人間関係を円滑にする「あいづち」。

 無意識のうちに打っていますが、意識的に行うと、人の気持ちを動かしたり、仕事で良い結果につながったりするようです。

 自分のあいづちの癖は、脳内で再現すると、「へぇ〜」「はぁ〜」「はいはい」「なるほど」「あ〜、はい」「そうですか」などを繰り返して使っています。

 もう一人誰かいればあいづちは半減しますが、できるだけ相手に気分良く話してもらえれば、という思いがあり、多めに打っています。

 日本人は気を使って、逐一あいづちを打ってくれる人が多いような気がしますが、以前ニューヨークにグループ展のために行った時、アメリカ人相手に話をしている間、誰もあいづちを打ってくれなかったのがカルチャーショックでした。

 単に私の英語が通じていなかったという説もありますが……。自分の作品についてニューヨークの学生さん数人に説明したのですが、一切反応がなく、心が折れそうになりました。

 あいづちは、肯定、是認でもあるので、打たれた方は嬉しくて相手への好感が芽生えます。意識的にトレーニングをすることで、さらに人間関係が円滑になるのでしょう。

■「良いあいづち」と意外な語源

 前に「日本あいづち協会」のセミナーに行ったことがあります。あいづちにも協会がある、というのも驚きでしたが、参加者はまじめそうな社会人が多い印象で、背筋が伸びました。協会の理事長の男性が講師になって、あいづちの大切さをレクチャー。

「話し下手で悩んでいる人が多いですが、対話の視点の転換をして、話す方ではなく聞く方に焦点を当てましょう。聞く時のあいづちを重視します。まずは簡単な『はい』から……。あいづちを打たれている方は気分が良くなります。是認のあいづちは双方にオキシトシンを発生させます」

 幸せホルモンと呼ばれるオキシトシン。ストレスが緩和したり、心身に良い影響を及ぼすフェロモンがあいづちで分泌するとは……。積極的に打っていきたいです。

「あいづちは会話の相棒、打ち出の小槌です。カーネギーも『人を動かす』という本の中で、人に好かれるための具体的方法を書いています。カーネギー理論の根幹『誠実に、ほめること』。それにより相手の自己重要感を満たし、好意を持たれ、人を動かすことができます」

 ただ、日本人はベタぼめされると逆に警戒心を抱きがちで、そんな時に生きてくるのが「良いあいづち」だとのことでした。

 あいづちという言葉は英語に該当する単語がなく、日本で発展した会話のテクニック。アメリカ人があいづちを打たなかったのも、習慣がないからで、無視しているからではなかったんですね。長年のもやもやが晴れました。

 ちなみにあいづちの語源は、鍛冶で刀匠が刀を鍛える時に、師匠と弟子で向かい合って交互に槌を打つ、その時に相手が打ちやすいように刀を整えながら槌を打つことから「あいづち」という言葉になったそうです。美しい師弟関係から生まれた言葉のようです。そんな豆知識もインプット。

 とにかく、出世したり人間関係を円滑にするにはあいづちがマストです。ほめ言葉よりも有効だと講師の先生はおっしゃいました。

■大切な「さしすせそ」と「あいうえお」

 セミナーでは、具体的なあいづちとして「評価のあいづち」の「さしすせそ」、「関係を深めるあいづち」の「あいうえお」を教えていただきました。

「さしすせそ」は「さすが」「知らなかった」「すごい」「センスが良い」「そうですか」。「そ」は同意のあいづちが多くて「そうですね」「そうですよね」「そのとおりです」「そうなんですね」など、肯定感にあふれています。

「さしすせそ」のあいづち、キャバクラの接客業とかにも使えそうです。

 いっぽうで、イントネーションだったりテンション次第では、嘘っぽく聞こえてしまう危険も。現に私もこれまで何度も「すごいですね!」「さすが!」とか言っていたのに、「全然気持ちがこもってない」と突っ込まれてドキッとした記憶があります。わりと無表情だったからでしょうか。感情表現が豊かな人向けのあいづちかもしれません。

 続いて「あいうえお」ですが、てっきり、「あぁ?」「いい」「う〜」「え?」「おぉ」という、プリミティブなリアクションかと思いました。心を許した相手にだけ打てるあいづちです。

 しかし、先生の説明によると「ありがたいです」(と、感謝を伝える)、「いえいえ」(二重否定で相手を肯定)、「運、持ってますね」(と目上の人を立てる)、「縁ですね」(日本人の心に響く言葉)、「恩に着ます」(相手をずっと敬っている気持ちをアピール)と、想像を超える高度なあいづちでした。

 自分のコミュニケーション力の低さを実感。「恩に着ます!」なんて打つ場面が思い浮かびません。これらのあいづちを打てる場面は、それなりの地位がないと訪れなさそうです。

 あいづちの注意点として、相手の発言に対し即あいづちを打つと、ただ機械的に打っていると思われてしまうので、1秒くらい間を空けるのが重要だそうです。これもやりがちでした。

 最後に隣の席の知らない男性と、自分の長所をアピールしてあいづちを打ってもらい合う、という難易度の高いワークが行われました。

 知らないおじさんの仕事の業績や、炭水化物抜きの話に「さすがですね!」「すごいですね!」と連発していたら、最後のシェアタイムで「話を聞いてもらっている、わかってもらっている様子が伝わり、嬉しい」「良好に近付いていく印象を持ちました」という感想をいただきました。プライドの高い男性には「さしすせそ」の「自尊心を満たす」あいづちはやっぱり効果があるようです。

 いっぽう女性はどちらかというと、「そうですよね」「本当ですね」と「共感のあいづち」が嬉しいということに気付かされました。あいづちを極めれば、話を聞いているだけでラクに好感度アップするのです。

 以上、辛酸なめ子氏の新刊『新・人間関係のルール』(光文社新書)をもとに再構成しました。SNSの悩みからコロナで起きた変化まで、時代を乗り切るアドバイス。

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