「メルカリ」にはまる中高年が急増の「意外な事実」と「納得の理由」
■メルカリが中高年の心を捉えた理由
社会インフラとしてすっかり定着した感のあるフリマアプリ、メルカリ。利用者はもっぱら若年層かと思いきや、近年はここにどっぷりはまり込む中高年が少なくないという。
本当にそうなのだろうか。メルカリ本社に問い合わせてみると、果たしてそれをぴったりと裏付けるデータを集計していた。順番に見ていこう。
メルカリの初の黒字転換は、実はごく最近の2021年6月期。20年1月以降のコロナ禍が追い風だった。
「外出リスク、巣ごもり需要が主因です。自宅の掃除や整理整頓を機に出品される方や、在宅時間を楽しむためのエンタメ・ホビーのカテゴリー内の商品を購入される方が増えたことが考えられます」(メルカリPRグループ プロダクトPR 竹井千翔氏)
その原動力となったのは、60代以上のシニア層の利用の増加だという。
メルカリがネット上で60代以上の男女1236人を対象に行った調査では、会員1人当たりの平均年間出品数が20代の39個に対し、60代以上が72個と2倍近くに上るほか、年間の利用者数と購入商品総数がともに前年度比約1.4倍、出品商品総数も同約1.6倍と激増した。この間メルカリ側でも、発送時の梱包を簡単にする工夫をこらす、人に会わずにモノを発送できるメルカリポストを設置するなどの施策を行っている。参入の壁である「めんどくさい」を排除するためだ。
ただ、メルカリが中高年の心を捉えた理由は、どうやらその収益性、利便性だけではなさそうなのだ。
前出の調査に協力した経済アナリストの森永康平氏は、こう指摘する。
「自分が欲しいものを探して決済するだけのEコマースに対し、フリマアプリは自分が欲しいものを先に買っていた人から商品を買うことになるため、アプリ内でのコミュニケーションを通じて、自分と価値観が合う人との対話を楽しんでいることが考えられます」
■つながっているささやかな嬉しさ
それを裏付けるべく、メルカリのヘビーユーザーである都内在住の60代女性に話を聞いた。
「趣味で続けている書道の手本や篆刻の辞書などをメルカリで探します。自分の寿命も考えると、新品を買っても仕方がないですから。手本は1970年代に出版されたものによい品が多い。少し高額な専門書ばかりですが、ぜひ手に入れたいので、いいものが出品されていないかを、毎朝布団の中でスマホを見てチェックしています」
硯や墨、紙なども含めた高価な物品は、書道の師範の死後、その子や孫が遺品として出品する場合も多いという。
「使いかけのものもまとめて引き取ると、『使ってくださる方がいて、亡き祖母も本当に喜んでいると思います』などとお返事を頂けます。いずれ下の世代に譲る時が来るので、お手本には書き込みはせず、大切に使っています」
昨年末には、ある出品者から購入した書籍が別の人に配送され、別の書籍が送られてくるというトラブルがあった。取引画面から誤配を知らせ、「急ぎではないので」と相手を気遣うメッセージを添えた。すると、「てっきり怒られるものとばかり……優しい方でよかった」という返事が返ってきた。
年が明け、ずっと探していた書籍を発見。出品者を見るとまた同じ人物で、「この本欲しかったんです」「この前の方ですね。正月に実家から持ってきました」と親密なやりとりが生まれた。
「“情けは人のためならず”って本当ですね。実感しました」(前出の女性)
同調査でも、「売買相手に親近感を覚えますか?」という問いに「覚える」「やや覚える」と答えた人が計34.8%に上り、自由回答には「つながっているささやかな嬉しさを感じた」(60代女性)、「ちょっとした一言がとてもいいコミュニケーションになっていると感じる」(70代女性)、「送った商品へのアドバイスに感謝され、しばらく売買から離れた会話を繰り返していた」(60代男性)等々、コミュニケーションそのものに意義を見出しているのがわかる。
また、「利用後に意識に変化はありましたか?」という同調査の別の問いに、62.1%が「あり」と答えており、うち15.8%が利用後の意識の変化として「社会との繋がりを感じる」を挙げているのもその裏付けとなろう。前出の森永氏も言う。
「私が一番『なるほど』と膝を打ったのは、フリマアプリが新型コロナウイルス感染症によって奪われた密なコミュニケーションの場を提供し、シニア世代の孤独感を和らげている可能性があることでした」
もしそうなら、中高年の孤独を癒やす場が、いつの間にか思わぬところで生まれていたことになる。
■記憶を閉じこめたタイムカプセル
実は、メルカリはこの調査で、「老後の不安について当てはまるものをお答えください」とも問いかけている。すると、60代以上の男女の22.2%が「孤独、社会との関わりが希薄になる」ことを心配していて、「お友達と会うことができなくて寂しい」(70代女性)、「少し距離がある家族以外の友人、知り合いとの交流が一切なくなり(中略)コロナ流行前の生活には永久に戻れないのではないかと思うと気が滅入る」(60代女性)、「子供や孫たちに会えなくなり、寂しい気持ちが募った」(60代男性)と、孤独・孤立を訴える自由回答が散見された。
では、そうした孤独を物品のやり取りで癒やせるのだろうか。50代前半のある女性ユーザーに聞いた。
「九州出身の両親が私の嫁入り道具として揃えた有田焼が、何十年も未使用のまま(苦笑)自宅にたくさんあります。お気に入り以外をそろそろ処分しようと、メルカリを始めました。自分の所有物を検索して、価格の相場を確認しています」
そのとき、同じ有田焼を出品している人を何人も発見するのだが、
「その人たちが出品している他の物品が、あれっ!? と驚くくらい、子どもの頃に我が家で使っていたのと同じものばかり。ああ、懐かしいなあ……と」
■メルカリさえあれば他に何も要らない
亡き両親が晩酌で使っていたものと同じ猪口と銚子のセット、相手の出品物の写真の背景に写っている、かつて実家で使っていたものとまったく同じテーブルクロス……。
「40年前の、私が幼くて両親も若かった頃に一瞬でタイムスリップできるんです。当時の家の中の光景や匂いまでが、鮮明に蘇りますよ」
この女性は、今はメルカリさえあれば他に何も要らない、とまで極言する。ただこの女性ならずとも、一定の時間を持ち主とともに過ごした物品は、持ち主の記憶や思い入れを閉じ込めたタイムカプセルであろう。
誰もが思い出を共有することで孤独を癒やしたい、と心のどこかで求めている。メルカリというツールを活用すれば、顔は見えずともそのカプセルを一緒に開いて、深く共鳴し合える人を見つけ出せる。その意味で、大切な物を手元に置くことは、孤独を癒やす最高の処方箋なのかもしれない。
【調査概要】株式会社メルカリは2021年3月11〜12日、全国、60代以上の男女1236名を対象にインターネット調査を実施。フリマアプリ利用者824名(うち412名は直近1年のうちに利用を開始)、フリマアプリ非利用者412名から回答を得た。※グラフ内の数値は小数点第二位以下四捨五入。
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西川 修一(にしかわ・しゅういち)
ライター・編集者
1966年、神奈川県生まれ。中央大学法学部卒業。生命保険会社勤務、週刊誌・業界紙記者、プレジデント編集部を経てフリーに。
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(ライター・編集者 西川 修一)