「foodpanda」はなぜ撤退したのか、急速に進むフードデリバリー再編(佐野正弘)
コロナ禍の巣ごもり需要拡大で参入が急増し、競争が激化していたフードデリバリーサービス。ですが国内外で非常に競争が激化しているだけに、再編の動きも急拡大しているようです。
しかもこの年末年始にかけては、業界再編に向け非常に大きな動きが相次いで起きています。その1つとなったのがドイツのデリバリーヒーローが運営するフードデリバリーサービス「foodpanda」で、2021年12月22日にドイツでの事業縮小とともに日本市場からも撤退することを発表したこと。これら地域では競合の参入が相次ぎ競争が急速に激化、配達員の確保が難しくなったことなどが撤退の理由だとしています。
筆者はこの発表にとても驚きました。というのも同社の日本法人であるDelivery Hero Japanは、ごく最近まで事業拡大に向けかなり積極的な動きを見せていたからです。実際同社はここ最近フードデリバリーだけでなく、オンラインサービス専用の配送店舗「ダークストア」を活用して生活用品などを短時間で配送する「pandamart」の拡大にも力を注ぎ、事業範囲を急速に広げようとしていました。
pandamartは2021年11月から12月にかけて東京都内での店舗を増やし、配送エリア拡大に本腰を入れていたことから、筆者も12月上旬にその取材をしたばかりでした。その際担当者からは、コンビニエンスストアとは違うダークストアの優位性を生かして配送エリアと品ぞろえを拡大する考えを示すなど、pandamartにかなり意欲的に取り組もうとしている姿勢が見られたのを覚えています。
それから1カ月も経たないうちに日本市場からの撤退表明がなされた訳ですから、日本法人の事業拡大に向けた姿勢と、本社側の見方にはかなりの温度差があったといえそうです。裏を返せば急速な競争激化で、本社側が求める事業目標に日本の伸びが追い付いていなかったことから、日本法人側が事業拡大を焦っていたと見ることもできるかもしれません。
なおデリバリーヒーロー側の発表では、日本の事業は2022年の第1四半期に他社へ売却する予定とされていました。ですが日本のfoodpandaのTwitterアカウントで、2022年1月11日にfoodpandaのサービスが1月31日を持って終了するとの発表がなされたことにも驚きがありました。
foodpandaからのお知らせです。 pic.twitter.com/nlDMI1p3Lw
- foodpanda Japan (@foodpandaJP) January 11, 2022
foodpandaがFOODNEKOを統合した時とは違って、他社サービスへ移行がなされぬままサービスが終了してしまう様子からは、売却交渉があまりうまくいっていない印象も受けてしまいます。
今後何らかの動きがある可能性があるのでここからはあくまで筆者独自の見解となりますが、現在の市場環境と他社サービスを取り巻く状況を見るに、foodpandaの売却先探しはかなり難しいようにも感じています。
先行する「出前館」と「Uber Eats」、そしてKDDIという後ろ盾が付いた「menu」は、既に全国に配達網を構築しているので買収メリットが薄いですし、「楽天ぐるなびデリバリー」はギグワーカーを活用しておらず他のサービスと一線を画しています。残るは外資系の「DiDi Food」と「DoorDash」くらいですが、DiDi Foodの親となる滴滴出行はここ最近、中国でのIT企業に対する規制でかなりの混乱が生じており、日本市場の拡大に力を注げるか分からない状況にあります。
そしてDoorDashは、ここ最近もう1つの業界再編につながる動きを起こしています。それは本社の米ドアダッシュが、「Wolt」を運営するフィンランドのウォルトエンタープライズの買収を2021年11月に発表したことです。
この買収による国内での具体的な取り組みはまだ発表されていませんが、仮にDoorDashとWoltが単純にサービス統合した場合、最後発でまだ4道県でしかサービス展開していないというDoorDashのエリアカバーの問題が大幅に解消されることとなります。日本では当面、両社の統合に向けた準備に力を入れる必要があることも考えると、foodpandaを積極的に買収する理由には乏しいでしょう。
一方のダークストア事業に関しても、pandamartは最近拡大を図り始めたばかりで規模がまだ大きくないのに加え、日本で同様の事業を展開しているのも現状、Woltとベンチャーの「OniGO」くらい。日本ではコンビニエンスストアが全国に多数存在し、いくつかのデリバリーサービスがそれらの活用に動いている現状を考えると、やはり買い手が見つけにくい印象を受けてしまいます。
それだけに、foodpandaの買い手が付かず終了してしまうのも、ある意味やむなしといえるかもしれません。加えてWoltとDoorDashが統合すれば、国内では一気に2つものフードデリバリーサービスが減ることとなりますが、それでもまだ事業者が過多だと感じてしまう状況にあるだけに、まだまだ再編は起きる可能性があるというのが筆者の見方です。