春は寝ているつもりなのに朝起きられない、日中眠い…そんな人も多いのではないでしょうか?
なかでも日本の50代女性の睡眠時間は世界的に見ても短いことが判明しています。

自覚されにくい睡眠不足について日本睡眠教育機構 上級睡眠健康指導士の長岡希実さんに教えてもらいました。


寝ているつもりなのに眠い…睡眠不足かも?(※写真はイメージです。以下同)

50代女性が睡眠不足の理由。適切な睡眠時間を確保するには?



「春眠暁を覚えず」と有名な漢詩の一節にも詠まれているとおり、春はなんだか眠いなと感じている方は多いのではないでしょうか。睡眠学からみれば春に眠いのは自然なこと。しかし皆さんが感じているその眠気は、果たして季節だけのせいでしょうか。気をつけなければいけないのは、自覚されにくい「潜在的睡眠不足」です。

●春にやたらと眠くなってしまう理由



人間を含む地球上の生物は生体リズムを持っています。そしてその生体リズムは、太陽光のエネルギーに大きく影響を受けています。私たちが暮らす地球は、自転によって太陽光が当たる昼と当たらない夜があります。そして公転によって太陽光の当たる角度が変わり、四季が訪れます。地球上の生物は、ずっとこの太陽光の変化に適応して暮らしてきました。

春に眠いのは、眠りを誘うホルモン「メラトニン」の分泌が関係しています。冬から春になるにつれ、明るくなる時間がだんだん早くなっていきます。メラトニンの分泌は明るくなると低下するため、ゆっくり眠れなくなり日中に眠気を感じてしまうと考えられます。一般的に太陽が出ている時間が長いほど睡眠時間は短く、太陽が出ている時間が短いほど睡眠時間は長くなります。つまり、季節によって睡眠時間は変動します。

●50代女性は睡眠時間が世界から見てもたりていない




2015年のNHK国民生活時間調査報告によると、日本人の睡眠時間は欧米のどの国よりも短く、国民全体平均で平日7時間15分となりました。なかでも50代女性の睡眠時間がもっとも短く、平日平均6時間31分と国民平均より44分も短くなっています。また、同調査で、50代女性は平日も休日も平均4時間34分を家事に費やしていることがわかっています。

これらの結果から見えてくるのは、「平日も休日も忙しく慢性的な睡眠不足状態」である日本人女性の姿です。
ただでさえ忙しいし、自分の時間もほしい…。そうなると必然的に睡眠時間が犠牲になってしまいますよね。

●睡眠がたりているつもりの人でもじつは睡眠不足



睡眠研究の世界で有名な実験があります。アメリカのウィリアム・C・デメント教授が行った実験で、健康な人8人に4週間、眠りたいだけ眠ってもらったというものです。
実験前、全員が「自分の睡眠に問題はない」と言っており、その平均睡眠時間は7.5時間でした。ところが実験から3週間後、彼らの平均睡眠時間は8.2時間でほぼ一定しました。つまり、彼らの適正睡眠時間は平均8.2時間であり、実験前は40分の睡眠不足状態にあったということです。

ここで留意してほしいのは、彼らが睡眠不足状態であることをまったく自覚していなかったということです。たった40分、と思うかもしれません。しかし、日々の睡眠不足は本人が気づかないうちに蓄積し、いわゆる「睡眠負債」となって溜まっていきます。この時季はぜひ普段より早めに床に入るよう心がけてみてください。

●寝つきがいいから大丈夫ではない。じつは睡眠不足の裏返しかも?




コロナ渦以前、私はときどき岩盤浴に行っていました。岩盤浴の室内は非常に高温多湿です。お世辞にも「いい睡眠環境」とはいえません。にもかかわらず、毎回、横になって数分もたたないうちにいびきをかいて眠りだす人がいるのです。

普通に考えれば、こんな高温多湿の環境で人は気持ちよく眠れるはずがありません。しかしこれほど睡眠に適さない環境下で、横になった途端に眠ってしまうということは、それだけ強い「睡眠圧」がかかっているのではないかと推測します。

慢性的な睡眠不足が続くと、週末に「寝だめ」をした程度では蓄積された睡眠負債は解消しません。そんな状態で横になり目を閉じたら、一気に睡眠圧が押し寄せて睡眠世界に引き込まれてしまっても無理はありません。

実際、「どこでも眠れます」「布団に入ったらすぐ眠れます」という人は、ほとんどが睡眠不足である場合が多いのです。

【まとめ】自分が睡眠不足でないか、一度考えてみよう



今や日本人の3人に1人が睡眠に関わる問題を抱えています。睡眠不足は仕事や勉強の能率を低下させるだけでなく、生活習慣病やメタボリックシンドロームと深く関係しています。もちろん、まだ体力があるうちは多少の睡眠不足であっても、なんとか持ちこたえることはできるでしょうが、年齢を重ねるにつれどんどんつらくなっていくので、なるべく睡眠時間は優先して取る工夫をしていただきたいと思います。

春の眠気は太陽光に影響される私たちの生体リズムが原因ですが、「眠いのは季節のせい」と片づけてしまう前に、その眠気が慢性的な睡眠不足によるものではないか一度立ち止まって考えみるといいのではないでしょうか?

●教えてくれた人
【長岡希実さん】



(社)日本睡眠教育機構 上級睡眠健康指導士。不眠に悩んだことをきっかけに学び始めた睡眠学の奥深さにはまり、2019年に上級睡眠健康指導士の認定を取得。学術的な睡眠知識と科学的な知見に基づき、睡眠に関するアドバイスや正しい睡眠知識の普及活動を行う。健康な暮らしに欠かせない睡眠が果たす役割と重要性を分かりやすく発信していくことがライフワーク。