コロナ禍でメンタル不調 会社と個人ができる対策とは

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突然会社に行けなくなる。休みがちになる。業務の進みが鈍くなる。
こうしたメンタル不調は突然やってくるものではない。必ず兆候があるものだ。会社としてメンタル不調者のケア、そして不調者を出さないための仕組み作りをしていかなければ、根本的な改善にはつながらない。

今回は『IT技術者が病まない会社をつくる』(言視舎刊)を上梓したベリテワークス株式会社代表の浅賀桃子氏に、特にIT業界において、「病まない会社」をつくるためにはどうすればいいのかをうかがった。
浅賀氏自身もカウンセラーとして活動しており、その経験がふんだんに盛り込まれている。コロナ禍でメンタルを病む人が続出している中で、社員を病ませないポイントはどこにあるのか。

(新刊JP編集部)

■コロナ禍で「無力感」を覚える人が増加…。会社ですべき対策とは?

――まず本書を執筆された経緯からお聞かせください。

浅賀:私はこれまでIT業界の中にいましたが、IT技術者が世の中からあまり評価されていないという違和感を持っていました。それはなぜだろうと思ったときに、「心が折れやすい」「ブラック」といったイメージですとか、「3K」(きつい、帰れない、給料が安い)といったネガティブな部分を言われることが多かったんですね。

ただ、コロナ禍になって、テレワークの導入であったり、セキュリティの課題であったりというところで、どの会社にもIT技術が必要になりました。この動きはこれからも加速していくと思われます。

そういう時代にIT技術者が評価されて、よりいきいきと働けるような世の中にするために私の知識が参考になればというところで本書を書かせていただきました。

――IT業界は他の業界に比べて特殊な環境といえるのでしょうか。

浅賀:他の業界に比べ、長時間労働が多い環境といってよいでしょうね。以前私が働いていたIT企業は、月400時間働いている人もいましたし、月の残業時間80時間、100時間を超えて働いている人も数多くいました。こうなってくると、人事部も麻痺してきて、労働時間超過が当たり前かのようになってくるんです。

もちろん、産業医につなごうとするんですけど、つなぎたくても「忙しすぎてその時間もできない」となり、結果本人が倒れましたということが起きます。

でも、そうなる前に会社としてできることは何かしらあるはずだと当時から思っていましたし、自分自身が独立してからはIT技術者がいきいきと働ける会社をつくろうと思い、それを実践してきました。

――コロナ禍において、メンタルの不調を訴える人が増えたように感じます。浅賀さんはカウンセラーとしてもご活動されていますが、コロナ以前と以後でメンタル不調の内容の変化は感じていましたか?

浅賀:一つは無力感を強く感じる人が増えたように思います。これからどうなっていくんだろう、コロナはいつ終わるんだろうという今後への不安や戸惑いですね。そういったところから、これからの働き方、今の会社のままでいいのかとか。そういう漠然とした不安から食欲がなくなったり、不眠になったりという相談が増えてきたように思います。

――その無力感を拭うのは、こうした状況下だと難しいのではないですか?

浅賀:そうだと思います。個人でどうにかできることではないですし、それを受け入れるのにも訓練が必要なんです。誰しも「こうなってほしい」という理想を持っていて、それが上手くいかないときに感情が乱れてしまうわけですが、そこで感じたストレスや不安って誰のせいでもないものじゃないですか。だから、どういう風に処理していいのか分からない。私たちカウンセラーは、話をする時にそういう相手の状態を意識してカウンセリングをしていきますね。

――本書の中でも「テレワークうつ」に触れていますよね。コロナ以後、働き方が大きく変わってテレワークが推奨・移行される中でこれに苦しんでいる人は少なくないと思います。

浅賀:大きな環境の変化が起こると、まず自律神経が乱れると言われています。その時、身体の方にだるさですとか、そういうものを感じるようになるんですけど、だましだまし仕事はできてしまうんですよね。

ただ、個人差があるにせよ、その状況がひと月、ふた月と続くと精神面にも影響が出てくる。うつ状態になってしまったりしてしまうんです。去年の3月から4月にかけて急にテレワークに移行した会社さんでは、6月や7月あたりにうつっぽさを感じる人が増えてきていたという実感は私にもあります。

――カウンセリングをしている中で、テレワークうつのどういうところに原因があると感じましたか?

浅賀:たとえばオンとオフの切り替えができないという声はよく聞きました。それまでは家から出る、家に帰るというところで切り替えを自然に行っていたけれど、それができなくなった。

あとは、ちょっとした雑談ができなくなったということも大きいです。チームでやっていても、ちょっと話しかけにくいとか、わざわざツール使って話すほどでもないという理由でコミュニケーションを取らずにいたら、それまで相談できていたことを抱え込む結果になったということですね。

テレワークの中でも必要に応じて雑談を入れている会社はまだ大丈夫なんですが、社員が黙々と仕事をしている会社は注意が必要ですね。特にIT業界はいつまでその業務を終えられればよくて、あとは個人の裁量に任せるという傾向がありますから、テレワークにした途端にこもってしまうということが多いです。

――テレワークへの移行に際して、上手い会社、下手な会社があると思うのですが、浅賀さんから見て、上手な会社はどのように移行していると思いますか?

浅賀:IT業界に限らずですが、上手な会社はコロナ禍になる以前から出社と在宅を選べるようにしていました。たとえば台風や大雪のときに、すぐにテレワークに対応できたり、事前申請すれば家でも仕事ができるようにしていたり。

生産性を上げるために一番自分にとって良いと思う場所で仕事をしてくださいという感じで、適度に社員を信じて働く場所の裁量を与えていた会社は、上手くやれていると思います。

――だましだましやっているうちに、自分で不調をなんとかしなければいけないと気づいたときには、もう体が動かなかったというケースがあります。メンタルヘルスの不調に気付くために、どういうサインを知っておくべきなのでしょうか。

浅賀:これは人にもよりますね。本書にも不調のサインを書かせていただきましたが、精神面にダイレクトに来る人もいれば、身体面に来る人もいます。また、行動面で変化が出る人も。

分かりやすいところで言えば、不眠や食欲減退といったところがあるのですが、風邪で体調がすぐれないことと判別が難しかったりもするんですよね。ただ、不調が長く続く目安を知っておくことは大事で、たとえば二週間経っても眠れなかったら、メンタル面の不調を疑ってもいいと思います。

身体にも目のクマがひどくなるとか、顔色が悪くなるというような兆候が出てきますが、テレワークですとその辺に気づくのが難しいんですよね。家族がいれば気づいてくれるかもしれませんが、一人暮らしの人は誰とも会わないから、気づかれづらいんです。そこは課題かなと思いますね。

――ちょっとメンタルがおかしいと思ったときに、どんな対策を取ればいいのでしょうか? 病院という手もありますが、ハードルが高いと考えている人も多いと思います。

浅賀:確かに、病院に行くことにハードルの高さを感じる人もいると思います。カウンセリングも活用していただきたいと思うのですが、カウンセラーも敷居が高いのであれば、いつでもちょっと相談できたり、話ができる相手を複数持っておくことが大切だと思います。こういう話だったらAさん聞いてくれるかな、とか。

(後編に続く)

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