アップルがついに「修理する権利」を受け入れたことの意味
「修理する権利」を手に入れる道のりは、長く険しい。自分が所有するデヴァイスを自分の好きなやり方で修理することは、いまだにあまりにも困難なのだ。米国ではいくつかの州で法案が提出されて議論が交わされてきたものの、成立したのは1州のみである。
「アップルがついに「修理する権利」を受け入れたことの意味」の写真・リンク付きの記事はこちらのちにジョー・バイデンが大統領令を発令し、続いて米連邦取引委員会(FTC)が投票を実施して、修理する権利はいくらか法的実効性を得た。それでも、さほどの具体的成果はまだ生んでいない。完全に泥沼にはまっているのだ。
だからこそ、アップルによる「Self Service Repair(セルフ・サーヴィス・リペア)」のプログラムの発表は、かなりの驚きをもって前向きに受け止められている。
米国のアップル製品のユーザーは、2022年初めには「iPhone 12」と「iPhone 13」の修理マニュアルを入手できるようになる。続いて「M1」チップを搭載したMacが対応し、ほかの国々でも22年中にはプログラムが適用される。
また、新たに設けられる「Apple Self Service Repair Online Store」では、iPhoneのディスプレイやバッテリー、カメラの交換といった一般的な修理に対応できる200種類を超える部品とツールを注文できるようになる。使用済みの部品をリサイクル用に送り返せば、修理部品の購入代金に充当できるクレジットが付与される仕組みだ。
大きな方針転換
「修理する権利」を長年にわたって阻止しようとしてきたアップルにとって、今回の決定がどれだけ大きな転換であるかは言葉に尽くせないほどである。
これまでアップルは、消費者が自分でデヴァイスを修理できるようにすることは、消費者の安全とセキュリティを危険に晒すことになると主張してきた。そして法律や規制と、ことごとく戦ってきたのである。方針転換という意味では、『チャーリーとチョコレート工場』のウィリー・ウォンカが歯磨き粉を販売しようとするようなものだ。
「ようやく、といった感じです」と、オンラインの修理コミュニティを運営するiFixitの共同創業者で最高経営責任者(CEO)のカイル・ウィーンズは言う。消費者による修理を実現するために活動してきたウィーンズは、法的措置を講じるとアップルから脅されたことがあるという。「消費者が修理できるようにしてほしいと、わたしたちは18年にわたってアップルに要求してきたのです」
修理する権利を求める活動家らは、セルフ・サーヴィス・リペア・ストアを完全な勝利とはみなしていない。実際にどのようなかたちで展開されるかについては、気になる問題が残ると考えているのだ。
アップルはすでに、外部の技術者にツールや部品、マニュアルを提供する「独立系修理プロバイダプログラム」を提供している。新しいシステムが同様の形式になるなら、修理に使えるのはアップルから購入した特定の部品だけになり、より安価なサードパーティー製のディスプレイなどは使用できない。
アップルは依然として、「大多数のお客さま」は認定技術者に修理を依頼するほうが望ましいとしている。また、多くのデヴァイスは引き続き修理が困難か、あるいは修理が不可能なままである。特に「AirPods」は「“使い捨て”するように設計されている」と、ウィーンズは指摘する。
今後のアップル製品は修理性が向上?
それでも、明るい材料も多い。アップルは『WIRED』US版の取材に対し、独立系の修理店は煩雑な独立系修理プロバイダプログラムの契約を結ばなくても、このプログラムを利用できるようになると説明している。ただし、このプログラムでは部品のストックが可能になるといった特典は受けられない。
またアップルの発表によると、「修理性の向上」を製品設計に取り入れる予定だという。これは独自の修理をやりやすくする目的とみられる。
実際、このほどデザインを一新した2021年モデルの「MacBook Pro」には、すでにその一端を垣間見ることができる。豊富な入出力ポートに加えて、バッテリーが大幅に交換しやすくなっているのだ。こうした細かな設計面での微調整によって、消費者は新しい部品に簡単に交換できるようになる。それどころか、MacBookを買い換えなくても長く使えるようになるわけだ。
「これは修理店にとっての勝利、消費者にとっての勝利、そして地球にとっての勝利です」と、消費者団体の公共利益調査グループ(PIRG)で「修理する権利キャンペーン」のディレクターを務めるネイサン・プロクターは言う。
政府からの注目が影響
アップルは今回の発表に際して、方針転換の理由についてはあまり詳しく説明していない。最高執行責任者(COO)のジェフ・ウィリアムズは、「アップルの純正部品を利用しやすくすることで、修理が必要になった際にお客さまの選択肢がさらに増えます」と説明している。
だが、活動家たちは、アップルに方針転換を強いたのは公的圧力、とりわけホワイトハウスとFTCからの圧力だと確信している。FTCは、修理制限が独占禁止法違反の可能性があるものとして検討すると説明していたからだ。
「政府からの注目が大転換をもたらしたのです」と、iFixitのウィーンズは言う。「FTC、ホワイトハウス、修理権法案を提出した27の州、オーストラリア政府、カナダ政府、欧州委員会など、誰もがこの問題に注目しています」
これはアップルの突然の心変わりがもたらす、より重要な長期的影響を示すものかもしれない。スマートフォンの交換部品を販売するのはアップルが初めてではない。モトローラは18年にDIY修理キットを導入している。
それでも交換部品を販売するスマートフォンメーカーとしては、アップルは間違いなく最大手だ。もしアップルが、修理する権利は消費者に損害を与えるものでなく、それどころかセールスポイントになることを暗黙の内に認めたのであれば、何年も前から州議会で棚上げされてきた法案もようやく可決されやすくなるだろう。
「修理サーヴィスが合理的で実現可能であることを示すメーカーが増えれば増えるほど、もう言い訳ができないことが議員たちにもはっきりわかるはずです」と、公共利益調査グループのプロクターは言う。「いまこそ修理する権利をすべての米国人に与え、すべての人が自分の製品すべてを修理できるようにすべきです。それがあるべき姿なのですから」
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