「それは聞いていない」と逆ギレする人を黙らせる天才的フレーズ
※本稿は、大塚寿『自分で考えて動く部下が育つすごい質問30』(青春新書インテリジェンス)の一部を再編集したものです。
■無力感を学習すると「頑張ればうまくいく」とは思えなくなる
できる人ほどつい出ちゃう残念な言い方
「途中でほったらかすなんて無責任でしょ?」
⇒これでは「ほっからかし」にした根本原因がまったく解決されない
性格と言ってしまえばそれまでですが、世の中には最後の最後まであきらめない人と、困難に直面したり、難易度が高いと気づくや否やすぐにあきらめてしまう人がいます。
そこには本人の性格だけでなく、学生時代の部活や受験、就職してからの仕事での成功体験も大きく影響してくるものですが、もう少しだけ踏ん張れば成果につながったはずなのに、その手前であきらめてしまうという非常に「もったいない悪循環」を起こしている人も散見されます。
あきらめない部下とあきらめがちな部下は、とにかく個人差が激しいです。しかし上司や先輩の育成方法で好転させられることなので、ここではその言い方と意図について共有したいと思います。
あきらめがちな人の多くは、頑張ってもどうなるものでもない、このままやってもうまくいくとは思えないという無力感を学習してしまっている傾向があります。
ですから意図としては、その無力感に打ち勝つ「プラスの兆し」、つまりは「このままいけば、うまくいくかもしれない」「この方法、このプロセスでやれば十分できるはずだ」と思わせる必要があります。
その際は「やり方」や「方法」を変えることによって「あきらめる」という気持ちの目先を変えさせること。期限を切ればさらに効果的です。
■「もう1週間」の一言で、モチベーションが上がる
かける言葉としては、
「もう1週間やってダメなら、あきらめるとして、それまで他の方法を試してみよう」
といった感じで。
これは「もう1週間」と期限を切られていることから、ゴールが明確になったことで「ゴールの見えないモヤモヤ感」が軽減され、一瞬モチベーションが上がります。
さらに、他の方法にそのエネルギーを傾けることによって、ほんの少しでも手応えが感じられれば、事態は好転に向かうはずです。
なぜなら、あきらめがちな人たちは、あきらめたくなる時に、心に強いストレスを感じています。あきらめてしまえばストレスから解放されるので、楽になりたいという衝動に駆られます。性格と言ってしまえばそれまでですが、これは自分の心を守るための防衛本能かもしれません。
しかし、あきらめてばかりでは、心に耐性もできませんし、社内や顧客からの信頼を得ることができないために、ビジネスパーソンの成長を阻害してしまう要因にもなります。
■期限を切ることで「十分やれそうだ」と思いやすくなる
そこで効果的なのが「期限を切る」こと。「全力疾走しろ」と言われても、それが50メートルなのか、100メートルなのか1500メートルなのか、はたまたマラソンなのか、距離が分からなければ、走り始める前から不安で一歩目が踏み出せません。1500メートルやマラソンを最初から全力疾走しては最後まで走れません。
それと同じことで、部下にとっては「1週間」とか「残り2週間」とか期限を切られることによって、ゴールが明確になるのでペース配分が明確になることと、それ以上に、そのくらいなら頑張れると「十分にやれそう」な気がしてくるのです。
これが「プラスの兆し」です。
また、視野、視点を変えさせるには「いったん」という言葉が非常に効果的です。例えば、
「あきらめるとかあきらめないとか気持ちの部分はいったん脇に置いて、とにかく、今までと違うやり方を考えて、試してみよう」
■気持ちを瞬間移動させる「いったん」の魔法
「いったん」は部下や新人の育成の場面では“魔法の言葉”といえるほど、重宝がられています。どんな言葉よりも、部下のネガティブな気持ちを負担なく、自然にポジティブな気持ちに瞬間移動させてくれます。
このフレーズは「いったん」という言葉を用いて、部下のネガティブな感情をストップさせて、そこに「今までと違うやり方」を試すことを促しています。
この「違うやり方」に、少しでも前のやり方より成果なり手応えが出れば、「あきらめたい」という感情は一気に萎みますので、ぜひ試してみてください。
最後に、理性的な判断をするタイプの人には、大局観も持って判断させるために、
「あきらめてしまうメリットって、どんなことがあると思う?」
と問いかけ、考えさせる方法があります。「あきらめたい」というのは感情ですから、理詰めで考えれば、どこからか辻褄が合わなくなります。そこを上司や先輩が指摘するのではなく、本人に気づかせるためにこのように問いかけるのです。
「あきらめるのはいつでもできるから、もう1回だけやってみようか」
⇒負担感を軽減させる
「もう1週間やってダメなら、あきらめるとして、それまで他の方法を試してみよう」
⇒期限を切る
「あきらめるとかあきらめないとかの、気持ちの部分はいったん脇に置いて、とにかく今までと違うやり方を考えて試してみよう」
⇒他の可能性に気づかせる
「あきらめてしまうメリットって、どんなことがあると思う?」
⇒視点を変えさせる
■「聞いていない」でやり過ごす新人たち
できる人ほどつい出ちゃう残念な言い方
「この間も教えたでしょそれ、何度も言わせないで」「研修でやったでしょ、何を聞いてたの?」
⇒ 相手にとっては「文句」にしか聞こえない
最近、研修で教わったり、上司から一度聞いたはずのことなのに、「聞いていない」「やっていない」でやり過ごそうとする新人や部下が増加しているそうです。
もちろん本当に「研修でやっていない」「その講義は聞いていない」「その件は聞いていない」ならいいのですが、問題は、すでに教わったこと、研修でやったことを「まだ、聞いていない」で済まそうとする人です。
ごまかすに近いニュアンスでしょうか。
例えば「コンプライアンスの研修でやったように……」と、すでにやったことを例に出して話しても、
「やってません」
「聞いていません」
と反応してしまう人。自分には関係ないことだと思って聞き流しているのか、最初から聞き逃しているのか。
■昭和上司なら「いつまで学生気分でいるんだ!」と叱るケース
上司は、そもそも「聞いていない」で済ませるのではなく、自分から情報を取りに行くことを期待しているのです。
この場面、昭和、平成前期の厳しい上司や先輩だったら「いつまで学生気分でいるんだ!」と、こっぴどく叱るケースです。何かを叩きつけられることさえありました。
断っておきますが、叱る上司や先輩の方がはるかにましで、かつてはこうしたことをきっかけに「勝手にしろ」と、育成放棄に近い状況を引き起こす先輩社員もいました。
そういう意味では、かつての「2回目までは教えるけど、3回目からはカネ取るからな」という冗談も、愛情があってこそだったと言えます。
さて、こうした部下に対する対応ですが、それがすでに指導したことや研修でやっているということが確かで、それをごまかそうとして安易に「聞いていない」で済まそうとしているなら、叱っていい場面になります。
■「怒る」対象は人、「叱る」対象はこと
パワハラを心配するあまり甘くなり過ぎたり、真剣に向き合わない上司や先輩が増えている昨今です。
しかし厳密には「怒る」ことはパワハラになっても、「叱る」ことは、よほど執拗に繰り返さない限りはパワハラになりません。もちろん、正確には各社のガイドラインによりますが、セクハラと違ってパワハラにはグレーゾーンも存在します。
そこで「怒る」と「叱る」を整理しておくと、「怒る」とはイライラした感情のエネルギーの放出ですから、自分のためです。
一方、「叱る」は相手の行動変容を促すためのコミュニケーション様式のひとつなので、相手のためです。
また「怒る」は相手を怒るので、対象は人です。
逆に「叱る」対象は人ではなく、相手がやってしまった「こと」、作り上げた「もの」になります。
「叱る」ことによって相手が委縮したり、関係性が崩れることが心配なら、「諭す」というコミュニケーションの様式を用いる手もあります。
「叱る」なら、定番なのは、
「○○さん、勘違いしてると思うんだけど……」
という枕詞からのスタートです。
■重宝フレーズ「勘違いしていると思うんだけど」
元々この「勘違いしていると思うんだけど……」という言葉は、部下・後輩や若手の「鼻を折る」常套句として重宝されてきたフレーズです。
元々は強い意味で「なんか勘違いしていると思うんだけど……」と使われましたが、「もしかしたら勘違いかもしれないけれど……」と使うと完全に弱毒化されて、まったく別なニュアンスになるとは思いませんか。
この特性を逆手にとって使うのです。
「○○さん、勘違いしていると思うんだけど、これ、コンプライアンス研修でやったよね。もし、聞き逃してたり、その時、離席していたとしても、『聞いてません』じゃなくて、まずは自分で情報を取りに行こうよ……」
という言い方。
この「勘違いしていると思うんだけど」を強い意味で取るか、弱い意味で取るかはその時の部下次第。
強い意味で取ってショックを受けているようなら、
「これだけ習うことがあれば、誰でも勘違いはあるからさぁ」
と、勘違いを矮小化するフォローをするのがスマートな使い方です。
■「心を鬼にして言うね」からスタートするのも手
あるいは冒頭で、
「これからちょっとイヤなこと言うよ。でも、○○さんのビジネス人生ですごく大事なことだから、心を鬼にして言うね」
からスタートするのもいいでしょう。
また、ここでメモの習慣をつけさせる意図で、
「○日のメモにはなんて書いてある?」
と質問するのもいいでしょう。平成前期までは「なぜ、メモ取ってないんだ」と怒られるところですが、この言い方なら相手が委縮することはないでしょう。
「これからちょっとイヤなこと言うよ。でも、○○さんのビジネス人生ですごく大事なことだから、心を鬼にして言うね」
⇒「期待されているから」こそと思えるように叱る
「○○さん、勘違いしていると思うんだけど……」
⇒社会人としての常識を逸脱した行動、態度を叱る
「○○さん、勘違いしていると思うんだけど、これ、コンプライアンス研修でやったよね。もし、聞き逃してたり、その時、離席していたとしても、『聞いてません』じゃなくて、まずは自分で情報を取りに行こうよ……」
⇒社会では「聞いていない」ことが、許されないことだと諭す(叱る)
「○日のメモにはなんて書いてある?」
⇒何がまずいのかに気づかせる
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大塚 寿(おおつか・ひさし)
営業コンサルタント
1962年群馬県生まれ。リクルートを経て、サンダーバード国際経営大学院でMBA取得。現在、オーダーメイド型企業研修、営業研修を展開するエマメイコーポレーション代表取締役。オンライン営業研修「営業サプリ」において「売れる営業養成講座」の執筆・総合監修を務める。著書に『リクルート流』(PHP研究所)、『"惜しい部下"を動かす方法ベスト30』(KADOKAWA)、ベストセラー『40代を後悔しない50のリスト』(ダイヤモンド社)、『50代 後悔しない働き方』(青春新書インテリジェンス)などがある。
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(営業コンサルタント 大塚 寿)