泥棒、言い換えると住宅への侵入窃盗の認知件数は年々減少しています。特にコロナ禍はステイホームの効果もあり、急減しています。ただし、マンションなどの共同住宅の減り幅に比べると、戸建ての減り幅は小さくなっています。マンションでは一般的に、オートロックシステムなどが普及していることも要因の一つでしょう。一方で戸建ての場合は、侵入口となる出入り口や窓などの開口部が多いこと、建物の周囲四方にスペースがあることなどから、マンションに比べて侵入しやすいという要因もあります。

自宅を泥棒に侵入されることは、金銭的な損失もありますが、精神的な被害が大きいことも課題です。そのため、特に戸建ての防犯については十分な対策をとっておきたいものです。では、泥棒に狙われにくい家にするには、どのような対策があるのでしょうか。

住まいの防犯対策には原則がある

旭化成ホームズでは、防犯住宅に取り組み、自社が提供した戸建ての開口部などの修理記録をもとに、侵入被害についての調査結果などを公開しています。こうした調査研究をしている、同社のくらしノベーション研究所に防犯対策について聞きました。

【ポイント1】
犯罪者は、合理的に考えるので「入りやすく(壊しやすい、見つからない)」、「逃げやすい」場所を選ぶ

泥棒は、人けのない家を狙うわけですが、捕まりたくないので、その中でも入りやすく、逃げやすい家が狙われると言います。逆に言うと、周辺の家よりも入りづらく逃げづらい家であれば、泥棒に選ばれにくいということになります。

【ポイント2】
防犯対策は、「食い止め」と「見守り」

侵入しづらい、壊しづらいようにハード面を強化して「食い止め」るだけでは効果は限定的で、監視の目「見守り」というソフト面の抑制効果と合わせることで、防犯効果は高まると言います。高い塀に囲まれた家は、侵入しづらいので防犯効果が高いように思いがちですが、塀の中に入ってしまえば外からの目が遮断されるので、必ずしも防犯効果が高いわけではないのです。

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人の目が届きにくい住宅の奥側からの侵入が多い

では、くらしノベーション研究所の調査報告「戸建て住宅侵入被害15年間調査」から侵入されやすい場所を見ていきましょう。

まず、「敷地のどこから侵入するか」ですが、やはり道路側から見えづらい「建物の背面」や「建物の側面奥」が多くなっています(図参照)。特に東京・神奈川で、背面・側面奥に被害件数が集中しています。くらしノベーション研究所は、東京・神奈川では電車通勤が一般的で夕方以降も道路の通行者が多く、正面側からの侵入がしづらいと考えられると見ています。

また、中部圏では15年間の合計被害件数が多いので、奥側以外の経路からの侵入も多く見られ、ほかのエリアより特に「建物の正面」からの侵入が多いのが特徴です。これには特別な事情があるそうです。愛知県には、盗難車で住宅の正面に乗り付けて、防犯カメラに写っても誰だかわからない服装で玄関や窓をこじ開け、短時間で逃走する犯罪グループが犯行を重ねていたため、最も逃げやすい正面からの侵入が多いということです。

出典:旭化成ホームズ くらしノベーション 研究所「戸建て住宅侵入被害15年間調査」より

開口部は防犯対策で強化できるが、無施錠に注意

次に、侵入口となる開口部を見ていきましょう。開口部には「玄関」、「勝手口」、「窓」があります。玄関は正面側にあることが大半ですので、中部圏の特殊事例を除き、侵入件数が少なくなっています。勝手口は住宅への設置数が玄関より少ないにも関わらず、侵入件数が玄関より多いので、侵入リスクは高いと考えられます。窓は、最も侵入件数が多くて全体の約7割を占めますが、住宅の窓の数自体が多いので、一概に窓は侵入リスクが高いとは言い切れません。

開口部は防犯対策を強化すれば侵入件数を抑えることができます。調査結果では、ピッキング対策錠の導入により、ピッキングによる侵入はありませんでした。窓ガラスも防犯ガラスの普及によって、ガラス割りによる侵入が減少しています。近年は、ガラス割りから窓枠のこじ開けへとシフトする傾向も見られます。

勝手口についても防犯対策が導入されています。ただし、侵入件数の99件のうち52件は、勝手口に組み込まれている「格子付きの上げ下げ窓」が開けたままか無施錠だったということです。格子が付いているからと油断したのでしょう。窓からの侵入でも無施錠の事例が多く見られますので、カギをかけるという住み手側の意識も大切です。

一方、侵入リスクが低い窓には次のような特徴があると言います。

【侵入リスクが低い窓】
・スリット窓(細長い形状の窓)
→窓の幅を人が入れないサイズにするとリスクが低減
・高窓
→地面から1.7メートル以上の高さがあるとリスクが低減
・面格子付きの窓(窓の外側に金属製の格子を取り付けたもの)
→面格子付きでも窓が無施錠だと侵入されることも。必ず施錠を。
・シャッター付き窓
→シャッターが開いた状態の侵入が多いので、夕方以降まで不在する際には注意。外出時にシャッターを閉めるか、明かりをつけておくなどの対策を。

泥棒が狙いにくい家にするには?

では、泥棒が侵入しづらい家を建てたり、購入したりするにはどうしたらよいのでしょう? くらしノベーション研究所に、防犯住宅の考え方を聞きました。ポイントは次の3つです。

1.土地選び
2.家づくり
3.住みながらの対応

まず、土地選びでは、住宅の裏側や隣地に空き地や駐車場、アパートがあったり、逃走経路となる細い路地があったりすると、下見がしやすく逃げやすいため、侵入リスクが高くなります。住宅に入りやすく逃げやすくないか、人の目が多いかを現地で確認するとよいでしょう。

次に家づくりですが、侵入件数の多い場所を対策することが原則です。くらしノベーション研究では「ゾーンディフェンス」を提唱しています。道路から人の目が届く範囲のところでフェンスで仕切るなどして、その奥の「ケアゾーン(道路からの見守りがなく被害が集中する場所)」に近づけないようにすることが重要です。

見通しを確保することだけを考えると、プライバシーが損なわれるうえ、居住者の動きが外から見えてしまうことで「のぞき」や侵入窃盗の「下見」など、犯罪につながる可能性もあります。両者のバランスをいかに図るかが課題です。

出典:旭化成ホームズ くらしノベーション研究所の資料より

「ケアゾーン」については、開口部の防犯性を強化する必要もあります。防犯ガラスや2ロックなどの侵入に時間がかかるものを採用する、といった対策をすることも重要です。

さらに近年の侵入被害を考慮すると、次の図のような対策が考えられると言います。カーポート手前で侵入を防ぐ「カーポートバリア」を設けることで、車で乗り付ける窃盗グループの車を見守りの目が届きやすい道路に駐車させることができます。また、住宅の側面が道路から見えやすいように、奥に向けてライトを照らす「フォワードライティング」も効果的な対策になります。

出典:旭化成ホームズ くらしノベーション研究所「戸建て住宅侵入被害15年間調査」より

最後に、住んでからの注意点を紹介しましょう。きちんと「戸締りをする」といったことのほか、インターホンの録画機能などを使って留守中の異常を察知する、留守であることをわからせないように照明をつけて在宅に見せるなど、住み手側の創意工夫も大切です。

さらには、「ご近所との連携」が重要だと言います。近所に不審者がいるのを見つけた場合に「110番通報をしてもらえる関係」が築かれているかどうかが、防犯上の大きな対策になるのです。

「泥棒に狙われにくい家」にするには、侵入経路を考慮した防犯対策や開口部の強化などがカギになりますが、加えて住んでいる間も「ご近所さんは、万一のときに通報してくれる」関係づくりをしていきましょう。

取材協力:旭化成ホームズ くらしノベーション研究所

執筆者:山本 久美子(住宅ジャーナリスト)