コロナの「第三波」でネット通販はさらに勢いづき、その陰でトラックドライバーが苦境に立たされている(写真:8x10/PIXTA)

「巣ごもり」需要により通販事業は活況で、荷物を運ぶ運転手は多忙を極めている。一見、ドライバーの売り手市場に思えるが、新型コロナで産業構造が変化し、労働力の需給バランスが崩壊。運転手の条件は日に日に厳しくなっているという。物流ジャーナリストの刈屋大輔氏は著書『ルポ トラックドライバー』でドライバーに「同乗取材」し、その実態を詳らかにした。同書より一部を抜粋し3回にわたってリポートする。

自粛警察がマスク着用を監視

新型コロナウイルスの感染拡大や政府による緊急事態宣言を受けて、2020年4月以降、物流大手各社はドライバーの安全・衛生対策として、うがいや手洗いの徹底、出勤時の検温、フェイスマスクの着用、車両や機材の消毒などを実施している。しかもこうした取り組みは自社ドライバーのみならず、出入りの下請けドライバーたちにも義務づけられている。

「その徹底ぶりは目を見張るものがある」と外資系宅配便会社の下請けドライバーは感心する。

「毎朝の出勤時の検温では37度を少しでも上回っていたら、その日は出勤停止となり、すぐに帰宅しなければならない。仕事に復帰できるのは平熱に戻った状態が数日間続いた後で、もちろんコロナに感染していないことが絶対条件だ。コロナ感染者や感染の疑いがある人との接触の有無や、仕事を休んでいる間の毎日の体温推移、病院で診療を受けた場合には診断結果などの報告も求められる」

とくに口酸っぱく指導されるのはマスクの着用だという。

「当初、マスクはドライバーが個々で負担していたが、すぐに元請けからの支給にかわった。元請けはドライバーに配布するマスクの枚数をある程度確保できているようで、基本的には1日1枚の使い捨て。営業所内にウイルスを持ち込まないようにするためなのか、車両置き場にはマスク専用のゴミ箱も用意されている」 

しかもマスクは集荷や配達の対面時だけでなく、運転中も極力外さないでほしい、と要請されているという。

「あるエリアを担当するドライバーがマスクを着用していなかった、と『自粛警察』から通報があったからだ。とはいえ、路上とかではなく、車両内での未着用を目撃したようだ。元請けの担当者は、世間から監視の眼が向けられているドライバーたちに同情しながらも、『こういうご時世だから我慢してほしい』と終日のマスク着用の徹底を呼びかけている」

マスクは気温の高い時期にドライバーたちの体力を奪い始めたようだった。

「ただでさえ暑い時期の業務はしんどいのに、片時もマスクを外せないとなると、今度は熱中症にならないか心配だ。せめて運転中だけでもノーマスクを許してもらえたら……」

元請けからは運転席や荷台、荷物を消毒するための除菌用スプレーも配給された。スプレーは運転席に置いておくほか、液体をポケットサイズの小さな容器に移し替えて常に携帯するようにもしている。

「荷物の受け渡しが終わったら、まず自分の手にワンプッシュ。そのほかに車両のハンドルや訪問先のドアノブなど気になる箇所があったら、その都度除菌する。荷物には送り状の文字が滲まないよう注意しながらスプレーを噴霧している」

学校から「ドライバーの子どもは登校するな」

元請けによる指導はドライバーの日々の生活スタイルにも及ぶという。


「不特定多数と長時間接する可能性のある外食は勤務時間外でもできるだけ避けてほしい。勤務中の昼食もコンビニなどの店舗でテイクアウトするか、弁当の持参で対応してほしいと依頼があった。免疫力を維持するため、栄養価の高いものを食べたり、睡眠を十分に取るように、という指示も受けている」

新型コロナ以降、トラックドライバーたちは国民のライフラインを支えるため、感染のリスクに晒されながらも、日々ハンドルを握り続けている。しかし、そんなドライバーたちに対して、にわかに信じがたい罵声を浴びせる、心ない荷主や消費者も存在する。

報道やテレビのワイドショーでは、配達先で除菌スプレーを吹きかけられたり、車両のナンバーを見て「コロナを運んでくるな」と暴言を吐かれたり、親の職業がトラックドライバーであることを理由に、学校から子供の登校を拒否された、といった出来事が取り上げられた。

そこまで極端ではなくても、今回のコロナ騒動に関連して不快な体験をしたドライバーは少なくないようだ。