オリンピック金メダリストのクロアチア人・石井慧&グレイシー一族に恨みを買った大山峻護、波乱万丈の格闘家対談

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 2008年の北京オリンピック柔道男子100kg超級で弱冠21歳ながら金メダルを獲得するも、その3ヶ月後には総合格闘家への転身を表明するなど、奇想天外な言動で一躍ときの人となった石井慧選手。総合格闘家デビュー戦は柔道界の大先輩である吉田秀彦さんに判定負けを喫し、以降は海外を転戦しながら着実にキャリアを重ねてきた。今年9月には日本のK-1のリングでその実力を披露したが、メディアで取り上げられるのはクロアチアに住む彼女の存在とクロアチア国籍取得、社会情勢に対しての発言など、取り沙汰されるのはリング外のことばかり。

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そんな石井選手に話を聞くのは、石井選手と同じくミルコ・クロコップとの対戦経験もある元総合格闘家で、以前から親交のある大山峻護さん。

大山さんは柔道選手として全日本実業団個人選手権優勝などの実績を持ち、26歳の時に総合格闘家としてプロデビュー。そのわずか3ヶ月後にはPRIDEに初参戦し、ヴァンダレイ・シウバと対戦するもTKO負け。網膜剥離から復帰したPRIDE三戦目のヘンゾ・グレイシー戦では判定で辛勝するも、消極的な戦い方にグレイシー一族やマスコミ、ファンからバッシングを浴びた過去を持つ。一方で、大晦日のK-1という夢の舞台でピーター・アーツ相手に1R30秒で一本勝ちするなど、ドラマチックな格闘家人生を送ってきた。

柔道家からの総合格闘技への転身、超大物との対戦で得た栄光と挫折など、いい時も悪い時も味わった者同士の対談。格闘技への想い、そして自身の生き様について語った。

ミルコ・クロコップに負けてミルコのジムに突撃弟子入り

大山:9月20日のK-1(K-1 WORLD GP 2021 JAPAN 〜よこはまつり〜)では、愛鷹亮選手相手に勝利。愛鷹選手はハードパンチャーで有名なので、正直どうなるかな、ってところはあったけど、まずは初めてのK-1はどうでした?

石井:疲れましたね。初めての参戦だったので、無知ゆえの疲れですね。正直、一発もらうまでは不安でしたけど、一発もらって大丈夫だなって。日本人の打撃って外国人に比べたらあまり重くないので。

大山:石井くんは総合格闘技が主戦場でありながら、打撃オンリーのK-1に挑戦。その理由や原動力は何だったのでしょうか?

石井:K-1は子供の頃から見ていたので、純粋にK-1で自分の力を試してみたかったんです。たまたま知り合いにK-1出身の人がいて、話が進みました。キックボクシングの舞台で、打撃以外逃げ場のない状態で打撃だけで戦うということが、一番スキルが上がるかなと思って参戦しました。実践を経験しないと本当の強さは身につきませんから。

大山:ローキックがものすごくシャープで、アジャストしている印象でした。

石井:ローは徹底的に練習してきましたね。基本的にミルコのところでは総合だけですけど、今回は打撃も練習しました。

大山:ミルコとも一緒に練習を?

石井:しました。9月のK-1前にミルコとはスパーを2度やりました。ジムのみんな、ガチでやっています。

大山:ミルコのジムに行ってもう4、5年経ちますよね。

石井:4年くらいですかね。その前はオランダに2〜3年いて、その前はロサンゼルスでいろいろなジムに行きました。総合はこのジムで、フィジカルはこのジムで、という感じで、アメリアには4〜5年いましたね。日本ではほぼ練習していないです。

大山:アメリカ、オランダ、クロアチア。その中で一番クロアチアの水が合った感じですね。

石井:そうですね。アメリカはチーム練習。30人とかいて、30分の1のアテンション。全員がそういう訳ではないですし、僕の偏見だけど、アメリカは資本主義の最たる国だから、お金をしっかり払うか、注目されてお金儲けができる選手かどうか。お金が発生しないと何もしてくれない。シビアですよ。オランダではなめられていたのか、嫉妬されていたのか、わざと潰しにくるような選手もいましたね。

大山:本当にすごい格闘技人生を歩んでいますよね。オリンピックで金メダルをとっている超一流の選手なのに、あえて厳しい道に行く。こんな選手なかなかいないですよ。本当に、ファイターとして尊敬しています。

石井:でも、海外の方が楽ですよ。同調圧力とかないですし。日本にいた時も歓迎されている感じはなかったですね。僕は無理に周りに合わせたりせずに自分の意見を主張するので、周囲から煙たがられていましたから。海外の方がやりやすいです。

大山:石井くんはいろいろなことをすごく考えていると思います。どうやったら強くなれるかとか。いいって思ったらすぐに行動できるし、違うと思ったらすぐに方向転換できる。行動力もあるし、柔軟性もすごい。クロアチアに行こうと思ったのは、ミルコと戦って何かを感じたということですよね。

石井:僕と対戦した後、ミルコはUFCでも勝っているし、その後RIZINでも優勝しているんですよ。ちょうどそのくらいの時、僕はオランダに住んでいたので、最初は興味本位で行ってみようって。2週間くらい。行ったらみんな優しいし、人がよかった。

大山:興味本位でいけるってすごいですよ。

石井:ミルコもすぐに受け入れてくれて。そこから2017年4月のヒース・ヒーリング戦までトレーニングキャンプをやったんですよ。ヒース戦は結局勝てて、それから本格的に引っ越しました。

大山:石井くんは今まですごい男たちと戦ってきましたよね。ジェロム・レ・バンナ、ベラトールでクイントン・『ランペイジ』・ジャクソン、キング・モー。ミルコにヒョードルなどなど。とんでもない連中ばかり。普通それだけの選手と当たったら心身ともに壊れてしまうけど、石井くんは真っ向勝負でやりあってきた。怖い気持ちはないんですか?

石井:怖い気持ちはありますよ。怖いにもいろんな気持ちがあります。身長2mで、減量して体重120キロの相手とか、純粋な怖さもあります。今回のK-1参戦は違う緊張がありました。初めてだし、どうしても勝ちたかったし、練習してきたことをちゃんと出せるのか怖かった。やってきたことを見てもらいたかったので。

大山:試合では前は判定が多かったけれど、一本を取れるようになってきましたね。

石井:シンプルに、実力がついてきたんだと思います。経験がないときに強い人とやって、どうしても勝ちたいから判定になっていた。あと、個人的にケージレスリングの戦い方が合っていた。止められないし、ゆっくりグラウンドに使えるので。海外だとケージが主流だし、ケージの練習しかしてなかったですね。

大山:特にグラップリングに力を入れてきたんですか?

石井:そういうわけではないですけど、グラップリングの試合に出るようになりました。決め切るっていうことにフォーカスしてそういう大会に出て、意識が変わってきましたね。

大山:柔術の世界チャンピオンの彼女ができて変わったとかは?

石井:柔術の勉強はするようになりました。今まで柔術の選手って知らなかったんですけど、クレイグ・ジョーンズとか、ゴードン・ライアンとか強い選手がいて、今はそういう強い人たちの映像を見たりとかしていますね。

大山:意識が変わったんですね。

石井:桜庭和志さんが立ち上げたグラップリングイベントのQUINTET(クインテット)に出るようになってからですかね。ジョシュ・バーネットに誘われて出るようになりました。

大山:クロアチアではどんな練習をしているんですか?

石井:主に総合の練習をしています。よく、総合格闘技をやるなら打撃はボクシングを学んだ方がいいとか、キックボクシングをやった方がいいとか聞きますけど、でも僕はたぶんそれ違うと思うんですよね。テイクダウンも全部ひっくるめた打撃をやらないといけないわけで、それだけやっていてもどうなのかなって。

モチベーションがあれば言葉の壁は越えられる

大山:石井くんは世間の声に負けずに自分を磨き続けている姿勢がすごいって思うし、格闘家としても人間としても進化している。海外での生活で、言葉や生活環境は大丈夫ですか?

石井:言葉はモチベーションがあれば喋れるようになります。勉強しましたよ。やっぱり、勉強しないと覚えない。語学って一番手っ取り早いスキルの身につけ方だと思うんですよね。何したらいいかわからないけど、自分のスキルをあげたいって思うなら、モチベーションさえあれば語学が一番手取り早いと思います。

大山:学生時代はそんなに勉強していなかったですよね…?(笑)

石井:していなかったです。大学で教えていることはほとんど必要ないことだと思うので。僕大学の時に栄養学のテストで、「一般人の栄養学をスポーツ学科の学生に教えたって当てはまらない。健康のためや人のためにやっているわけじゃないから」って、自分の栄養に関するアツい思いを書いて提出したら、後で先生に呼び出されました。

大山:石井くんらしいエピソードですね(笑)。今、言葉は問題なく過ごせているってことですね。

石井:一番は英語、次にクロアチア語、ロシア語も読み書きできますが発音が難しい。英語は普段の生活で支障がないですけど、クロアチア語は友達とかと話していると英語とクロアチア語のコンビネーションになる感じですね。やっぱり、話を聞いてくれる人がいると伸びるらしいです。クロアチアとかは公用語の他にいろいろな言語を話す人がいるから、クロアチア語以外も聞こうとしてくれるんですよね。

大山:そういった意味では、クロアチアにいる彼女の存在も大きいですよね。

石井:大きいです。あと、子供と話すのも勉強になるみたいですね。日本人でクロアチアの子供に柔道を教えていた人がいたんですけど、2年くらいでクロアチア語をベラベラに話していました。子供って簡単な言葉を使うし、ゆっくり話すし、エナジーがすごい。大人だったら単語とかがわからないと英語に逃げるけど、子供ってわかるまで諦めないですからね。

大山:石井くんは格闘技に対しても生き方に関しても真っ直ぐで純粋だし、すごくいろんなことを深く考えている。ただ、メディアに少し誤解されている印象があります…。

石井:それは違うんですよ。僕のことを編集せずに伝えてくれているメディアもあります。僕がなんか言ってもカットしたりして、向こうのイメージを植え付けようとしてくるところもありますけど。でも、それは向こうも仕事としてやっているからしょうがないですけど。

大山:石井くんはオリンピックで金メダルとって、鳴り物入りで格闘技のプロになったけど、なかなか結果が出ない時もあって大変だったと思います。期待値が高かったからこそ、世間の反発もあったりして。でも、ここにきてやってきたこと一つ一つが繋がってきて、いい風がすごく吹いているなって感じますね。

石井:人生いい時もあれば悪い時もある、その繰り返しですからね。目の前のことを一つ一つやるだけです。

大山:これからの夢は何ですか?UFCとかで戦う姿も見たいですね。

石井:行きたいですね。一番強くなりたいです。

大山:見たいですね、石井くんがUFCで戦う姿。今回はK-1という大舞台に立って、あれだけの打撃のスキルを見せていたというのはすごいことだし、あれで石井くんを見る目がガラッと変わってきたと思います。UFCに出て、今までの評判とか全部ひっくり返す姿を見せてほしいです。

「死ぬ覚悟があるなら試合に負けて死ね!」

大山:石井くんは国士舘大学時代、朝まで練習してしまうくらい練習をしていたっていう話は有名ですけど、そのパワーの源はどこから?

石井:怪我との戦いでしたよ。オーバーワークだったり、練習で無理に技かけたりとか。でも、オリンピックまでは頑張ろうかなって思っていました。

大山:オリンピックへの出場が危うくなって絶望して、気付いたらビルの屋上にいたって話を聞いたことがありますが…?

石井:怪我で選考が不利になったと思って。ちょうどその時先輩から「今何しているんだ?」って電話がかかってきて、それで「今、ビルの屋上にいます。死のうと思います」って話したんです。ずっとオリンピックを目標にしていたので、鬱になっていたんでしょうね。そしたら先輩から、「お前は侍だろう!試合で負けると言うことは死を意味するから、死ぬ覚悟があるなら試合に負けて死ね!」って言われて。なんかその言葉が刺さったんですよね。ちゃんと紙に書いて残していました。

大山:覚悟がすごいですよね。ずっとアクションを起こして扉を開いて未来を作ってきた男だから、石井くんのこれからが楽しみです。こういう生き方をしている男がいるということをもっと多くの人に知ってほしいし、石井くんの生き様を見て頑張ろうって思う人が増えてくれたら嬉しいです。

石井:コロナ禍で難しいことばかりですけど、待っているだけでは好転しないですから。行動を起こすとまた違うドアが開く。何かアクションを起こすとそれが思わぬ方向に繋がったりするので、自分ができることを行動に移してもらえればいいのかなと思いますね。

石井選手の次戦は、12月4日に地元・大阪で行われる「K-1 WORLD GP 2021 JAPAN」。193cmの長身ストライカーRUI選手と対戦する。8年ぶりの地元凱旋マッチ、酸いも甘いも知り尽くした男が、磨き続けてきた技術と生き様で大阪をアツくする。

[文/構成:ココカラネクスト編集部]

※健康、ダイエット、運動等の方法、メソッドに関しては、あくまでも取材対象者の個人的な意見、ノウハウで、必ず効果がある事を保証するものではありません。

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大山峻護(おおやま・しゅんご)

5歳で柔道を始め、全日本学生体重別選手権準優勝、世界学生選手権出場、全日本実業団個人選手権優勝という実績を持つ。2001年、プロの総合格闘家としてデビュー。同年、PRIDEに、2004年にはK-1・HERO‘Sにも参戦。2012年ロードFC初代ミドル級王座獲得。現在は、企業や学校を訪問し、トレーニング指導や講演活動を行なっている。著書に「科学的に証明された心が強くなる ストレッチ」(アスコム)。ビジネスマンのメンタルタフネスを高めていくための本「ビジネスエリートがやっているファイトネス〜体と心を一気に整える方法〜」(あさ出版)を出版。