宇宙に出る方法を子どもにもわかりやすくイラストで示すと?(出所)『ロケットかがく for babies (Baby University)』(サンマーク出版)

2021年7月11日、アメリカの宇宙関連企業ヴァージン・ギャラクティックが有人試験飛行を成功させ、次いでアマゾンの創業者ジェフ・ベゾス氏が設立したブルーオリジンも有人試験飛行を成功させた。また12月12日には、日本人民間宇宙飛行士としては初めて実業家の前澤友作氏がISS(国際宇宙ステーション)に渡航し滞在を始めた。

費用がかなり高額ゆえ一部の富裕層しか「宇宙に行く」を実現できていないが、宇宙旅行の可能性が広がったことをビジネスチャンスと捉える大人だけでなく、子どもたちの宇宙への関心も今後さらに高まることが予想される。

こうした背景もあり、アメリカでシリーズ100万部を突破した科学絵本のなかでも人気の高い『ROCKET SCIENCE for babies』が『ロケットかがく for babies』として邦訳・出版された。その内容について、本書の訳者であり、NASAジェット推進研究所技術者である小野雅裕氏の解説を加筆・改変し、お伝えする。

赤ちゃんにも物理法則を伝えやすいのはボール?

他の多くの技術と同じように、飛行機やロケットも子どもの夢から生まれました。

ライト兄弟は幼少期に父から与えられたおもちゃのヘリコプターに夢中でしたし「ロケットの父」と呼ばれるロバート・ゴダードは少年時代にSF小説を読み耽り、火星に行く船をつくることを夢見ました。本書には、ライト兄弟やゴダードが実現させた「揚力」や「推力」を生み出すしくみが、直感的かつエレガントに説明されています。

まず、冒頭に宙に浮いたボールが登場します。これは丸い形が乳幼児にも認識しやすく、変形させることで揚力が生まれるしくみを伝えやすくなるからです。次に、そのボールがまっすぐ動き出しますが、まわりにある空気はボールといっしょには動かないため、ボールにぶつかって避けていきます。身近な形であるボールに、目に見えない空気がどのように働くかを視覚的に示したわけです。


風がスムーズに避けていく(出所)『ロケットかがく for babies (Baby University)』(サンマーク出版)

そしてボールが「しずく」を横向きにしたような形になると、空気の流れである「風」がスムーズに避けていく様子がわかります。さらに、この変形したボールを少し上向きにすると、風の流れが変わって下向きの力が生じ、作用・反作用の法則から飛行機が飛ぶための「揚力」が生まれることが、イラストと力の方向を示す矢印で示されるという流れです。

もちろん専門書ではありませんから、内容は完全ではありません。たとえば揚力を説明するために一般的に用いられる「ベルヌーイの定理」には触れていません。とはいえ正確性を犠牲にしているわけでも決してありません。科学は往々にして1つの現象を説明するのにさまざまなアプローチがあります。本書では絵本に適した、より視覚的で直感的な説明をするために、上述した作用・反作用の法則に基づいたアプローチで説明しています。

ロケットを宇宙へと導く「推力」とは

次に登場するのが推力です。これは作用・反作用の法則に基づく典型的な効果です。ロケットから燃料が後ろに飛び出す「作用」が生じることで、その逆方向に「反作用」が生じてロケットは前に進みます。

もし「作用・反作用の法則」と聞いて「物理は苦手」と思う方がいらしたら、床からジャンプすることを想像してみてください。跳び上がる前に、あなたの足の裏が床を下向きに押しますよね。すると体が持ち上がります。あなたが床を下向きに押す力が「作用」で、その反力として床があなたを上向きに押し返す力が「反作用」。その反作用であなたは上へジャンプできるのです。作用が大きければ反作用も大きくなるため、より強く踏み込めばさらに高くジャンプできます。

ジェット・エンジンやロケット・エンジンが前へ進む力、すなわち推力を得る原理もこれと同じ。後ろ向きにジェットを噴射し、その反力で前に進むのです。

冒頭に紹介したゴダードが「ロケットの父」と呼ばれるゆえんは、本書に説明されているロケットの原理で宇宙を飛べることに最初に気づいた1人だからです。しかし当時、彼が称賛されたかというと、残念ながらそうはなりませんでした。それどころか当時のニューヨークタイムズにこう書かれてしまいます。

100年前、あの大手新聞が伝えたこと

「ゴダードが作用・反作用の法則を知らず、真空では力の作用が働かないことを理解していないのは馬鹿馬鹿しい。高校で教わる程度の知識すら彼に欠けていることは明白である」


現代を生きる私たちは、当時のニューヨークタイムズのほうが間違っていることを義務教育で学んでいます。本書に記したように「ねんりょうが ごおぉぉぉぉって うしろへ とびだすと びゅーんって まえに とんでいく」のが作用・反作用の法則で、これこそが空気のない真空中でも前に進める理由です。もちろん100年前のクオリティーペーパーの記者にはわからなかったことも、みなさんのお子さんは簡単に理解できるでしょう。

ゴダードは、世間から冷たい目を向けられても子どもの頃の夢を信じ、くじけずに研究を続けました。そして世界初の液体燃料ロケットをつくり上げたのです。彼のロケットは宇宙には届きませんでしたが、現代のロケット技術の礎となりました。

ゴダードはこう言いました。

「昨日の夢は、今日の希望であり、明日の現実となる」

もしかしたら本書を読んだお子さんの描く夢が、学び続けるうえでの希望となり、将来、誰も成し得なかったことを現実とするのかもしれません。