NFTとは

NFTは「Non-Fungible Token(ノンファンジブルトークン)」の頭文字をとって略した言葉。「ノン」は「できない」、「ファンジブル」は「代替可能」という意味から、「非代替性トークン」などと訳されます。といっても、この日本語では全くわからないでしょう。

例えば、筆者が持っている1万円と、みなさんが持っている1万円には同じ「1万円」という価値があります。お互いに交換しても価値は一緒。これが「代替可能」ということです。

では、筆者が持っているサッカーボールと、世界で活躍する有名選手が実際に使ったサッカーボールではどうでしょうか。たとえ同じ種類のサッカーボールだったとしても、有名選手が実際に使ったとなれば、希少価値が高そうです。さらにその有名選手のサインがあったら? もしみなさんがその有名選手のサイン付きサッカーボールを持っていたとしても、筆者のサッカーボールとは交換してくれないでしょう。

オリンピック選手の金メダルでも、歴史的に貴重な骨董品でも同じです。唯一無二のものには、価値があります。ほかのものとは交換できませんし、場合によっては高い価値が生まれます。こうしたことを、「非代替性」とよんでいます。

NFTはデジタルデータの「唯一無二」を証明する

文字や画像、音声といったデジタルデータはどうでしょう。デジタルデータはこれまで、唯一無二であることを証明できませんでした。例えば、SNSにアップロードした画像は、誰でもすぐに見ることができますし、簡単にコピーできます。いい悪いはともかくとして、流用することも可能です。

しかし、NFTの技術を利用すると、そのデジタルデータが唯一無二であることを証明できます。いいかえれば、デジタルデータに希少価値を持たせることができる、というわけです。

NFTには、暗号資産(仮想通貨)にも使われているブロックチェーンという技術が用いられています。ブロックチェーンには、コピーや改ざんができず価値を移転(価値を譲渡)でき、やり取りの履歴が残せるという特徴があります。NFTでは、このブロックチェーン上に「唯一無二のデジタルデータである」ことを証明する固有の情報を記録してやり取りを行います。そうすることで「この画像は確かに自分のもの」と証明できるようになったのです。これは、今までにはできなかったことです。

NFTで今どんなことが起こっている?

2021年、NFTで話題になった出来事が2つありました。1つは、Twitter社の創業者でありCEO、ジャック・ドーシー氏の「初ツイート」がNFT化して売り出されたこと。この初ツイートはなんと約3億1,600万円で落札されました。

もう1つは、「Beeple(ビープル)」というデジタルアート作家の作品が75億3,000万円で落札されたことです。どちらも、とんでもない金額ですね。

こうした事例を契機に今、音楽やファッション、スポーツ、トレーディングカードなど、さまざまな業界でNFTが急速に普及しつつあります。いずれも、「ブロックチェーンの技術を使って唯一無二であることを証明する」という点で共通しています。

また、NFTを活用することで、バーチャルな世界でありながら、現実世界でも稼げるというオープンなマーケットが誕生するという点も共通しており、代表的なものを3つ紹介します。

アート

NFTのブロックチェーンの技術を使って唯一無二の価値を持たせたデジタルアートをNFTアートといいます。先に紹介したBeeple氏の作品もNFTアートです。

NFTアートで話題になったのが「CryptoPunks(クリプトパンク)」です。クリプトパンクは、24✕24ピクセルのサイズで表現されたさまざまなキャラクター。全部で1万体あるのですが、そのどれもが違う姿形をしていて、同じものは一つもありません。

このうちの1体が約8,000万円で取引されたことで一躍話題に。またクレジットカード大手のVISAもクリプトパンクのNFTアートを約1,700万円で購入したこともニュースになりました。日本でも村上隆氏や草間彌生氏のNFTアートが販売されました。著名なアーティストもNFTに注目しています。

メタバース(仮想空間)

メタバースとは、SF作家ニール・スティーヴンスンによる造語で「インターネット上に構築された仮想の三次元空間でアバターなどを用いて接する環境」とされています。簡単にいえばインターネット上の仮想空間で、アバターを使ってほかの人と交流できる空間のこと。

最近では、リアルもバーチャルも含めたインターネットエコノミーがメタバースとよばれるようになっています。実社会との垣根がない状態、プラットフォームの垣根を超えた体験ができる状態が「メタバース」だということです。米国のFacebookも「meta(メタ)」と社名を変えてしまうほどに注目されています。

メタバースの一つ、CryptoVoxel(クリプトボクセル)では、自分が設定したアバターを使ってメタバース内で所有した土地や空間をデザインしたり、NFTアートを飾ったりできます。ゲームのように「敵を倒す」「ミッションをクリアする」といった目的はありません。ほかの人と交流したり、NFTアートなどを購入したりすることもできます。

ゲーム

NFTゲームは、キャラクターやアイテムがNFTとなっているゲームです。通常、ゲーム内で手に入れたアイテムはほかのユーザーに手渡すことができません。オンラインゲームなどでそれができたとしても、法的にNGだったり、ゲーム内の規約でNGだったりすることがほとんどでした。

しかし、NFTゲームでは、キャラクターやアイテムをやり取りすることができます。より高い価格で取引できるようになれば、現実世界でも稼げてユーザーの利益につながります。

My Crypto Heroes(マイクリプトヒーローズ)は、パーティを組んでダンジョンを攻略するRPGゲームです。プレイヤーのプレイスタイルによって、バトルに勝って報酬を得る「武士」、ダンジョンで手に入れたアイテムを売る「農民」、キャラクターデザインを売る「職人」、NFTを転売して稼ぐ「商人」がいて、それぞれのスタイルで稼ぐことができるようになっています。

NFTの購入に使われる暗号資産「イーサリアム」

NFTの購入には、「イーサリアム」(ETH)という暗号資産がよく用いられます。暗号資産というと「ビットコイン」を思い浮かべる方が多いと思いますが、NFTの購入にはイーサリアムが用いられるのです。なぜなら、イーサリアムには「スマートコントラクト」という技術が実装されているからです。

スマートコントラクトとは、取引で行われる契約を自動的に実行・保存する機能のこと。NFTの取引を行うと、その契約内容が自動的に実行され、ネットワーク上に保存することができます。

つまり、それを追いかけることで、過去の契約内容がすべてわかるのです。これが、NFTの「唯一無二」を証明するのに好都合だというわけです。ビットコインには、このスマートコントラクトの機能がないため、イーサリアムがよく利用されています。

NFTを購入する際には、暗号資産の取引所で前もってイーサリアムを購入し、専用のウォレットに入れておく必要があるので、少々ハードルが高いと思われるかもしれません。最近では、円建てでNFTを購入できるサービスなども出てきています。

これからバーチャル世界はどうなる?

NFTの仕組みや主な事例を紹介してきました。NFTを利用することで、デジタルデータの「唯一無二」を証明できるようになります。デジタルデータが売買できるようになれば、デジタル資産の作者が対価を得られるようになりますし、コレクターも安心して取引できるようになります。NFTが、これまでのデジタルデータの世界を一変させる力を持っていることは間違いないでしょう。

バーチャルとリアルの垣根もどんどん無くなっていくと思います。そのうち、映画「マトリックス」のような、どちらの世界にいるのかわからない状況が来るのも遠くはないでしょう。

一方で、NFTはまだまだ新しい分野で、きちんとした法整備も追いついていないのが実情。NFTがさらに発展していくかどうかは未知数な部分もあります。一時期の仮想通貨ブームのように、詐欺も横行するでしょう。こういう新しい概念、サービス、アセットは早く始めた人が勝てる確率は上がりますが、無知の状態で飛び込むと大火傷を負うことにもなります。

NFTやメタバースを学ぶなら、『NFTの教科書』(朝日新聞出版)がおすすめです。NFT分野のプロたちが各項目を執筆しているので、最新の状況を把握できるのも良い点です。