現役清掃員が見た「ヤバいゴミ」の中身とは?(写真:Ystudio/PIXTA)

包丁や注射器、時には「謎の液体」が入った牛乳パックを回収することも……。ゴミ収集会社の正社員とお笑い芸人の二足のわらじを履く、お笑いコンビ「マシンガンズ」の滝沢秀一さん。彼がゴミ集積所で見た「ヤバすぎるゴミ」の正体とは? 『やっぱり、このゴミは収集できません 〜ゴミ清掃員がやばい現場で考えたこと』から一部抜粋・再構成してお届けします。

世のほとんどの清掃員は、理不尽なゴミが現れると、顔を歪めながらも気持ちを押し殺して回収している。本来なら、背中を向けて走って逃げてもいいくらいだ。世の中には、人知れず悲鳴をあげながら、今日もゴミと格闘している清掃員が大勢いる。ゴミ清掃は恐怖との闘いだ。いつどこに、どんなゴミが潜んでいるかわからない。

大多数のまともなゴミの中に時折、ヤバいゴミが混じっている。包丁がそのまま捨てられていて、飛び出してきたこともある。可燃ゴミに割れたグラスが入っていて、掴んだ瞬間、軍手を突き破って、血が吹き出たこともある。

「触るなーーー!」温厚なベテラン清掃員が絶叫するので、回収の手を止めると、可燃ゴミの中に注射針がびっちり入っていたこともあった。そのまま知らずに掴んで、万が一針が刺さったら、何かの感染症にかかる恐れもある。

清掃員を悩ます「ヤバすぎるゴミ」

今から8年前、忘れもしない一般的な住宅街の集積所。そのほとんどがきちんとしたゴミ出しをされている中にひとつ、そのゴミは混じっていた。

それはゴミではなかった。概念すら覆される。ゴミを回収するのが、ゴミ清掃員の役目だが、集積所に置かれているゴミの山の中には、ゴミではない物が混じっているという。

相棒:滝沢さん、気をつけてね。ここは小便が飛び散るかもしれないから。

滝沢:え? なんで? どういう訳? なんで、なんで!?

質問しているうちに飛び散るかもしれないので、一旦清掃車から離れ、再度その日の相棒に疑問を投げかける。

滝沢:寝たきりの人の? なんでおしっこが飛び散るの? トイレに行けない人とか?

相棒:全っ然違います。僕、ここの住人に聞いたんですけど、寝たきりの人はいないと言っていました。ただ何をしているかわからない、ブラブラしている人がアパートに住んでいるから、そいつじゃないかって。牛乳パックだけを置いて部屋に戻っていったのを見たことがあると言ってたので、間違いないっす。

話を聞けば、どうやら牛乳パックに小の方を詰めて、ガムテープでグルグル巻きにして出すことが生活スタイルだという。

生活スタイル!? 何その生活スタイル? 人に迷惑をかけることを生活スタイルと呼んではいけない。学校で教わっていないが、そんなことくらいは教わらなくてもわかる。絶対にダメだ。常識は覆った。いや、覆ってねえわ。ダメなものはダメだわ。

同僚は知らずに回収していた頃、清掃車の回転板に挟まれた牛乳パックが破裂し、中身が飛び散って、飲んでしまったという。

警察官と野次馬に囲まれたゴミ集積所

テロ現場に近いこともあった。消火器の中身がバラまかれていたのだ。なんで!? からの四苦八苦。

「おー、あそこ、午後の俺らの現場だぞ」

運転手の指さす先の集積所には、人だかりができていた。警察官数人と野次馬が集まっており、物々しい雰囲気が漂っている。絶対に只事じゃない。だが、四回苦しんで、八回苦しむことが訪れるとは、まだその時は気づいていない。目の前の仕事で手一杯だ。野次馬の件は後回しだ、と思っていたら、午後がやってきた。

現場に到着すると、辺り一面が真っピンクに染まっていた。置かれている全てのゴミと歩道が、そこだけ雪が降り積もったかのように粉まみれになっている。白とピンクの間の淡いピンクだった。ゴミに花が咲いているようだ。

「あ、これ消火器ですねー」

……ピンク!? 消火器の中身ってピンクなの? へー、大人になっても知らないことがあるもんだと思いながらゴミを回収すると、1分前にゴミに花が咲いているようだとのんきに考えた自分を呪った。

掴むだけで微粒子が舞い上がり、感覚的には粉が毛穴に暴力的に侵入してくるよう。数十秒後には、2メートルも離れていないもう1人の清掃員が見えなくなり、忍者が姿をくらます時に使う秘密道具を食らったのかと思った。

相棒:ゲッホ、ゲッホっっ……これボヤ騒ぎっすねっホッホッー。

滝沢:ホッホッー、ブファー………なんでわかったのっ?

相棒:これ……ゲッホー、そうでしょっ?


ピンクの煙の中にいるのならば、エロい気持ちになりたいのに、炭素化したゴミを見ている。恐らく煙草のポイ捨て。

一箇所を中心に黒い輪が広がっていた。ゴミ捨て場ならいいやと、軽い気持ちで消していない煙草を投げ入れたのだろう。そのせいで僕は、エロい気持ちにならないピンクの煙の中でむせ返って、ゴミを運んでいる。回転板のボタンを押せばピンクの煙は色濃くなり、忍者は1人ではなく2、3人いるのではないかと錯覚する。色濃くなったところでもちろん、エロい気持ちになんかなれない。いや、別にエロい気持ちになりたい訳ではねぇわ!と口に出したくなったところでふと思った。

「オーライじゃねえわ!」

消火器の中身は吸っても大丈夫なのだろうか? 吸い込む可能性のあるものだから、有害物質が入っていれば、もっと注意喚起しているはずだ。だから大丈夫なのだろう。でも2メートル先の相棒の顔も見えないピンクの煙の中にいると人問、疑いたくもなる。

ゲッホゲッホ! これは体が本能的に嫌がっている拒絶反応ではないのか? マスクはしているが、酸っぱい口になっているような気がする。消化器の中身って酸っぱいのね。

相棒:オーライ!

「オーライじゃねえわ!」と相棒に言いたかったが、口を聞く訳にはいかない。相棒の顔を見れば、片栗粉をまぶした揚げる前の唐揚げのようになっている。ということは僕もだ。袖口で顔を拭こうと思ったが、制服もピンクに染まっていた。