「都立高入試の男女別枠は、性差別だ」 医学部不正入試訴訟の弁護士らが撤廃求める意見書
全国で唯一、男女別定員制が導入されている都立高校の一般入試。その合格ラインが男女で大きく異なっていることから、制度の見直しを求める声が高まっている。
2018年には、複数の大学の医学部入試で、女子の合格ラインを男子に比べて厳しくしていたことが発覚し、元受験生らが大学を相手取り、訴訟を起こしている。
その弁護団の有志が、都立高校の入試に関する意見書を公表し、東京・霞が関の文科省で6月28日、記者会見を開いた。
弁護士らは、都立高校の入試の男女別枠について医学部不正入試と同根であり、「憲法や教育基本法に違反する許されない性差別」と指摘し、制度の撤廃を求めている。
●「女子差別だけでなく、一部男子とっても不利な制度」
意見書によると、都立高校の合否は、基本的に学力テスト(700点満点)と調査書(300点満点)によって決まるが、大半でその女子の合格基準点が男子を上回っている現状を指摘し、女性差別が生じているとする。中には、男女で合格基準点が100点以上差が出た高校もあるという。
このため、弁護士らはこの制度について、「ひとしく、その能力に応じた教育を受ける機会」を保障する憲法26条や、性別による教育上の格差を禁止している教育基本法4条などに違反するとしている。また、個人の「学校選択の自由」や個人の能力に基づき公正かつ公平な評価を受ける利益を侵害しているとした。
この制度は1950年度から導入されたが、当時は女子の教育機会が限定されて、男子の学力のほうが高かったことが背景にあった。特に旧制高校を前身とする高校では女子の入学が困難だったことから、男女共学実現を目的とされた。
現在でも、都立高の中でも最難関である日比谷高校では、女子よりも男子のほうが倍率が高い。もしも、男女別定員制が撤廃されたら、こうしたトップクラスの高校では、男子の割合が増えてしまうという指摘もある。
会見した一人である笹泰子弁護士は「こうした措置は、構造的、歴史的に差別されてきた人たちに対する一時的な救済です。導入当初は重要でしたが、すでに(男女比の一律)はほぼ達成されており、現在の制度維持の根拠とはなりません。現在では、女子差別というだけでなく、一部の男子にとっても不利が生じている性差別です」と説明する。
●「私学への影響」による制度維持に合理性は?
今回、意見書を公表したのは、 弁護士十数人による「都立高校入試のジェンダー平等を求める弁護士の会」で、医学部不正入試訴訟の弁護団のメンバーで構成される。ジェンダー多様性の視点からも、男女別定員を撤廃すべきとの立場をとる。
「文科省が性同一性障害の生徒に対する配慮を求め、実際に全国的にはジェンダー多様性に配慮し公立高校の出願時に性別の記入すら求めない自治体が圧倒的多数に上っている」として、「時代の流れに逆行している」と批判している。
一方、制度維持の背景には、都内私立校への配慮もある。都内には全国最多の238校の私立校がひしめくが、このうち女子校は3割超え、男子校の倍以上にあたる。もし都立高に進学する女子が増えれば、こうした私立女子校への影響があるとみられる。
実際、東京都は1990年以後、繰り返し専門家委員会から男女別定員を撤廃すべきという答申を受けているが、「私学への影響」を理由に実施には至っていない。
弁護士らは、こうした東京都に対しても、「制度維持は合理性と相当性に欠け、憲法14条1項で定める平等原則に反し、行政庁の裁量を超えている」と厳しく批判している。
意見書を公表した一人で、「医学部不正入試における女性差別対策弁護団」共同代表の角田由紀子弁護士は会見で次のように話した。
「私たちの社会ではジェンダーを男性、女性のふたつに分けて考えてきました。しかし、他県の入試では男女の性別記入を廃止し、ジェンダーレスの制服を選べる高校も増えてきています。
そうした中、新たなジェンダーへの理解を深め、あらためて制度を考え直す時代にきていると思います。しかし、都立高の男女別定員は時代に遅れ、多くの15歳の子どもたちが犠牲になっています。
しかし、子どもたちは自分の力ではこの制度を是正できません。東京都はすみやかに考え直してほしいと思います」
今後、有志の会では、東京都教育委員会や都議会、文科省などに意見書を提出し、はたらきかけをしていくという。