Vol.171 ニコンZ 9レビュー。本格的な映像制作にも通用する8Kミラーレスカメラ登場[OnGoing Re:View]
■希望小売価格
オープン、市場想定価格:税込70万円前後
■発売日
2021年12月24日
2時間を超える8K UHD/30P動画を内部記録可能
年末から年始の2週間ほど、ニコンZ 9を試用する機会が得られたので紹介しよう。筆者は普段、RED HELIUM、EOS R5、ソニーa1、ニコンZ 7、パナソニックGH5Sなどで映像制作をしており、Z 9も2021年12月24日の発売日に購入している。
- 撮像素子:4571万画素フルサイズCMOSセンサー
- マウント:ニコン Z マウント
- 記録フォーマット:7680×4320(8K UHD)30p/25p/24p、3840×2160(4K UHD)120p/100p/60p/50p/30p/25p/24p、1920×1080 120p/100p/60p/50p/30p/25p/24p
- 映像の圧縮形式 :8K H.265/HEVC(8bit/10bit)、4K Apple ProRes 422 HQ(10bit)、H.264/AVC(8bit)
- 記録媒体:CFexpress Type B メモリーカード ダブルスロット
■ニコンZ 9の仕様
筆者はライフワークとして、RED HELIUMで日本の風景を8K収録している。しかしHELIUMは、電源を入れてから録画をスタートできる状態になるまで、1分以上の時間がかかる。決定的な瞬間を捉える風景撮影では致命的と言ってよい。
そこで、サブ機としてキヤノンEOS R5を使用している。EOS R5は素晴らしいカメラだが、8K30P、4K60P、4K120P、4K30Pなど高画質撮影時のオーバーヒートと、タイムラプス撮影に不安があった。オーバーヒート問題は、ATOMOS NINJA V +を導入することでクリアできるが、EOSムービーのLogは、全体的にノイジーで撮影後にノイズリダクション作業を伴う。
ニコンZ 9では、2時間を超える8K UHD30P動画を外部レコーダーを使わずに内部収録できる。仕事で撮影を行う者にとって、熱によるトラブルの心配がないことは、カメラを選ぶ際に最も重要なポイントである。
実機テストとニコンZ 9の長所のポイント
認識性の高い液晶モニター
まずZ 9を使って驚いたのは、液晶モニターがとても鮮明で、明るい場所でも見やすい点だ。ボディサイズが大きいため、他のミラーレスカメラよりモニターが大きいことも奏功しているのだろう。また、ファインダーも四隅まで良く見え、長年ファインダー撮影に慣れているビデオカメラマンにも歓迎されるであろう。
強力なオートフォーカスと手ブレ防止機能
横浜みなとみらいでのモデル撮影(杉谷玲奈さん)では、オートフォーカスによる8K収録を行った。問題なく被写体の瞳を認識し、顔が見えない時は頭部認証をしていた。オートフォーカス精度も素晴らしく、今後も積極的にオートフォーカスを使った人物撮影を行うつもりだ。
さらに、レンズ交換する度にジンバルのバランスを取る必要があるが、時間を節約するために、手ブレ補正機能をオンにして手持ち撮影したところ、満足いく結果が得られた。
使用温度は-10°Cまで対応する寒冷地撮影に対応
長野県の地獄谷野猿公苑では、温泉に浸かる猿を、気温-3C°、雪の降るなかで長時間にわたって8K撮影した。厚手の手袋を着用していたもののボタンは押しやすく、バッテリーの保ちもよく、4時間ほど滞在して終了した際には、1/3のバッテリーが残されていた。また、高い防塵・防滴性能のおかげで、雪が舞うなかでもトラブルなく撮影を行うことができた。
この日、普段はFX6とα7S IIIで撮影しているプロカメラマン、小島英雄氏にも同行いただいたが、Z 9の使用感に大変満足していた。
4K120Pや4K100Pにも対応するハイスピード撮影
4Kカメラでハイスピード撮影を行う場合、ソニーα系カメラであれば(α7S III、FX3、a1)4K120Pしか選べず、シャッタースピードが1/125になってしまうため、残念なことに関東ではフリッカーを拾う結果となる。一方、Z 9では4K100Pを選べることも可能で、フリッカー対策をしたうえでハイスピード撮影を躊躇せず行うことができる。
また、映像制作者にとって馴染みの深い、Apple ProRes 422 HQを外部レコーダーを使わずに内部収録できる点(4K60P、30P)は、賞賛に値する。
露出平滑化機能がポイントのタイムラプス撮影
筆者は、2012年発売のD800から、D810、D850、Z 7と機種を変えてタイムラプス撮影を行ってきた。D810から備わった露出平滑化はZ 9にも受け継がれ、フリッカーを抑えたクオリティーの高いタイムラプス動画を実現する。
また、ZシリーズではZ 5から可能になったタイムラプス撮影は、後処理が必要なインターバル撮影だけではなく、カメラ内で簡単にタイムラプス動画を作ることができる。
次機種で改善を望みたいところ
8K30Pの動画性能やオートフォーカス性能はなど全体的に見ればほぼ満足してZ 9だが、改善を望みたい機能もいくつかある。
高感度性能
暗い場所での高感度性能を改善して欲しい。街並みなどを夜景撮影していると暗部のノイズが目立つ。同じ場所と設定で撮影したソニーα1の方が良好な結果を得られた。ただし、後処理でノイズリダクションを使うことで修正は可能(Neat VideoまたはDavinci Resolve)。
拡張ISOに対応してほしい
N-Log撮影の場合、ISO800が最低感度になる。そのため日中撮影する場合は、NDフィルターが必須になる。ソニーa1(PP9 Slog3)のように、多少画質が落ちても拡張ISOで200まで下げられるとありがたい。
納期
現在、新規にカメラ本体を買った場合の納期が気になる。万が一壊してしまった時の予備機が用意できないのは問題と考えている。
レンズライナップの拡張
筆者はETZというマウントアダプターを使用しており、ZレンズにないレンズライナップはEマウントレンズで補っているが、純正レンズが欲しい。また、Z14-24mm F2.8Sを持っているがEOS R5ではRF15-35mm F2.8を重宝しているため、Z15-35mm F2.8Sを作って欲しい。35mmまであればレンズ交換せずに、幅広く映像制作ができる。
まとめ
2022年は、Z 9で積極的に映像制作をしていくことに決めた。8Kカメラを使っていると、よく「8Kはまだ普及していない」と言われるが、8Kカメラで撮影した映像を4K映像にすると4Kカメラで撮影した映像より綺麗である。また、2021年10月に発売したMacBook Pro M1 Maxとの相性も良い。まるで4K映像を扱っている感覚でZ 9で撮影した8K映像を扱うことができる。
Z 9は、これから過酷な環境でのドキュメンタリー番組などでも広く使われていくであろうと思われる。今後もファームウェアのバージョンアップで、8K UHD/60P(12bit)のRAW動画の内部記録が予定されているのも楽しみである。今まで映像制作現場ではあまり使われるイメージがなかったニコンだが、このZ 9は間違いなく映像制作現場で通用するカメラである。
羽仁正樹 (Saha Entertainment)
東京を拠点にグローバルに活躍する映像クリエーター、写真家。自身が撮影し制作を手がけた映像・写真の作品は、TV 番組や映画、世界各国で開催される展示会、ディスプレイ、TVCM やポスターなどの広告に多用された実績を持つ。