宮本慎也が明かすヤクルトのショート問題。廣岡大志が定着せずの理由や期待の選手は?
ここ2シーズン、セ・リーグ最下位と苦しむヤクルト。チーム防御率4.61は12球団のなかでもワーストで、投手陣の整備も大きな課題ではあるが、ファンとしては「正ショート不在」も気になるところだろう。
2010年代に突入してから、内野の守備の要であるショートでフル出場を果たした選手はいない。1990年代後半から2000年代にかけてヤクルト不動のショートとして活躍し、2018年から2年間、一軍ヘッドコーチを務めた宮本慎也氏に、古巣のショート事情と注目する若手選手について聞いた。
2020年ドラフト4でヤクルトに入団した元山飛優
──ヤクルトのショートは、宮本さんが2008年にサードにコンバートされて以降、なかなか固定できない印象があります。
「もう10年以上になりますから、率直に言って残念です。僕が一軍のヘッドコーチになってからは、西浦(直亨)と廣岡(大志:田口麗斗との交換トレードで3月1日に巨人に移籍)にターゲットを絞りました。いろいろなポジションで起用しながらでしたが、正ショートにより近いのが西浦で、スケールの大きさが魅力の廣岡がどのくらい伸びてくれるか、という感じでした」
──2018年には、宮本さんと同じく名ショートとして活躍した石井琢朗さんが一軍の打撃コーチに就任しました(現・巨人の一軍野手総合コーチ)。その際もショートのポジションについて話をされたのでしょうか。
「そんなに細かくは話しませんでしたが、やはり『正ショートに近いのは西浦』ということで一致はしました。廣岡も魅力的な選手ではあるのですが、起用の機会が増えた2018年から打率が2割ちょっとくらいから上がらなかったので、厳しかったですね」
──宮本さんも2000本安打を達成されたように、打撃面の貢献も外せない要素なのですね。
「僕の場合は、当時のキャッチャーが"打てる捕手"の古田(敦也)さんだったということも大きいです。僕はショートとして起用されるようになってからも何年か打撃面に不安があったので、もし"打てない捕手"が先発だったら、打撃がいい選手が重用されてレギュラーにはなっていなかったかもしれない。
これは、特に今のセ・リーグに言えることですが、打撃でも貢献できるキャッチャーとショートがいるチームだとチームの土台ができやすい。そういった意味で、廣岡には『もしかして』という期待があったのですが、なかなかうまくいきませんでした」
──西浦選手もそうですが、調子がいい時と悪い時の波が激しい印象もあります。
「ある程度守備がよければ、打撃が悪くても目をつむることができるんですが......。僕がヘッドコーチに就任した際も、『廣岡を何とかモノにしたい』と、当時の小川(淳司)監督にも伝えて2018年のシーズンは廣岡でスタートしたんですが、すぐに打てない時期がきた。翌年も、グッといかないといけない時に、もたついてしまいました。そこで西浦がショートに固定されかけたものの、2019年シーズンにケガで離脱するなど体の強さが足りなかったですね。
選手は、調子がいい時だけ起用をしてもらったらそれなりの数字を残せると思います。しかしレギュラーの選手は、調子が悪い時にいかに短期間で状態を戻すか、調子が悪いなりにどうチームに貢献するかが大事になります。調子の波を小さくするには、それだけの体力と技術が必要なんです」
──結果としては、両選手ともレギュラーを掴むまでには至らず、廣岡選手は巨人にトレードとなりました。
「西浦に関しては、2、3年にわたって多くのチャンスをもらいながらレギュラーを掴めなかったとなると、少し厳しいかもしれませんが、『難しいかな』という見方になってしまいます。今後は、よっぽどのことがない限りチャンスはもらえない、という意識でやらないといけないと思います」
──コーチ時代に、トレードやFAなどで選手を補強する、といったことをフロントに要望したことなどはありましたか?
「立場上、球団に要望としては言えませんでしたが、中日の根尾(昂)は獲得したかったですね。2018年のドラフト会議ではヤクルトも1位指名しましたが、4球団競合の末に抽選で外れてしまい悔しかったです」
──根尾選手のどんなところを高く評価していたんでしょうか。
「身体能力やバッティングですね。神宮球場であれば30本塁打を打てる可能性も見えると思っていました。守備に関しては、ピッチャーなど他のポジションもやっていたので本格的にショートを守った経験はなかったものの、だからこそ『イチから教えたい』という願望がありました。
また、スター性もあってキャプテンシーという点も買っていました。近年のヤクルトには、チームを引っ張るタイプの内野の選手がいないので、彼がレギュラーになればそれを担えるだろうと。セカンド山田哲人、ショート根尾という並びは見たかったですね」
──現在のヤクルトの選手の中で、新たな正ショート候補として注目している選手はいますか?
「ルーキーの元山飛優は楽しみです。僕が現役時代につけていた背番号6を背負うこともありますし、佐久長聖高校時代の指導者がPL学園出身(藤原弘介監督)と、縁も感じます。
気になるのは、入団会見でも発言していた『目立つことが大好き』ということ。目標の選手にも新庄剛志の名を挙げていましたよね。新庄がすばらしい選手だったことは間違いありません。しかしショートは、過去の名選手を振り返っても、派手な言動の選手はあまりいなかったと思うんです。そういったことを会見で言えるほど『度胸がある』という見方もできるでしょうけど(笑)」
──元山選手は、東北福祉大から昨年のドラフト4位で入団した右投げ左打ちの選手ですね。プレー面に関して、現時点ではどう見ていますか?
「アマチュア時代のプレー映像を見た限りですが、足の速さは目を引きましたね。ただ、打撃では"走り打ち"気味なのが気になりました。足の速い選手は、ちょっとバットに当てた打球でもセーフになりやすい。ただ、それを求めると、自分のバッティングが崩れていって打撃が向上していきません。
特にプロレベルになると、"死んだ"打球は難なく捌かれてしまいます。打球に勢いがあるからこそ、野手が差し込まれて処理にもたつき、逆にセーフになる場面が増える。とにかく、しっかりスイングしてから走る。そんなバッティングを覚えていってほしいです」