菅内閣は追加で「40兆円」の財政支出を決定。それなのにコロナ対策の医療も脆弱なままで、十分にお金は行き渡っているとも言えない。これはなぜなのか(写真:つのだよしお/アフロ)

菅政権が「コロナ対策と経済復調の両立」に苦戦している。コロナが引き起こした最大の問題は、医療体制が脆弱になる地域が出て来ていることだ。現場で苦闘されている医療従事者の方々のご苦労には頭が下がるばかりだが、地域の医療状況に応じて、きめ細かく経済活動を制限するという対応はやむを得ないだろう。医療体制充実によって公衆衛生政策を強化することは、感染被害抑制と経済活動復調を両立させる土台になる。

安倍前政権で「医療体制充実に2兆円」だったはず

だが、現在観測される冬場の感染者の増加は、経済活動復調とともに当初から充分想定されたはずだ。決して楽観できないが、米欧との対比では圧倒的に少ない規模の感染者増加である。逆に言えば、一部の地域に限定されているとはいえ、なお感染者数が一定数の増加でとどまっているにもかかわらず、医療体制が再び脆弱になったことのほうが深刻な問題だろう。

ワクチン開発によって2021年にはコロナと人類の共存は可能になるのかもしれないが、日本は将来の新たな感染症発生に対応できるのか、筆者は強く懸念している。

もちろん、春先に緊急事態宣言が発令された際、安倍前政権は相応規模の経済対策を打ち出した。このなかでは医療体制充実のために、コロナ緊急包括支援交付金として2兆円以上予算が計上されている。これは、都道府県を通じて医療機関に届く財政支援金だが、11月までに0.6兆円しか医療機関に支給されていないことが参議院内閣委員会において指摘された。

予算が組まれても、実際に歳出されなければ政策効果は現れない。せっかく2兆円以上の包括支援交付金が6月に策定されても、冬場を前に医療機関に行き渡らない。これが日本の医療体制の脆弱さがあらわになったことに、大きく関係しているのではないか。

なぜ包括支援交付金が医療機関に届かないのか、はっきりした理由は不明である。だが支給条件が厳格で、コロナに備えて必要な人員を確保するなど医療機関が柔軟に使うことが難しいなどの理由があるのかもしれない。

コロナに備えるために、一部のスペースをコロナ専用に組み替えるとコストが増え、場合によっては既存の患者受け入れを制限する必要があり、これらの対応で病院の経営が苦しくなる。そうなっても病院が困らないよう、損失の穴埋めにも交付金を使えるようになれば、2兆円以上の交付金がより迅速に行きわたり医療体制が拡充されるのではないか。

安倍前政権が策定した、この包括支援交付金を含む補正予算の規模は57.6兆円(第1次25.7兆円+第2次31.9兆円)で、本来はこの金額の追加歳出が実現するはずである。

このなかには、全国民への「10万円給付金」(約13兆円)など、(時間がかかったが)すでにほぼ歳出された政策メニューもある。だが現時点で、全体でどの程度歳出されたのか内閣府は明確なデータを示していない。

このため、推測するしかないのだが、これらの補正予算のメニューには資金繰り支援政策などがあるため、実際に国民に行き渡る(あるいは行き渡る可能性が高い)歳出規模は、25兆円程度だと筆者は試算している。

「18兆円」も特定産業へ、金融財政政策が機能しない?

菅政権は新たな補正予算を8日に臨時閣議決定したが、そもそも従前に策定された補正予算が実際に執行され、それが経済支援政策としてどの程度の効果を発揮したのかを、しっかり説明する必要があるだろう。

約7兆円残っている予備費を含めて、大規模な予算が実際にはスムーズに執行されていないことが、これまで日本経済の復調が鈍いことに大きく影響していると筆者は考えている。8日に決まった追加経済対策では、事業規模が73.6兆円、追加の財政支出が約40兆円となった。この内訳は、コロナ感染拡大防止5.9兆円、成長戦略18.4兆円、国土強靭化5.6兆円、予備費10兆円である。

この財政支出が実際にどの程度追加で歳出されるか、詳細なメニューが未定なので不明だが、コロナ感染抑制と経済正常化の両立につながる企業・家計・医療機関への給付金がどの程度あるのか。

ここで言えるのは、成長戦略という名目の18兆円予算が特定産業への長期間にわたる歳出になるため、家計や企業に短期間で幅広く行き渡る可能性は低いだろう。なかには「1人親世帯に5万円給付」という一部家計に対する追加の支援メニューがあるが、マクロ的には極めて軽微な規模にとどまる見通しだ。

金融財政政策が一体となって経済成長率を高める、いわゆるマクロ安定化政策として今回の財政政策が機能するか。そうなるためには、国債発行金額が数十兆円規模で追加され、そして日本銀行による国債買入が拡大して金融緩和が強化されるか否かが重要になる。

たとえ70兆円以上に事業規模が膨らんでも、日銀による国債購入はほとんど増えないと筆者は予想している。であれば、マクロ的には経済成長押し上げ効果はほぼ現れないだろう。菅政権の経済政策運営には、そうした視点が欠けているように思われる。