秋吉 健のArcaic Singularity:2021年総決算!コロナ禍で激変した取材様式とテクノロジーの分水嶺を見つめた1年を振り返る【コラム】
2021年の本連載コラムを振り返ってみた! |
早いもので、2021年も残りわずかとなってしまいました。今年もコロナ禍に振り回された1年でしたが、みなさんは息災のまま大晦日を迎えられそうでしょうか。
2021年の通信・テクノロジー業界に目を向けてみれば、過去に例を見ないほど熾烈な通信料金の値下げ競争に始まり、5Gスマホの低廉化やApple・Googleの野心的なSoC戦略が進展を見せ、そして1年を通して半導体不足に喘いでいたように思います。
感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回は2021年に執筆したコラムを取り上げつつ、通信業界やテクノロジー業界の1年を振り返ってみたいと思います。
今年はオンライン発表会やオンライン会議が完全に定着した年でもあった
■加熱しすぎた通信料金値下げ競争
2021年の通信業界を代表する話題と言えば、間違いなく通信料金の値下げ競争でしょう。
もはやコラムの過去記事を列挙するのもはばかられるほど大量に書いた記憶がありますが、2020年12月にNTTドコモがahamoを発表したことで激化したMNOの低価格化競争はMVNOにまで延焼し、先日のコラムでも書いたようにMVNOを瀕死の状態にまで追いやってしまいました。
今回はその原因の追求などはしませんが、総務省が5月に公開した「電気通信サービスに係る内外価格差調査」でも、データ通信量20GB以下の価格は2年前(2019年)と比較して3分の1前後にまで下落しており、高い通信品質も加味すれば世界でもトップクラスのコストパフォーマンスを誇っています。
イギリスやフランスの料金の安さも目立つが、両国の通信エリア(主に4G)や通信品質は日本と比べてかなり劣る
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取材を進める中でも、MNOの怒りとも取れる形振り構わぬ強引な価格設定は総務省への当てつけとも感じられるほどで、月額0円から利用可能などと謳われてはMVNOはまったく太刀打ちできません。
MVNOも必死に、より低価格で中容量のお得感を感じられる料金プランを打ち出していますが、統計データからも一般消費者へ響いているようには感じられません。
通信料金が安くなったこと自体は歓迎したいものの、業界として冷え切ってしまったという印象の1年でした。
MVNO利用者の激減度合いは、この調査が偏ったものであることを願いたくなるほど悲惨なものだった
■半導体不足と2大巨頭の決断
そして、日本のみならず世界中で問題になったのが半導体不足です。
こちらももはや説明不要に感じられますが、一方で「半導体がどこにもない」という漠然とした結果ではなく、その原因を追求していくと非常に根が深く今後数年に渡って長引くであろう問題であることは、あまり人々に知られていなかったようです。
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来年あたりにはなんとかなるだろう、という楽観論を完全に粉砕するような理由だった(引用元)
そのような中で、AppleとGoogleは自社チップセット(SoC)の開発に全力を傾けます。
Appleは同社のSoC「Apple M1」シリーズを強化・拡張し、ノートPC「MacBook Pro」シリーズのラインナップを一新しました。その性能はIntel CPU(Coreシリーズ)を採用したノートPCを遥かに超え、電力効率も圧倒的であると高らかに発表し、完全にIntelと決別する姿勢を明確にしています。
そしてGoogleは同社のスマートフォン(スマホ)「Pixel 6」シリーズで、ついに自社開発のSoC「Google Tensor」を採用しました。同社が求める理想のスマホへの追求は、汎用SoCでは実現できないと決断したことを証明するものです。
M1、そしてTensor。巨大企業は独自進化への舵を切る
AppleとGoogleという世界を動かす巨大企業がこのような戦略へ邁進し始めたことは必然でもあります。
テクノロジー業界は常に弱肉強食であり、特定の分野においては一強皆弱とさえ言われる世界です。
そうでありながら、例えばスマホ業界ではAndroidという同じOSを搭載する似たような端末が横並び状態で販売され、デバイスとしての性能の成熟化からコモディティ化が進みすぎてしまい、もはやどのように差別化してヒットさせるべきなのか分からない昏迷状態に陥りつつあります。
全世界的な半導体不足によってテクノロジーの進歩まで脅かされる中、改めてデバイスとしての革新的な進化を促し、もう一度人々と業界に活気を与えるためにも、独自進化というチャレンジが必要だったのです。
新たな分野のテクノロジーへの挑戦は、進化を諦めないという強い意志表示でもある
■永い積み重ねが評価につながった年
最後はお目汚しになりますが……筆者の個人的な雑記など。一応コラムなので何卒ご容赦下さい。
2021年に限らず、筆者は日々取材と新たな技術の勉強に余念なく精進してきましたが、その集大成的に評価された記事(コラム)が2つほどありました。
1つはNTTドコモが進める未来の通信ネットワーク「IOWN(アイオン)」構想についてのコラムで、もう1つが同じくNTTドコモのdデリバリー終了およびdミールキットの戦略に関するコラムでした。
【過去記事】秋吉 健のArcaic Singularity:遥かなるIOWN。通信業界が直面する問題を解決し、新たな世界を切り開くフォトニクス・ネットワーク構想を解説【コラム】
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いずれもS-MAX編集部の2106bpm氏に「良い記事だった」と評されたものですが、実は個人的にはあまり力を入れて書いた記憶はなく、むしろそれまでにコツコツと溜めてきた取材ネタをまとめた程度のものだったりしたのです。
このように書いてしまうと「なんだ、手抜き記事か」と思われてしまいそうですが、そうではありません。
他のコラムや取材記事でも言えることですが、その取材のみで得られる情報は意外と少なく、それ以前のサービスや技術がどのように変遷してきたのかをその都度取材し、理解してこなければ得られなかった解や結論があるのです。
例えばdデリバリーおよびdミールキットに関するコラムでは、10年近く続くNTTドコモの食材サービスや経済圏戦略の紆余曲折が前提として存在し、さらにソフトバンクなど他社の経済圏戦略まで絡む巨大なビジネス戦争が関連しているというところまで突き詰めた点が評価されました。
企業がプレスリリースとして発表する内容から得られる情報は本当にごく一部です。なぜそのコンテンツが必要なのか、なぜそのサービスが終わるのか、なぜそのデバイスが発売されるのか、その背景は途方もなく広く深いのです。
企業同士の提携ともなれば、その背景はさまざまな業界を巻き込み指数関数的に広がり始める
■知識と興味が湧き続ける限り
2021年は2020年に引き続き、コロナ禍による外出自粛とオンライン取材やオンライン発表会が定着化し、さらに東京2020オリンピック・パラリンピック開催による都内での展示会・発表会の消滅といった要因も重なり、実地での取材活動をほぼ封じられた年でもありました。
2020年の時点から覚悟を決めて望んだ年ではありましたが、想像を絶する取材量の激減にひたすら苦しみながら記事を執筆した1年でした。
そのような厳しい中であってもコラムを1週も落とさず、中には編集部や読者の方々から良記事と評価されるコラムを少ないながらもいくつか書けたことは大きな自信にも繋がり、また自身がこれまで行ってきた勉強もまんざら無駄ではなかったのだと胸を撫で下ろすところです。
取材とは何か、執筆とは何かを見つめ直す大切な1年でもあった
幸い、まだ知識のストックは使い果たしていません。このコラムを執筆し始めた2017年、筆者は「ネタも流石に半年持てば良いほうだろう」と考えていましたが、それは甘すぎる考えでした。
新たな技術やサービスは次々に登場し、取材する先から新たな情報で塗り替えられていきます。半年どころか3ヶ月もすれば情報が陳腐化することすらありました。知識は枯れるどころか、処理しきれないほどに膨れ上がったのです。
そのような中で、どんな情報であればアーカイブを辿っても不整合を起こさない記事にできるのか、予見した未来を正しく論じることができるのか、ただひたすらにそれだけを考えて勉強し続けてきたように思います。
もちろん、その試みや努力のいくつかは徒労に終わっていますし、筆者の出した結論が外れていたことも多々あります。しかしながら、そういった失敗と推敲の反復が、思うように取材ができなかった2021年という年に大きく活かされたのは、紛れもない事実です。
例えばiPhone 1つを例に挙げても、その端末単体から想起されることは少ないが、その背景を十数年追いかけ続けてきたからこその論拠と論説がある
2022年の通信業界やテクノロジー業界は、どのような動きを見せるでしょうか。MVNO業界に吹き荒れる嵐の行方は?遅々としてエリア展開が進まず人々が興味を失い始めている5Gはどうなる?AppleやGoogleの進化に他社はどう追随する?
ネタも興味もまだまだ尽きません。2022年もまた、思うままに膨大な文字数のコラムを書き続けたいと思います。
2022年も良いお年を
記事執筆:秋吉 健
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