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 多磨地区の中でも指折りのラーメン激戦区として知られる、JR武蔵小金井駅周辺エリア。駅の北側には『まるしゅう』『燕三条豊潤亭』『ななふく』、南側には『小金井大勝軒』等の実力店がひしめきます。

 また、駅からは少し距離がありますが、本年(2021年)4月には『ラーメン前原軒』がオープン。『前原軒』は、横浜家系ラーメンを提供する新店。九州豚骨ラーメンの名店『田中商店』の創業者・田中氏が味を創ったこともあり、ラーメン好きの間で大きな話題を呼んでいます。

 そんな武蔵小金井の地に、2021年6月16日、一軒のラーメン店が誕生しました。それが、今回ご紹介する『中華そば一清』です。

 店舗の場所は、武蔵小金井駅から約300m(徒歩3分程度)。立地は、同駅周辺のラーメン店の中でもかなり至便な部類。でありながら、ロケーションは大通りから少し入った路地沿い。地元に生活圏が存在する人か、あらかじめこの店の存在を知る人でなければ、十中八九、見逃してしまいそうな場所に静かに佇みます。

シンプルでありながら良店のオーラが色濃く漂う外観

 店の入口には、年輪が淡く浮かび上がる木材に、白い縁取りが施された黒文字で『中華そば 一清』の屋号が大書された看板。清潔感のある白い暖簾の右下に「ワンポイント」として『一清』の文字が踊ります。

 客席はカウンター席のみ。余分なものを置かずにキチンと整理整頓された空間からは、すでに一流店特有の引き締まった空気が漂っています。厨房に控えるのは、上田拓(うえだひろし)店主。

シンプルな内装が高級感を醸す店内

 上田店主は、『町田汁場しおらーめん進化』で5年2ヶ月にわたり修業。店主の修業先である『進化』は、東京・町田市はもちろんのこと、全国を代表する塩ラーメンの実力店のひとつ。同店の1杯を求めて、全国各地からラーメン好きが駆け付けるほどの名店です。

 そんな名店でしっかりと研鑽に励まれた上田氏がこの度、満を持して新店を開業したと聞いて、ラーメンマニアが放っておくはずがありません。オープンから1ヶ月も経たない間に続々と耳に入ってくる高評価の声の数々も、ラーメン好きの訪問意欲を掻き立てるのに十分なものがありました。

 というわけで、私も勇躍、店舗へと足を運ぶことにした次第です。夜の部開始直後のタイミングに訪問しましたが、店内は既に満席に近い状態。幸いながら訪問時は、行列まではできていませんでしたので、「塩」と「醤油」の2杯を連食させていただきました。

完成度の高さに驚愕する「塩」と「醤油」!

オーダー後、数分で提供された「塩」と「醤油」(※訪問時は同時ではなく、一杯ずつオーダー)

 店舗の入口付近に小型券売機が鎮座。提供する麺メニューは、2021年8月1日現在、「塩」と「醤油」の2種類、および、そのバリエーションのみ。

 厨房におけるラーメン作りの一挙手一投足が、カウンター席から手に取るように分かります。まるで劇場の最前列で観劇をしているかのようなライブ感。淀みのない清流の水のごとく無駄のない所作に、店主が培ってきた修業の成果が垣間見え、思わず見惚れてしまいました。気付かぬ内にラーメンが眼の前に供されていることに、驚かれる方も少なくないのではないでしょうか。

「塩」790円

「塩」「醤油」ともに、一本一本の麺線が交わらず平行を保つよう美しく整えられた中細麺と、半透明のスープの組合せ。麺は、スープ表層から浅い箇所までの姿形が視認できる塩梅。スープから舞い上がる芳香も相まって、口を付ける前から、多種多様な素材が用いられていることが分かる仕様となっています。

スープの一部。厨房でもひときわ存在感のある寸胴には鶏をはじめとした様々な食材が

 スープは、鳥取県産の銘柄鶏でジューシーな肉質が特徴的な「大山どり」をじっくりと丁寧に炊き上げた動物系出汁と、北海道産真昆布・高知県産鰹節等の魚介素材から構成される出汁とを、絶妙なバランスで掛け合わせたもの。使用する素材の数は約20種類に及びます。

レンゲの底が見えるほどクリアなスープ

「現在のところ、高級素材やレア素材は全く使っていません。自分にはまだ早いと考えていますから。今は、素材のうま味の表現方法やバランスを考え抜いている段階。日々蓄積されていく経験を羅針盤に、細かな改良を繰り返しています」と上田店主。

 実るほど頭を垂れる稲穂かな。その言葉は上田氏のためにあると言っても過言ではないでしょう。修業先が名だたる実力店でありながら、自分の味をしっかりと構築しようとする点にも好感が持てます。

程よい弾力とコシのある麺

 さて、続けて今度は「醤油」をいただきます。

「『進化』は塩ラーメンの専門店なので、もちろん、スープは『塩』に特化したものです。が、当店(『一清』)では醤油ラーメンも提供するので、醤油ダレとの相性も考慮しなければなりません」(上田氏)

「醤油」790円

『進化』のような出汁感で圧倒する塩ラーメンを作ろうとすると、スープが勝ってしまい、醤油ラーメンで用いている「濃口醤油」の持ち味を十分活かすことができなくなるとのこと。「なので、素材に由来するうま味を若干抑え、タレにうま味の粋を凝縮させることで、この問題をクリアできればと考えました」と上田店主。

上品な醤油の香りが心地よい

 スープを啜り上げた瞬間、力強い塩ダレの味わいが味蕾(みらい)の1つひとつに斬り込む「塩」と、奥深くまろやかな濃口醤油のコクが口内でじわりと広がる「醤油」。2杯を連食すれば、まさに、動の「塩」、静の「醤油」といった趣。両者の個性の違いを、肌身で実感することができます。

 塩ダレは、石川県・北海道・沖縄県の海から採った5種類の塩をブレンドし、醤油ダレは、小豆島産の生搾醤油を軸に3種類をブレンド。土台としてこれらのタレを支える、鶏の滋味と節・昆布の和味とのバランスも秀逸です。1杯を構成する各々のパーツの持ち味を熟知し、縦横無尽に組み合わせることによって、訴求力と一体感を兼ね備えたうま味の構築に成功しています。

麺量が多いことがむしろ喜びに感じられるほどに飽きのこない一杯

 このスープと合わせる麺は、数種類の国産小麦をブレンドした、しなやかな中細麺。スープとの相性も申し分ありません。絹のように滑らかな麺肌が快適な啜り心地を約束。麺量はやや多めですが、あっと言う間に啜り切れてしまうことでしょう。

 トッピングは、チャーシュー、メンマ、白髪ネギの3種のみという、この上なくシンプルな構成。使い方によってはスープの持ち味を損ないかねない白髪ネギをうまく使いこなしている点は、特筆に値します。特に、「塩」のスープと白髪ネギの相性は抜群。白髪ネギの微かな苦みと甘みが味蕾に刺激を与え、スープの持ち味を引き立たせる役割を全うしています。

 オープンしてまだ日が浅いにもかかわらず、提供されるラーメンからは堂々たる名店の貫禄すら感じられる同店。2021年のラーメンシーンを語るに外すことができない1軒であることに間違いはないでしょう。

店主(上田 拓氏)のプロフィール

・独立する前、東京都町田市の全国的名店『町田汁場しおらーめん進化』に5年2ヶ月在籍し、ラーメン作りのノウハウを習得。
・店舗の場所を武蔵小金井に決めた理由は、物件を探して色々な街を見てきた中で、武蔵小金井が住みやすそうな街だと思ったことによるもの。
・現在の「塩」「醤油」に加えて、「つけ麺」や「冷やしラーメン」を新たに開発しメニューリストに加えたいと考えており、現在、商品化に向けて試行錯誤を繰り返しているところ。

●SHOP INFO

店名:中華そば一清 (ちゅうかそばいっせい)

住:東京都小金井市前原町3-40-23
TEL:非公開
営:11:00~15:00、18:00~21:00、水曜11:00~15:00
休:木曜

●著者プロフィール

田中一明
「フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。47都道府県のラーメン店を制覇し、現在は各市町村に根付く優良店を精力的に発掘中。