久保建英の周囲にできつつある移籍の流れ。だが目指すべきは残留だ
久保建英(ビジャレアル)の周囲が不穏な空気に包まれている。
「来年1月に再開する冬の移籍マーケットで、ビジャレアルを退団するのではないか」という噂が、高い信ぴょう性で立ち上っているのだ。
2020−21シーズン開幕から第15節までで、久保は国内リーグで13試合に出場しているが、先発は2試合のみ。しかも、直近の第14節オサスナ戦、第15節アスレティック・ビルバオ戦の2試合は出場がない。現状ではカップ戦要員だ。ヨーロッパリーグではグループリーグ5試合すべてに先発出場(1試合は不戦勝)で1得点2アシストと、決勝トーナメント進出に貢献している。
リーグ戦でここ2試合、出場機会を失っている久保建英(ビジャレアル)
トータルで700分近く出場し、準レギュラーとサブの中間のような立場か。しかし最近は下部組織出身の18歳、ジェレミー・ピノにもポジションを脅かされつつある。
ビジャレアルには、久保を動かさざるを得ない事情も出てきた。ボランチのビセンテ・イボーラが膝のケガで今シーズンの復帰は絶望的。外国人枠を空けられたほうが、補強は有利だ。
そして、ホセ・ボルダラス監督が率いるヘタフェが、レアル・マドリードに久保のレンタル移籍オファーを送ったことは事実とみられる。マドリードも、久保の現状は憂えている。同じマドリードのヘタフェのほうが、扱いやすさもあるだろう。
移籍の条件はあまりに整っている。しかし、久保は半年足らずで新天地を求めるべきなのか――。
結論から言えば、久保はビジャレアルで粘り強く戦うべきだろう。報道は過熱気味だが、賢明な彼が移籍を望んでいるとは思えない。
「久保は残留を希望している。チーム状況は望んでいたものではないが、本人は学びのひとつととらえているようだ。必ずポジションを見つけられると確信している」
スペイン大手スポーツ紙『アス』の記事もそれを裏付ける。
久保が先発に定着できていないのは紛れもない事実だが、ビジャレアルは首位争いをする状況であり(19試合負けなし)、そこに19歳の新入団選手が割って入るのは簡単ではない。つまり、悲観すべき立場ではないだろう。
ヨーロッパリーグでは先発で活躍しているし、交代出場のカードとして重要であることは間違いない。それだけでも、シーズン前半戦としては及第点だ。昨シーズンまで所属していたマジョルカは残留が目標のクラブで、変化に苦しむのは当然なのだ。
「久保のこのようなテクニックを見る限り、もっと出場機会が与えられるべき」
第13節の先発機会を与えられたベティス戦、久保が右サイドで2人と対峙しながら左足のヒールを使ったパスで相手を無力化した技巧を、スペイン大手スポーツ紙『マルカ』は激賞している。プレーセンスはリーグでも屈指。ファンやメディアからの人気は依然として根強い。
にもかかわらず、なぜ先発を取り切れず、移籍報道が熱を上げるのか。
メディアに賞賛されたベティス戦後、2試合連続で出場機会が与えられていないが、実はこの試合で、気になる戦術的判断ミスがあった。50分過ぎ、自陣でFKを与えた時、久保はペナルティアークで待つ相手選手に付いていたが、キッカーがボールを蹴る瞬間、そちらに向かって近づいている。入れられたボールは味方がクリアしたが、こぼれ球を拾われてエリア外から蹴り込まれた。
日本の指導者は、セットプレーの守備でペナルティアークに人を置き、ミドルシュートの蓋をする、ということに頓着しない。これは国内と海外でミドルシュートの精度の違いもあるか。スペインの指導者は、ペナルティアークを相手に明け渡した場合、烈火のごとく怒る。戦術的な原則を破ることが、失点に直結するからだ。
「久保はまだ学ぶべきことがある」
そう語るウナイ・エメリは戦術家として有名な監督で、執拗なほどにディテールにこだわる。セビージャでヨーロッパリーグ3連覇を達成した時も、組織を重んじていた。
ビジャレアルの監督、クラブも、久保の放出に動いているのは事実だろう。250万ユーロ(約3億円)のレンタル料は、決して安くはない。どれだけ活躍しても買い取りオプションはなく、1年で終わり。これ見よがしに下部組織出身の若手を起用しているのは、彼らがクラブの財産だからだ。
状況的には移籍はあり得る。
「久保に居場所なし」
地元メディアも、その流れを煽りつつある。
しかし、それでも久保は残留すべきだ。
彼が目指すべき高みは、王者レアル・マドリードでの先発出場である。であれば、エメリの要求を満たせるくらいの技量がなければ、とても到達はできない。レアル・マドリードは世界選抜のような陣容で、どんなサッカースタイルでも適応できる猛者ばかりだ。
シーズン前半戦だけでチームを鞍替えした場合、よほど大成功しない限り、評判を下げることが多い。戦い方がすでに確立したチームに途中で加わるのは、それだけパワーも使うし、リスクもある。もし久保がバルセロナのパス保有選手だったら、ベティスやレアル・ソシエダなど、ポゼッションサッカーを信奉している特定クラブでプレーすべきなのだが......。
2021年、久保がやるべき仕事は、"エメリに価値を認めさせる"ことに尽きる。それだけの力量はあるはずだ。