国際宇宙ステーション(ISS)は多数のモジュールと4基の太陽電池アレイ、そして世界中から集まった多くの訪問者を乗せており、1990年代後半から夜空に際立つ存在感を放ってきた。そして、世界的な協力と宇宙科学の象徴でもある。

「国際宇宙ステーションの後継の開発は、こうして民間企業3社に託された」の写真・リンク付きの記事はこちら

だが、それは永遠には続かない。

ISSの最初のコンポーネントであるロシア製モジュール「ザーリャ」に、小さな亀裂と空気漏れが見つかったのは2019年のことだった。軌道上の宇宙ごみもISSを脅かしている。中国は独自の宇宙ステーションを構築し、そのコアモジュール「天和」が今年4月に打ち上げられたことを受け、米航空宇宙局(NASA)は老朽化したISSの後継機の開発計画を進めている。

そして今年11月末、NASAは科学活動と商業活動を担う新たな宇宙ステーションを設計すべく、米国を拠点とする3社、すなわちブルーオリジン、ナノラックス、ノースロップ・グラマンと契約を結んだ。

NASAはISSのようなモジュールや膨張式の居住モジュールなどを開発・設計すべく、3社に総額約4億1,600万ドル(約473億円)を投資する。すべてのモジュールはレゴブロックのように、将来は追加のモジュールをドッキングできるようにしなければならない。

NASAの資金提供は詳細設計に必要な資金総額の40%未満で、残りは民間から提供される。最終的にNASAは、こうした計画からひとつだけ選んで宇宙ステーションを建設する予定だ。

「この計画はまさに新たな時代の始まりです。わたしたちは商業ベースの乗組員や宇宙貨物船を実現し、今度は商用の宇宙ステーションを建設します。これは次の大きなステップです」と、ナノラックスの宇宙システム担当上級副社長で、元NASA次長補のマーシャル・スミスは言う。

2段階の開発プロセス

NASAの関係者は、少なくとも新しいステーションの最初のモジュールが打ち上げられる予定の2020年代後半までは、ISSの運用を継続したい考えた。そして2段階のプロセスを計画している。

まず、2025年までに3社はNASAと連携して具体的な設計図を作成する。続く第2段階で、NASAの担当者が企業の計画からひとつを選ぶ。選ばれた企業は2〜3年以内に最初のモジュールを打ち上げる。そのモジュールは少なくともふたりの宇宙飛行士が研究や実験をするための宿泊施設となる。

こうしたプロセスによってISSからのシームレスな移行が可能になると、ヒューストンのジョンソン宇宙センターでNASAの商用地球低軌道開発プログラムを率いるアンジェラ・ハートは、12月2日の記者会見で語った。「この戦略によって、政府のニーズに合うサーヴィスをより少ないコストで提供し、月と火星への有人探査を目指すアルテミス計画にNASAが注力できるようになります」

今回の開発企業に選定された3社のなかでは、ノースロップ・グラマンが最も歴史がある。創業は1930年代にさかのぼり、NASAとの関係は長年にわたる。同社の提案の特徴はISSと最もよく似た外見の宇宙ステーションで、その大半にはすでに利用可能な技術とハードウェアを用いることになる。

そのステーションには、NASAが計画を進めている月周回宇宙ステーション「ゲートウェイ」のモジュールとしてノースラップ・グラマンが開発中の「Habitation and Logistics Outpost (HALO)」と同様の円筒形のモジュールが含まれている。ISSに何度も物資を運んでいる「シグナス」より大型の補給船も搭載される。

「わたしたちは極めて信頼性が高く、技術に優れ、素早く完成できる選択肢をNASAに提示すべく努力しています」と、ノースロップ・グラマンの有人探査事業開発の責任者リック・マストラキオは言う。

これに対してナノラックスが提案する「Starlab」は、従来の宇宙ステーションとは外見がまったく異なる。広くて膨張式の居住空間は、ISSと比べると3分の1の大きさの与圧室のほか、科学実験室、ドッキングポート、電力推進要素(PPE)、ロボットアームを備え、一度の打ち上げで軌道に乗せることができる。ヒューストンを拠点とする同社は、大株主であるVoyager Spaceやロッキード・マーチンと共同で開発に取り組んでいる。

ナノラックスが提案した「Starlab」のイラスト ILLUSTRATION BY NANORACKS/LOCKHEED MARTIN/VOYAGER SPACE

拡張式の居住空間は金属製の空間よりも新しいが、その技術自体は数十年前から存在している。Bigelow Aerospaceの膨張タイプのモジュール「BEAM」は、2016年からISSに接続されている。

ナノラックスの居住モジュールの材料は同社が独自開発したものだが、宇宙放射線や宇宙ごみなど絶えず危険をもたらすものからモジュールを保護するように設計されていると、ナノラックスのスミスは説明する。「膨張技術によって、居住モジュールの内部に到達するまでに通り抜けなければならない複数の層が生じ、そうした層がケブラー繊維製の防弾チョッキのようにエネルギーを吸収するのです」

ブルーオリジンがSierra Spaceと共同開発中の宇宙ステーション「Orbital Reef」は、2種類の技術を含んでいる。金属製コアモジュールと科学モジュールのほか、「LIFE」という膨張式居住モジュールを搭載しているのだ。このステーションは、さまざまな活動を支援する「宇宙空間における多目的のビジネスパーク」として設計されている。

限られた空間を巡る争い

こうした宇宙ステーションは、いずれもNASAが中核の“テナント”になると、ノースロップ・グラマンのマストラキオは言う。だが、商業宇宙旅行の市場が拡大すると、宇宙ステーションは従来とは異なる訪問者を宿泊させるようになる。観光、スポーツ、娯楽、広告などの目的でやってくる人々も含まれるようになるのだ。

ISSの後継機がどのような形状になるのか、追加するどのモジュールを優先して開発するのかは、市場原理に左右されかねない。実際のところ、最初は限られたスペースを利用できるかどうかの競争になるだろう。

米国、欧州、ロシア、日本、カナダの宇宙飛行士は、足元の空間や研究中心の実験のための空間を争う。そして個人の顧客は、自らの活動のためのスペースを宇宙飛行士の場合と同様に争うはめになりかねない。

それでもステーションが徐々につくられていくにつれ、多様な活動はさまざまなモジュールに分散する。誰も研究室で眠らないだろうし、景色や無重力を楽しみたい旅行者が宇宙飛行士のじゃまになることもないだろう。

「最も簡単に想像がつくのは、基本的には寮のようなものです。運動、食事、社交、睡眠といったすべての居住機能は、実験や製造の機能とは別の空間になります」と、ブルーオリジンの先端開発プログラム担当上級副社長のブレント・シャーウッドは記者会見で説明している。

複数の勝者が生まれる?

だが、2020年代後半までに新しい宇宙ステーションの第1段階を軌道に乗せるには、NASAと商業的なパートナーにとって難しい課題がある。11月30日に発表されたNASAの総括監察官の報告書には、「NASAは2028年という目標の期限に間に合うように計画を完全に実行し、地球低軌道の基地の利用可能性に関するギャップを避けるという大きな課題に直面している」と記されているのだ。

ISSの費用は、NASAの有人宇宙飛行の年間予算の約3分の1を占めている。現時点でISSは2024年に運用を終了する予定だが、NASAの関係者は30年まで終了期限が延長されることを期待している。その間、宇宙飛行士は新しいモジュールの運用開始までISSが安全に機能することを願いながら、亀裂や漏れを監視しなければならない。

今回の3つの契約は、NASAの商用地球低軌道開発プログラムに該当する。研究などの用途に設計されたAxiom Spaceのモジュールも同様である。そのモジュールには、24年後半に打ち上げ予定の居住モジュール、実験用モジュール、観測用モジュールが含まれる。こうしたモジュールはISSへの接続のために設計され、ISSがついに運用終了になればISSから分離され、自由に飛行する商用ステーションになる。

最終的にNASAの今回のコンペでは複数の勝者が生まれるかもしれないと、Voyager Spaceで宇宙ステーション部門の責任者でナノラックス会長のジェフリー・マンバーは記者会見で指摘している。「20年代の終わりには多数の民間宇宙ステーションが、おそらくさまざまな軌道上に存在していることでしょう」

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