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オーナーは警戒していた

埼玉県に住むAさんは、2004年に1999年式のマツダRX-7(以下、FD)を購入して18年間大切に乗り続けてきた。

【画像】FD発見時の状況は?【詳しく見る】 全29枚

昨今はFDの盗難報告が相次いでおり、Aさん自身も盗難防止の措置としてハンドルロック、タイヤロック、GPS装備の対策をしていた。


埼玉県に住むAさんは、1999年式のマツダRX-7の盗難被害にあった。    マツダ

そしてAさんが異変に気付いたのは2022年5月2日の午前0時半、夜勤を終えて自分のスマホを見たときだった。

「FDに装備しているGPSはふだんの駐車場所から一定の範囲をこえて移動すると通知が来る設定にしていたんですが、明らかにFDが動いていることがわかりました」

「通知の履歴を見ると最初は5月1日の21時10分。装着していたGPSは振動や座標の変化があると3分ごとに発信するのですが、わたしは夜勤でしばらくスマホの画面を見られなくて……21時10分に始まっていたのですけどね」

「そして22時57分に茨城県八千代町で位置情報の発信は終わっていました」

「これは、やられた。盗まれたと、そのとき思いました」

茨城県といえば自動車盗難全国ワースト1位となっている場所だ。

怪しげなヤードもたくさんある。Aさんは自宅にいる奥様にクルマを見に行ってもらったところ、やはり駐車場にFDの姿はなかった。

Aさんは警察にすぐ電話して、その後、フェイスブックやツイッターに盗難された報告をおこなった。

「ツイッターはほとんどやっていなくてフォロワーも数名という感じだったので、こんなので拡散されるのかと思いましたが、とにかくできることは何でもやろうと拡散依頼をしたんです」(Aさん)

そして、Aさんはあらためて自分の目で確認すべくFDの駐車場まで移動。FDが置いてあった駐車場にはタイヤロックが切断されて捨てられていた。

ハンドルロックはなかったが、一緒に運ばれたのか。今も行方が分かっていない。

有志による捜索の末……

一晩明けてAさんとその仲間たちはGPSの位置情報をもとに捜索を開始した。

仲間には2年前、シビック(EK9)を盗まれた経験を持つMさんもいた。


AさんのFDが発見された際の様子    Aさん

MさんのEK9についてはAUTOCAR JAPANの記事でも報じているが、バラバラにされて2020年5月に遠く離れたアメリカ・ヴァージニア州にある日本車専門店(J-Spec Auto Sports Inc.)で販売されていることが明らかになっている。

筆者も現地の警察やJ-Specの担当者に話を聞くなどして一緒になって探したが結局、2年近くたった今でも戻ってきていない。

Aさんは仲間の知り合いでもあり、また、大切にしていた愛車を盗まれるという同じ経験をした苦しく悲しい思いがあり、MさんもFD捜索メンバーに加わった。

Mさんいわく、「GPSの情報が最後に切れた場所を中心に探しました。AさんのGPSは動いたときだけ通知が来るシステムだったので、通知が止まった場所が見つかればそこにFDがあるのではないかと」

「そして、怪しい駐車場に行き当たりました。クルマのパーツや解体されたクルマなどが目立つ、ヤードのような駐車場でした」

「実はGPSの位置情報が出ている時間と場所を通った人がいたのですが、その周辺でシルバーのFDを見た人は誰もいませんでした」

「たしかにその時間その場所をFDが通過した履歴があるのに」

「それでこれは、もしかしたらトラックの中に入れて移動させたのではないかと。それならFDの目撃事例がまったくないことにも合点がいきます」

「FDのGPSから発信された位置情報履歴をたどっていくと、各地点はすべて同じ会社に関連する場所でした」

「中古車を扱っている会社だったり、解体ヤードだったり、事務所がある場所だったり。そこで、同じ会社の仲間内でトラックに載せたFDを動かしているのではないかと推測したのです」

最終的にFDがありそうな場所は2か所に絞られた。

そのうち1か所でクルマを載せられる大きさのトラックを発見。

FDはあの中にあるのではないか?

被害者のAさんが警察を呼んですぐに発見場所の目と鼻の先にある茨城県警境警察署からパトカーと警察官数名が駆け付けた。

警察が任意でその会社の経営者と土地の所有者(合計3名。うち1名は外国人)を呼んで、トラックの荷室を開けたところ……。

固唾をのんでその様子を見守るAさんや捜索メンバーの前に、探していたシルバーのFDが姿を現した。

なおこのときの様子は捜索チームが動画におさめている。その動画はSNSで公開され、15時間で250万回も再生されている。

発見されたFDはどのような状態だったのか。

「他人が所有する土地にあるということでまだクルマをよく見せてもらえてないんです」

「警察の話によると運転席のキーシリンダーが抜かれた状態だったそうです。わたしが見たときに気づいたのはリアのナンバープレートが外されていたことでした」(Aさん)

もし見つからなければ……

発見されたAさんのFDに関して本格的な捜査はこれからとなる。

現在は警察が24時間その会社の駐車場で監視しているという。


解体され海外で転売されるケースも(画像の車両が盗難車両か否かについては明らかにはなっていません)。

ところで、もしFDが発見されなければどうなっていただろうか?

「旧車といわれる日本製スポーツカーは盗まれたら3日が勝負といわれています」

「古いクルマなので、解体はごく短時間でおこなわれます。バラバラにされて海外に部品として輸出されることでしょう。行先はアメリカでしょうね」

「通常の盗難でもそうですが、わたしのシビックのように、海外に出されたものは明らかに日本から盗まれたクルマであることがわかっても、警察はほとんど期待できません」

「自動車盗難は数百万円の損害が発生する重大な犯罪なのに、警察の扱いは適当すぎますよ」(Mさん)

たしかにそれはいえる。

今回のFDは解体され、海外に出される直前で発見されたからよかったようなものの、Mさんのシビックのように解体され、海外にパーツとして輸出され、アメリカの日本車販売店の動画でエンジン番号まではっきりわかる状態で販売されているのに、日本の警察はほとんど動くことはなかった。

盗まれたクルマが解体されネットオークションで販売されるケースも増えている。

これも、オーナーが自分のクルマだと断言できても、車台番号やエンジン番号など確実な証拠がない限り警察は動かないし、オークション主催者も動かない。

旧車の多くは(満足な保険金額での)車両保険をつけることが困難だ。

盗まれないように策を講じるしかないが、高値で取引される日本製スポーツカーには専門の窃盗団がいて、オーダーがあればどんな手を使ってでも盗んでいくといわれている。

オーナーの自衛も重要ではあるが、明らかに盗難されているのであれば、警察も捜査に力を入れて欲しい。

今回、FDが発見された場所は茨城県警境警察署のすぐ近くである。今後の捜査に期待をしたい。