルまみれだった。
文氏自身も就任から1年半が過ぎた2019年、元「共に民主党議員」への大統領夫人の後押し疑惑や娘婿の勤め先企業への不当資金供給疑惑など、家族絡みのスキャンダルが報じられた。
■任期末期に支持率を下げた歴代大統領
もう1つ、支持層の意向に反してまで進めた政策がなかった点も挙げられている。
歴代の大統領をさかのぼると、支持層の声より自らの政策を優先して反感を買ったり、あるいは何らかのスキャンダルに巻きこまれたりして支持率を大幅に落としたケースが多い。
在任期間中、一貫して支持率が低かった盧武鉉(ノ・ムヒョン)第16代大統領は、支持層の意に反して米韓自由貿易協定(FTA)やイラク派兵(イラク戦争中におけるイラクへの韓国兵の派遣)を推し進め、任期終盤には支持率が27%へと落ちこんだ。
一方、金泳三(キム・ヨンサム)第14代大統領は、政権末期に次男が業者から不正に資金を受け取り、有罪判決を受けるというスキャンダルが発覚した。同年、アジア通貨危機が韓国経済を直撃したことも逆風となり、支持率は6%へ下落した。朴槿恵(パク・クネ)第18代大統領の支持率は、憲法違反や収賄などの弾劾訴追の前後には5%まで沈んだ。
■退任目前に再燃した文氏絡みの「疑惑」
もちろん、熱狂的な文支持者も多数存在する。しかし、支持率維持の理由を要約すると、約4割の国民にとって文氏は「功績云々は抜きにして、特に嫌う理由がない大統領だった」ということになる。裏を返せばその「中途半端」な姿勢が裏目に出て、過半数の不支持者からはそっぽを向かれ、有権者が保守系野党に流れたとも言える。
ところが、「退任後は自然に戻り、(世間から)忘れられた人生と自由な生活を送りたい」という文氏の希望とは裏腹に、任期満了を目前に控えた中で、同氏の近辺でスキャンダルが再燃した。
妻の金正淑(キム・ジョンスク)氏の衣装代が問題視されたほか、3月の大統領選で「国民の力」の尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏に微差で惜敗した「共に民主党」の李 在明(イ・ジェミョン)氏が、土地開発を巡る不正疑惑や反社会的勢力との癒着・政治介入疑惑に問われたのだ。
このような疑惑の解明を求める声も日に日に高まっている。退任後少なくとも当面の間は、本人が望んでいるような穏やかな隠居生活を送ることは難しいとの見方も強い。
■逮捕、自殺……韓国大統領の末路
実のところ、韓国の歴代大統領には悲惨な末路が付きまとう。
前述の元大統領のほか、暗殺された朴正熙(パク・チョンヒ)第5〜9代大統領、退任後に言論弾圧や不正蓄財の罪で無期懲役刑を受けた全斗煥(チョン・ドファン)第11〜12代大統領、約10億円相当の収賄罪で懲役刑となった李明博(イ・ミョンパク)第17代大統領など、国家のトップから奈落へと一気に転落した者が多い。
前述の廬第16代大統領は退任翌年の2009年、贈賄容疑で逮捕されることを恐れて飛び降り自殺を図った。遺書には「大統領になろうとしたことが間違いだった」と書かれていたという。
■「社会の分断」という文政権の置き土産
一部の専門家は文政権について「4割の支持層だけを重視し、社会の分断を残した」と分析している。文氏の退任後の運命はさておき、次期政権は山積みの課題とともにスタートを切ることとなる。
文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)