一時話題になった年末年始の17日連休案。帰省や移動を分散させ密を避けるという意図だったのですが、冷静に考えれば一斉休業することに変わりはなく、分散の効果は限られます。医師の木村知先生は、「そもそも政府が国民の休む日について指定したり指示したりするのはおかしい」と指摘。365日平日化、すなわち“年中いつでも休める化”が感染症対策にも働き方改革にも有効と言います――。
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■「年末年始17日連休」の騒動

前回の記事「『ここまでして今、実家に帰るか』医師が考える"それでも帰省する人"がクリアすべき21条件」を読んで、「帰省しちゃダメなの?」とがっかりされた方もいるかもしれませんね。「帰省はダメ」というのではなく、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大を抑えられるか否かの瀬戸際にある今、年末年始で医療が手薄な時期をわざわざ選んで皆が一斉に移動をする必然性があるのか、正月にこだわることなく、厳しい冬期を乗り越えた後に帰省をずらしてもいいのではないか、一度、立ち止まって考えてみませんかということなのです。

今年の年末年始の「連休」を巡っては、新型コロナウイルス感染症対策分科会が10月23日に出した提言が物議をかもし、一気に議論が噴出した経緯があります。発端となった「年末年始に関する分科会から政府への提言」をまとめると、「集中しがちな休暇を分散させるために、年末年始の休暇に加えて、その前後でまとまった休暇を取得し、年末年始に『密』を作らないよう政府主導で呼びかけて欲しい」というものでした。

これを受けたメディアが一斉に「年末年始延長、今週にも要望へ 経済界に西村担当相」「政府、年末年始の休暇延長提言へ 11日まで 企業に働きかけ」などと報じ、さらにネットでは「土日をからめると12月26日(土)から1月11日(月)の成人の日まで、最長17日間の『超』大型連休になる!」と大騒ぎになったのです。

この発言には、この時期に超多忙となるサービス業や物流業、そもそも土日、祝日が関係ないエッセンシャルワーカー、医療・介護従事者など休息どころか疲弊をこうむる職種の人々、非正規労働者など大型連休によって仕事と収入を失いかねず死活問題に直結する人たちから一斉に非難の声があがりました。二階俊博幹事長をはじめ政府与党も慌てて火消しに追われるはめになり、結局、西村康稔経済再生担当大臣が、「休暇の分散が一番の目的」と自身の発言を修正する格好で一応、収まりがついたのです。

■一斉休業・帰省という、なかば「常態化」した「異常」

そもそも政府が国民の休む日を「指定」あるいは「指示」すること自体が、時代錯誤も甚だしいの一言です。しかし一連の騒ぎで強く感じたのは、「年末年始に限らず、盆暮れ、ゴールデンウィークなど特定の時期に休みが集中する『なかば常態化した異常事態』は、改善されるべきだ」ということでした。

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2019年に発刊した拙著『病気は社会が引き起こす インフルエンザ大流行のワケ』(角川新書)でも触れましたが、毎年の年末年始は公的医療機関のみならず、町の診療所もこぞって休日診療体制、あるいは休診になります。

当然、急病やケガを負った患者さんは休日でも診療をしている数少ない医療機関に殺到し、その医療機関はまさに「過密」状態。「3密」どころではありません。例年であれば季節性インフルエンザが大流行して、医療ニーズが1年で最も高くなる時期に最も医療体制がぜい弱になる、という考えられない状況が何ら改善されることもなく、毎年、繰り返されているのです。まして今年はこれにCOVID-19への対応が加わるわけですから、悲惨な状況が今から目に見えるようです。

■元旦前後を全国一律に休日にする必要はどこにあるのか

確かに伝統的な行事を通じ、気持ちを新たにして新年を迎えたいという気持ちはわかりますが、リスクを無視してまで、元旦前後を全国一律に休日にする必要はあるのかと頭を抱えてしまいます。元日といえども、1年365日のうちの1日に過ぎません。国民がこぞって特別な意味を込める必要があるのか、コロナ禍を機に「正月休み」という考え方からゼロベースで見直す議論をしてもいいのではないでしょうか。

たとえば、入院病棟勤務の看護師や介護職など24時間、365日の対応が必要な職種では、同じ施設内で暦に関係なく「去年のお正月はAさんが当直したから、今年はBさんね」など、交代、分散して休暇を取る体制ができあがっています。年末年始に限らず、ゴールデンウィークやお盆期間中も同様です。つまり、エッセンシャルワークと呼ばれる年中無休の職種こそが休日の分散化をすでに進めていたわけです。さらに今後、地域の診療所や中小病院が互いに調整しあって分散休診方式を採用すれば、常態化している大型連休中の「医療の空白期間」も解消するでしょう。今回のコロナ禍を機に各地域の医師会は率先して分散休診について今すぐ早急に議論を開始し実行にうつすべきです。

■官公庁や金融機関、一般企業も分散休暇を

医療ニーズを集中させる側も一斉休みの危うさを認識して、「一斉」の是非を再考してほしいと思います。「いやいや、そんなことを言っても肝心の官公庁や銀行も休みだし仕事にならないよ」と思うかもしれませんね。確かに今は土日祝日や大型連休中は、公的機関の機能が停止し、銀行や企業も休日を合わせざるを得ない状況になっています。となれば極論かもしれませんが、官公庁が率先して365日対応の体制をつくったらどうでしょうか。

もちろん、今の人員で働き続けろと言っているわけではありません。完全週休二日制を義務化して、なおかつ年中無休の体制を維持するだけの公務員数を確保したうえでの話です。別にカレンダーの赤い文字に従って休む必要はありませんから、Aさんは週半ばの水曜日と日曜日に休む、Bさんは火曜日と水曜日で連休をとる、など柔軟なシフトが組めるでしょう。

当然ですが、こうした大がかりな改革を行うには、国民のコンセンサスとともに法律の改正など抜本的な制度改革が必要です。公務員を目の敵にして人を減らせと言っている一部の政党と、その支持者からは批判を浴びることでしょう。しかし、公務員や国立・公立の医療機関、そして地域の保健衛生の要である保健所の人員を無策に減らしてきた結果が、現在のコロナ禍の一因であることは明らかです。むしろ公務員の人員確保と人件費の拡充をこれまで以上に充実させる必要があるのではないでしょうか。

■休み方改革は働き方改革に通じる

COVID-19は私たちが惰性で「常識」としてきた慣習の再考を迫っています。「土日祝日廃止」──「日本全国、年中平日化」、つまり「365日いつでも休める化」によって、人の流れが分散化すれば、観光地だけでなく交通機関、各種サービス業、医療機関への「同じ期間内での過集中」がかなり緩和されるでしょう。単に「3密」の解消というだけでなく、人の集中にともなう荷重労働、超過勤務を緩和させる効果も期待できます。

当然、事業主の悪用を防ぐために労働法制の見直しも必要です。これまで休日出勤の超過勤務手当等でようやく生活費を稼いでいた分をベースアップすることも忘れてはいけません。休日の見直しは、そのまま働き方改革の議論にも通じるのです。

私たちは、コロナ禍で実施せざるを得なかったリモートワークがけっして絵空事でなかったことを知り、「仕事は会社に通勤して行うもの」という常識が絶対ではないことに気づきました。休日の見直しも同じことです。一見、暴論に思えるかもしれませんが、この「土日祝日廃止」のメリットとデメリットを当事者として吟味し、自分たちの生活に良い循環をもたらす可能性があるのかどうか、考えてみませんか。もっと自由かつ柔軟に、今よりももっと多くの日数を皆で代わる代わる休めるようにするには何が必要なのか。この年末年始はそこを考え、実現に動き出す好機です。

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木村 知(きむら・とも)
医師
医学博士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士。1968年、カナダ生まれ。2004年まで外科医として大学病院等に勤務後、大学組織を離れ、総合診療、在宅医療に従事。診療のかたわら、医療者ならではの視点で、時事・政治問題などについて論考を発信している。ウェブマガジンfoomiiで「ツイートDr.きむらともの時事放言」を連載中。著書に『医者とラーメン屋「本当に満足できる病院」の新常識』(文芸社)、『病気は社会が引き起こす――インフルエンザ大流行のワケ』(角川新書)がある。
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(医師 木村 知 構成=井手ゆきえ)