庭先の農業系指定廃棄物の行方は・・・栃木と震災10年の歩み
シリーズでお伝えしている栃木と震災10年の歩み。
今回は放射性物質を含む指定廃棄物をめぐる問題についてお伝えします。
稲わらなどの農業系指定廃棄物の一部は今も個人農家の農地や庭先での保管が続き、農家の苦悩が続いています。
一方で保管されている放射性物質を再測定した結果、わずかに事態に進展も見え始めています。
県北で指定廃棄物を保管する畜産農家の70代男性:「最初はやっぱり神経を使ったよね。こんなものをここに置いとくというのは。でも10年経つと人間は、そういう緊張感が薄らいできた。もう10年かなという思いだけが残っていますよね」
男性は放射性物質が付着した稲わらを食べた牛の堆肥を10年間保管してきました。
県内で保管されている1万3千トン以上の指定廃棄物のうち、稲わらなどの農業系指定廃棄物は8千トンを超えます。
さらにその中のおよそ3千トンは一般の農家123人の農地や庭先で保管されている量です。
県北で指定廃棄物を保管する畜産農家の70代男性:「自分らも年齢が年齢なんで一日も早く解決して持ち出してもらいたいのが正直なところだよね。ただその候補地が挙がればその地元でやはり反対が出るのかなと思うけども、やはりどこかには作らなくてはいけないのでそのへんのところ行政の方でなんとかしっかり話を進めてもらえればとは思っています」
農家の負担が続き流出の危険性もあるため市町村長会議でも農家の保管分の行方をめぐり多くの意見が挙げられてきました。
さらに塩谷町を詳細調査の候補地として選定した長期管理施設の問題が停滞していることもあり、国は長期管理施設を県内1カ所に整備する方針は堅持しつつも、農業系指定廃棄物について市や町で暫定保管場所を確保し、必要に応じて減容化した上で集約する案を示しました。
そして震災から8年半が経過した2019年、国は保管されている指定廃棄物の放射能濃度の再測定を実施しました。
その結果、全体のおよそ8割で1キログラムあたりの放射能濃度が8千ベクレルを下回りました。
この結果を受けて環境省は放射能濃度が8千ベクレルを超えない廃棄物については保管する農家と自治体の同意があれば指定廃棄物の指定を解除し、自治体などで通常の処理をすることを可能にしました。
これに積極的な姿勢を見せたのが一度長期保管施設の候補地に選定された経緯がある矢板市です。
斎藤淳一郎 矢板市長:「一時保管農家の方、矢板市内には6軒いるが6軒の農家の方全員から目前のいわゆる庭先保管の危険と不安を取り除くために暫定保管場所を選定して、そこに減容化をして集約する方針に賛成をいただいている。下回った4軒の農家のうち3軒の農家から指定廃棄物の指定解除に応じていいと回答を得ている。放射能濃度が上昇する焼却処分はしないこと、指定廃棄物から解除されたとしても市外には持ち出さないこと、この2つを条件にして環境省に対して指定廃棄物の指定解除に関する協議に応じていいと伝えている。指定廃棄物から一般廃棄物になっても処理責任を市や町が負うことになっても環境省には引き続き予算的なまたは技術的な支援をして頂けるようお願いをしている」
矢板市では今後、指定廃棄物の集約に向けて暫定保管場所の候補地を検討するとともに指定解除に向けた取り組みも進める方針です。
指定が解除されたとしても保管農家の負担がすぐになくなるというわけではありませんが、廃棄物の処理に向けて少しずつ前進することが期待されています。
斎藤 淳一郎市長:「廃棄物の再測定を強くお願いしてきた。一時保管農家に対しても見える化を通じて放射能の問題、指定廃棄物の問題、正しく恐れていただく。矢板市はもちろんのこと国や県にもしっかり求めていきたい」
県北で指定廃棄物を保管する畜産農家の70代男性:「どっちかと言えば、暫定集約の方が現実味があるのかなという感じはしている。その候補地がね。どこにしたらいいか 悩むところだと思う。畜産物の堆肥汚染、稲わら汚染ばかりじゃなくて一般の汚染物もあるからね。そのへんが一括してどういうふうに処理してできるのかなと思って早く方向性を出してもらいたいのが正直な気持ち。全く見通しがつかないな、自分らには本当。ただ早く片付けてもらいたい、その一心だけ」
東日本大震災、そして原発事故から10年。
指定廃棄物をめぐる状況が変わるたびに関係する県民は振り回されてきました。
しかし、黒いビニールに包まれて庭先に置かれた指定廃棄物は10年前のままです。
今後この問題がどう進展していくのか。安全で安心できる解決が望まれます。