インパール作戦に注目しても意味がない 歴史から教訓を得るために本当に必要なこと
「賢者は歴史に学ぶ」と言われるし、「歴史を紐解けば未来の予想がつく」と言う人もいる。
こんな言葉の裏側には、「時代は変っても、人間の営みの根本は大きくは変わらない」という考えがあるのではないだろうか。
だからこそ、歴史から未来に生きる知恵を学ぶことができればすばらしいし、逆にそれができなければ先人が犯した失敗を自分も繰り返すことになる。では歴史から我々は何を学べばいいのだろう?
『Lock on!近代史』(幻冬舎刊)はそんな疑問に答えてくれる一冊。近現代という激動の時代を紐解き、正しく理解することで、現代日本の課題や進むべき道が見えてくる。今回は著者の坂木耕平さんにインタビュー。もしかしたら、日本人は歴史から学ぶことが苦手な民族なのかもしれない。そんな気持ちになるお話をうかがった。その後編をお届けする。
坂木耕平さんインタビュー前編を読む
■インパール作戦に注目しても歴史から学びを得ることはできない
――「日露戦争に勝利した成功体験が捨てられず、戦略をアップデートしなかったことが太平洋戦争での敗戦につながった」という指摘はごもっともだと感じました。そして、今の日本もまた高度成長からバブル期の成功体験を引きずっているように見えます。なぜ、日本は失敗から学ぶことを忘れてしまったのでしょうか?
坂木:そもそも日本は「失敗から学ぶ」ということを教育してきませんでした。社会はどうあるべきか、民主主義とはどのようなものなのか、あるいは「ひとの道」とはどういうものか。私達は「地球市民」としてどう生きるべきか。そういった、子どもがグローバル社会の荒波を渡っていくために必要な、大切なものを見事に教えてこなかった。そこが前提として大きな失敗だと考えています。
一方で、資本主義の行きつく先として、バブル景気を享受しました。株価が上がり、寝ていても大金を得られる時代でした。こうした時代を「成功体験」として記憶している人は、そこで自分が手にした既得権益を守ろうとして、現状維持の考え方になりますから、いくら「歴史で失敗の教訓を学ぼう」と言っても、聞く耳を持たないでしょう。こうしたことが「歴史の事実や教訓に謙虚であれ」という大切な教えを、いつの間にか忘れてしまった要因ではないでしょうか。
――「歴史から学ぶ」ということについて、よくビジネス誌などではインパール作戦のような旧日本軍の失敗談が教訓として挙げられていますが、太平洋戦争以前の近現代史はあまり顧みられていないように見えて、不思議な印象です。
坂木:昔の軍隊の失敗が今もビジネスの現場で繰り返されている、というやつですよね。それはその通りで、今も日本の企業では当時と似た失敗が繰り返されているんだと思います。ただ、そこから学びを得たいならもっと根本から振り返るべきです。
本でも書きましたが、明治維新当時、政治家たちは天皇を頂点とする家族的な国を作ろうとしました。そこで天皇のためなら命を捧げて当然なんだという価値観が徹底的に植え付けられたんです。インパール作戦の失敗の根本はそこにあるわけで、作戦自体を取り上げるだけでは、なぜインパール作戦で無茶苦茶な命令に誰も抵抗せずに従ってしまったのかはわからないでしょう。
――また坂木さんから見て歴史から正しく学んでいると思える国はどの国ですか?
坂木:ドイツでしょうね。ネオナチがまだ活動していますが、ドイツはナチスドイツが歴史上犯した所業を常に頭の片隅に置いて、根幹は何とかブレずに持ちこたえているように見えます。
ただ、植民地を持っていた国は多かれ少なかれ「負の遺産」を今も抱えていますよね。植民地との間の禍根がすべてなくなるということはなかなか難しいのではないかと思います。
――今回の本をどんな方々に向けて書かれましたか?
坂木:ぜひ若い方に読んでいただいて、考えてほしいと考えています。今の日本は、政治や経済を見ても、主導権を握っているのは「年寄り」です。彼らは、もう時代は変わっているのに、いまだに昔の成功体験に浸っている。だから現状を変えることをひどく怖がるんです。そういう人たちはもうどかしてしまえばいい。
若い方々が「自分たちで新しい歴史をつくる」という意気込みを持っていただきたいです。多様性のある社会の実現、国際協調、地球温暖化防止など、やるべきことは山積しています。既得権益にとらわれずに、歴史の教訓から多くを学んでいただきたいですね。
――最後に、読者の方々にメッセージをお願いいたします。
坂木:国というものを簡単に信用するなと言いたいです。右だろうが左だろうが関係ありません。政権を常に批判的に見て、騙されないでいただきたい。日本人の多くは、「政治はお上のやること、自分には関係ない」という、昭和の考えをまだ引きずっています。それを打破してほしい。そして、自分の人生哲学をしっかり持ってほしいです。そのためにも歴史を学ぶことは有用です。
最後に付け加えると、この本は私のような昭和生まれの「歴史の教訓の情報弱者」に向けても書いています。結局、私たち昭和生まれがしっかりしていないから、子どもたち、孫たちに「情けない日本」を残してしまった。これは大きな罪です。
昭和生まれの私たちは頭が固くて、自分らが受けてきた教育や生き方が一番すばらしいと思っていますし、子の世代にも同じ事をさせたい、それでいいんだと思いがちです。でも、実はとても気が弱くて、「自分たちは間違っていた」と正直に認められないだけなのかもしれません。
今からでも、せめて自分の子どもや孫には、将来「俺たちの親ってさ、過去の過ちを素直に認め、世界中と仲よくつきあっていくことに努力した、勇気ある奴らだったよな。誇りに思うよ」と、尊敬されるような親になれるように目指していただきたい。そのためには「歴史の教訓」を今からでもしっかり知ってほしいです。「学ぶこと」に定年はないですから。
(新刊JP編集部)
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だからこそ、歴史から未来に生きる知恵を学ぶことができればすばらしいし、逆にそれができなければ先人が犯した失敗を自分も繰り返すことになる。では歴史から我々は何を学べばいいのだろう?
坂木耕平さんインタビュー前編を読む
■インパール作戦に注目しても歴史から学びを得ることはできない
――「日露戦争に勝利した成功体験が捨てられず、戦略をアップデートしなかったことが太平洋戦争での敗戦につながった」という指摘はごもっともだと感じました。そして、今の日本もまた高度成長からバブル期の成功体験を引きずっているように見えます。なぜ、日本は失敗から学ぶことを忘れてしまったのでしょうか?
坂木:そもそも日本は「失敗から学ぶ」ということを教育してきませんでした。社会はどうあるべきか、民主主義とはどのようなものなのか、あるいは「ひとの道」とはどういうものか。私達は「地球市民」としてどう生きるべきか。そういった、子どもがグローバル社会の荒波を渡っていくために必要な、大切なものを見事に教えてこなかった。そこが前提として大きな失敗だと考えています。
一方で、資本主義の行きつく先として、バブル景気を享受しました。株価が上がり、寝ていても大金を得られる時代でした。こうした時代を「成功体験」として記憶している人は、そこで自分が手にした既得権益を守ろうとして、現状維持の考え方になりますから、いくら「歴史で失敗の教訓を学ぼう」と言っても、聞く耳を持たないでしょう。こうしたことが「歴史の事実や教訓に謙虚であれ」という大切な教えを、いつの間にか忘れてしまった要因ではないでしょうか。
――「歴史から学ぶ」ということについて、よくビジネス誌などではインパール作戦のような旧日本軍の失敗談が教訓として挙げられていますが、太平洋戦争以前の近現代史はあまり顧みられていないように見えて、不思議な印象です。
坂木:昔の軍隊の失敗が今もビジネスの現場で繰り返されている、というやつですよね。それはその通りで、今も日本の企業では当時と似た失敗が繰り返されているんだと思います。ただ、そこから学びを得たいならもっと根本から振り返るべきです。
本でも書きましたが、明治維新当時、政治家たちは天皇を頂点とする家族的な国を作ろうとしました。そこで天皇のためなら命を捧げて当然なんだという価値観が徹底的に植え付けられたんです。インパール作戦の失敗の根本はそこにあるわけで、作戦自体を取り上げるだけでは、なぜインパール作戦で無茶苦茶な命令に誰も抵抗せずに従ってしまったのかはわからないでしょう。
――また坂木さんから見て歴史から正しく学んでいると思える国はどの国ですか?
坂木:ドイツでしょうね。ネオナチがまだ活動していますが、ドイツはナチスドイツが歴史上犯した所業を常に頭の片隅に置いて、根幹は何とかブレずに持ちこたえているように見えます。
ただ、植民地を持っていた国は多かれ少なかれ「負の遺産」を今も抱えていますよね。植民地との間の禍根がすべてなくなるということはなかなか難しいのではないかと思います。
――今回の本をどんな方々に向けて書かれましたか?
坂木:ぜひ若い方に読んでいただいて、考えてほしいと考えています。今の日本は、政治や経済を見ても、主導権を握っているのは「年寄り」です。彼らは、もう時代は変わっているのに、いまだに昔の成功体験に浸っている。だから現状を変えることをひどく怖がるんです。そういう人たちはもうどかしてしまえばいい。
若い方々が「自分たちで新しい歴史をつくる」という意気込みを持っていただきたいです。多様性のある社会の実現、国際協調、地球温暖化防止など、やるべきことは山積しています。既得権益にとらわれずに、歴史の教訓から多くを学んでいただきたいですね。
――最後に、読者の方々にメッセージをお願いいたします。
坂木:国というものを簡単に信用するなと言いたいです。右だろうが左だろうが関係ありません。政権を常に批判的に見て、騙されないでいただきたい。日本人の多くは、「政治はお上のやること、自分には関係ない」という、昭和の考えをまだ引きずっています。それを打破してほしい。そして、自分の人生哲学をしっかり持ってほしいです。そのためにも歴史を学ぶことは有用です。
最後に付け加えると、この本は私のような昭和生まれの「歴史の教訓の情報弱者」に向けても書いています。結局、私たち昭和生まれがしっかりしていないから、子どもたち、孫たちに「情けない日本」を残してしまった。これは大きな罪です。
昭和生まれの私たちは頭が固くて、自分らが受けてきた教育や生き方が一番すばらしいと思っていますし、子の世代にも同じ事をさせたい、それでいいんだと思いがちです。でも、実はとても気が弱くて、「自分たちは間違っていた」と正直に認められないだけなのかもしれません。
今からでも、せめて自分の子どもや孫には、将来「俺たちの親ってさ、過去の過ちを素直に認め、世界中と仲よくつきあっていくことに努力した、勇気ある奴らだったよな。誇りに思うよ」と、尊敬されるような親になれるように目指していただきたい。そのためには「歴史の教訓」を今からでもしっかり知ってほしいです。「学ぶこと」に定年はないですから。
(新刊JP編集部)
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