40代半ばの男性が3年の婚活を経て出会った女性はこれまでとは違うタイプでした(写真:NORi/PIXTA)

結婚相談所の経営者として婚活現場の第一線に立つ筆者が、急激に変わっている日本の婚活事情について解説する本連載。今回は「婚活歴3年の40代男性」「地味すぎて相手の印象に残らない女性」という婚活市場では不利な2人が、成婚に至った2つのケースを紹介します。

相談所の「ハシゴ」状態だった

婚活は、よほど条件がいい人同士でない限り、すんなり成婚とはいきません。婚活者は七転び八起き。お見合いやデートを繰り返す中でとがったところが削れ、そのまたとがったところが削れ、丸くなったときに成婚となります。中には「もうダメかもしれない……」と諦めたくなることもあるかもしれません。しかし、そこで諦めずに成婚できたケースもあります。


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40代半ばの男性、浩一さん(仮名)。年収は500万円。婚活市場ではけっして「有利」とは言えない年齢と年収です。優しさとまじめさが魅力の浩一さん。親御さんとの関係が疎遠なこともあって、「温かい家族を作りたい」という気持ちが強く、熱心に婚活に励んでいましたが、婚活歴は3年以上、弊社が3軒目と婚活が長引いていました。

最初は相手女性の条件として「働いていること」を挙げていました。互いに収入に応じた生活費を出し合うことが理想。しかしある時、お見合い相手から「自分で働いた分は自分のお小遣いにしたい」と言われたそうです。そのうえ、「家事は5分5分がいい」と主張されたとか。ごく一部、そういう価値観を持った女性がいます。「それなら働いていない女性でもいいのではないか」と考えが変わってきました。

そんな彼が新たにお見合いしたのは、20代女性・花梨さん(仮名)。お父さんが有名な会社の役員だそうで、ずっと実家暮らしで「かわいい、かわいい」と育てられてきたお嬢様。

アルバイトをしてもすぐ辞めてしまい、社会経験がほとんどないせいか、少々子どもっぽいところもありました。人見知りのため、電話で知らない人と話すことが苦手。弊社にも最初はお父さんが相談に来ました。「娘は世間知らずで、コミュニケーションも下手ですが大丈夫でしょうか」と。活動中の電話相談も父と娘、二人三脚の婚活です。

しかも花梨さんは料理もできない、洗濯もしたことがない、家事が一切できない。お見合い前、浩一さんには「家事も何にもできない、子どものような女性ですが、それでもいいですか?」と確認しました。すると、「会ってみないとわからないので、とりあえず会ってみます」と。お見合いは無事に終わり、3回目のデートから彼の自宅に行くことになりました。

家に上がるなり、いきなり「ゲームやっていい?」と言う花梨さん。浩一さんが「まず手を洗って、うがいをしてから座ろうね」と教えると、「はーい」と素直に従う。「これからお昼ご飯をつくるから、野菜を洗ってね。ニンジンはピーラーで皮をむくんだよ」と料理を教え、洗濯物の干し方や掃除もすべて教えてあげました。浩一さんは20年ほど1人暮らしをしてきたので家事はお手のものです。

花梨さんは、自宅だと母親に「ああしなさい、こうしなさい」とあれこれ言われるけれども、浩一さんのところなら「食器を洗い終わったらゲームをやってもいいよ」「洗濯物をたたみ終わったらテレビを見てもいいよ」と優しく言ってもらえる。

居心地がいいものだから、すっかり入り浸るように。花梨さんのお父さんは立派な人ですから「いつもお世話になりっぱなしで申し訳ない」と、今度は花梨さんのお屋敷のような自宅に招待。そうして行き来するようになりました。

家事が得意な人より「合う」

花梨さんは時々「人からとやかく言われるのは嫌い!」とへそを曲げることもありますが、「結婚したら奥さんになって、子どもができたらママになるのに、それじゃ困るのでは?」と優しく諭すと言うことを聞くなど、基本的には素直。しかも浩一さんは、年齢が離れているし「子どものようだ」と最初から聞いていたので、「若い子はこんなものだ」と思い込んでいて腹も立たなかったそうです。

それに最初は手がかかりますが、自分が教えたとおりに家事をしてくれる。逆に最初からいろいろできたとしても、何か食い違ったときに「これのどこが悪いのよ!」「私のやり方がいいのよ!」と衝突するよりは、花梨さんのような女性のほうがいいと浩一さんは考えたようです。

実際、これまで浩一さんは年が近い人とのお見合いだと、「言っていることがおかしい、腑に落ちない」と、不平を漏らすことがありました。対等に言い返されて、しかもそれが道理に合わないと気になるタイプのようです。それに、浩一さんの年齢や年収からすると、20代女性と結婚できるなんてめったにないチャンスです。

それでもやはり浩一さん自身が「もう無理かも」ということが1、2回ありました。しかしその都度、花梨さんのお父さんが自宅に呼んで、「娘がお世話になっています」と、浩一さんを息子のようにかわいがりました。お父さんは花梨さんに対して過保護ではありましたが、お相手選びに口出しをして関係を壊すようないわゆる毒親タイプではなかったことが幸いでした。

浩一さんとお付き合いするようになって花梨さんも大きく成長しました。簡単な料理なら1人でつくれるようになり、お父さんも「浩一さんとお付き合いしてわが子は人が変わったようだ。私たち夫婦はとてもありがたく思っています」と喜んでいました。その成長ぶりを見て、浩一さんも「大丈夫」と判断したのでしょう。無事成婚。年の離れた男性の「子育て結婚」です。

平凡すぎて肉食女性に相手を取られてしまう

30代女性・恵利さん(仮名)。3回デートした30代男性・拓也さん(仮名)に、「ほかの人と真剣交際に入りたいから」とふられてしまいました。婚活ではよくある話です。結婚相談所における「真剣交際」とは、結婚を前提にした交際のことで、この期間、ほかの人とお見合いやデートはできません。

仕方なく恵利さんはほかの男性と何回かお見合いをしましたが、やっぱり拓也さんが忘れられない。「拓也さんの真剣交際が解除されたら、もう一度アタックしたい」と言います。 事実、真剣交際に入っても約4割が成婚せず解除になります。それを待ってアタックするのは「絶対に不可能」というわけではないのです。とはいえ、そのチャンスが1カ月後になるか2カ月後になるかわかりません。もしかしたら成婚してしまうかもしれない。早々に結婚を決めたい婚活者としては、時間を無駄にする可能性もある勇気のいる選択です。

とりあえずはふられた要因を分析してみました。恵利さんと拓也さんのデートはごく普通のデート。一方、拓也さんが真剣交際をしている相手は、バリキャリのいわゆる肉食女性。おそらく拓也さんは、アピール力が強い肉食女性にグイグイ迫られて、「この女性とだったらうまくまとまるのかな」と思ってしまったようです。

恵利さんのように普通のデートで印象が薄い女性は、数あるお見合い相手のうちの1人で終わってしまう。結婚のイメージができず「この先に進もう」という気持ちにならないのです。

「私と結婚したらきっと幸せになる」と、恵利さんはもっと強くアピールする必要がありました。そのためにどうすればいいか、細かく戦略を練ってチャンスを待つことにしました。

すると恵利さんにとっては幸いなことに、ほどなく真剣交際解除になりました。拓也さん側の結婚相談所の話だと、相手女性の気が強すぎたそうです。基本的には一度だめになった相手との復縁は難しいのですが、今回はどうしても忘れられないことを相談し、さっそくデートを申し込み、戦略を実行。

その戦略というのは、拓也さんの自宅に行くこと。白い割烹着を持参して、スーパーに一緒に行って、割引になっている食材を選び、鍋料理を作る。鍋なら調理器具がそろっていなくてもできます。一緒に台所に立ったり、一緒に食器を洗ったり、疑似夫婦を体験することで拓也さんに結婚のイメージを喚起させ、家族の温かさをアピールしたわけです。

自宅デートはお金を使わせないという意味もあります。結婚相談所に入って婚活する男性はお金がかかります。お見合いはホテルのラウンジを使いますが、都内ではコーヒー1杯1500円前後で、2人分では約3000円。1日3人とお見合いをしたら、お茶代だけで1万円近くかかってしまいます。

さらに1回目のデートは男性がごちそうする慣例になっているので、そこでも飲食代がかかる。恵利さんは拓也さんにお金を使わせない、思いやりがある女性だということもアピールしました。

2人で家事をしているときに「逆プロポーズ」

1回目、2回目と自宅でデートし、3回目の自宅デートで一緒に食器を洗っているときに、恵利さんは「結婚したらこうやって一緒に食器を洗うんだね」とプロポーズ。翌日、拓也さんから連絡が来て、「昨日、言わせちゃってごめんね。結婚してください」とプロポーズされたそうです。逆プロポーズがプロポーズを急き立て、みごと婚活復活戦大成功でした。

ちなみに、結婚相談所では基本的にデートは外で会うことになっています。自宅を行き来するのは、成婚がほぼ確定してから。知り合って間もないのに自宅に行ってうっかり性交渉でもしようものなら、「成婚退会」となります。ですので、浩一さんのケースも拓也さんのケースも、事前にきちんと了承を取っています。

浩一さんは子育て婚、恵利さんは復活婚。「こうでなければならない」という思い込みを捨てると、結婚へ近づけるのかもしれません。

(植草 美幸 : 恋愛・婚活アドバイザー、結婚相談所マリーミー代表)