前時代的だけど性能は一級品だった! OHVエンジンだけど頑張った国産車5選

写真拡大 (全7枚)

実用的なOHVエンジンでもスポーティだったクルマたち

 現在、出力向上や燃費改善のために、シリンダーヘッドにある吸排気バルブのレイアウトや開閉タイミング設定の自由度の高さからDOHCエンジンが主流となっていますが、1990年代まで、国産乗用車ではすでに前時代的なOHVエンジンが残っていました。

古臭いエンジンだけど一生懸命だったクルマたち

 OHVは「Over Head Valve(オーバーヘッドバルブ)」の略語で、エンジンの頭部であるシリンダーヘッドに動弁機構を設置し、シリンダーブロック側にカムシャフトが備えられ、プッシュロッドと呼ばれる棒状のパーツを介してバルブの開閉をおこなう方式です。

【画像】今見てもカッコいい! 往年のOHVエンジン車をささっと見る!(18枚)

 1940年代では一般的だったサイドバルブに比べて、OHVは燃焼室形状設計の自由度の高さや高回転化が可能で、燃費の改善や出力向上が図られました。

 しかし、さらに高性能化に有利なSOHCが1970年代に普及すると、1980年代には一部のクロスカントリー車を除く国産乗用車から淘汰されていくことになりました。

 一方で、過去にはOHVエンジンでもスポーティな走りを実現していたクルマも存在。そんなOHVエンジンで頑張っていた国産車を5車種ピックアップして紹介します。

●三菱「ギャラン FTO」

コンパクトでスタイリッシュなフォルムの「FTO」

 現在は、SUV、ミニバン、コンパクトカー、軽自動車を販売している三菱ですが、過去には魅力的なスペシャリティカーや、高性能モデルを数多くラインナップしていました。

 スポーティカーのニーズが高まり始めていた1970年には、スタイリッシュな外観の2ドアファストバッククーペの「コルトギャランGTO」がデビュー。日本車離れしたスタイリッシュな外観で人気となりました

 さらに1971年にはギャランGTOの弟分にあたるスポーティカーの「ギャランクーペFTO」を発売。

 既存の1.4リッター4気筒OHVエンジンを転用し、ボディパーツも既存の車種から流用することで、開発期間の短縮とコストダウンを図り、スタイリッシュながら安価な価格設定を実現して、より若い世代に訴求しました。

 スタンダードモデルの「GI」と「GII」のエンジンは最高出力86馬力です、トップグレードの「GIII」にはツインキャブの装着とシリンダーヘッド周りの専用チューニングが行われ95馬力を発揮。

 軽量コンパクトな車体と相まって、優れた走行性能を獲得していました。

 しかし、発売から2年後の1973年、マイナーチェンジでOHCの1.6リッターエンジン搭載車の登場と、1.4リッター車も新開発のOHCエンジンにスイッチされ、OHVエンジン車は短命に終わりました。

●日産「サニー」

名機と呼ばれるOHVエンジン「A型」を搭載した「サニー」

 1966年に日産はさらなるマイカーの普及を狙って、最大のライバルであるトヨタのエントリーカー「パブリカ」よりも1クラス上となる1リッタークラスのエンジンを開発し、低価格の大衆車として「サニー」を発売しました。

 搭載されたエンジンはシンプルかつ生産性と整備性を考慮した構造の、ターンフロー式OHVの直列4気筒「A型」です。

 軽量コンパクトに仕立てられていたことや、プッシュロッドの短縮による同弁系の軽量化を図ったことなどにより、本来は高回転を得意としないはずのOHVでありながら、軽快なフィーリングで吹き上がる特性を持っていました。

 トヨタの初代「カローラ」が1,1リッターエンジンを搭載して「プラス100ccの余裕」のコピーを掲げたことで、1970年にモデルチェンジされた2代目サニーでは排気量を1.2リッターに拡大。

 さらにセダンとクーペにSUツインキャブを備えた「サニー1200GX」が追加され、最高出力83馬力を発揮。

 1972年には5速MTを搭載した「サニー1200GX5」を追加。5速のギア比が1.0とされたクロスレシオトランスミッションがエンジンの特性を上手く引き出すことで、よりスポーツ色を高めました。

 1970年代に人気となったツーリングカーレースのTSクラスで、サニーはポテンシャルを発揮し、レース用にチューンナップされたA型エンジンは1.3リッターから130馬力を誇り、許容回転数は1万rpmに達したといいます。

 その後、4代目サニーまでA型エンジンは搭載されましたが、サニートラックはA型エンジンのまま1994年まで国内で販売され、海外では2008年まで生き残りました。

●トヨタ「カローラレビンJ」

廉価グレードとして設定された「カローラレビンJ」

 1970年に登場した初代「セリカ」は、まだ日本では一部のスポーツカーにしか採用されていなかったDOHCエンジンを搭載したことで、高性能の象徴として世間一般に認識させることに成功。

 次の一手として1972年には小型大衆車だったカローラクーペにDOHCエンジンを搭載したスポーツグレード「レビン」が設定されました。

 通常のクーペとの外観上の識別点は、より太いタイヤを収められるオーバーフェンダーが装着されている点ですが、搭載されていたエンジンは最高出力115馬力(レギュラーガソリン仕様は110馬力)を発揮する1.6リッター直列4気筒DOHCで、約860kgのボディを軽快に走らせ、スポーツドライビングを好む若者層から絶大な人気を誇りました。

 1973年のマイナーチェンジではレビンのルックスはそのままに、「セリカ1600ST」に搭載されていた105馬力(ハイオク仕様)の1.6リッター直列4気筒ツインキャブOHVエンジンを搭載する「カローラレビンJ」が追加ラインナップされます。

 DOHCエンジン搭載車よりも廉価だったことから、スポーツカーに対する敷居を下げ、出力こそDOHCエンジン車よりも10馬力劣っていますが、軽量でシャシ性能も高かったことから、走りはレビンに引けを取らなかったといいます。

唯一無二! OHVのガソリンターボ車があった!?

●トヨタ「スターレット」KP61

「ケーピーロクイチ」の愛称で呼ばれた「スターレット」(画像は北米仕様)

 トヨタのエントリーモデルだった「パブリカ」の上級モデルとして、2ドアクーペ/4ドアセダンの「パブリカ・スターレット」が1973年に登場。

 そして、1978年モデルチェンジで、2BOXのハッチバックスタイルとなったFR車、2代目「スターレット」が発売されました。

 スターレットに搭載されたエンジンは、先代の1.2リッターから排気量を拡大した1.3リッター直列4気筒OHVで72馬力を発揮。高回転は不得意ながらも中回転域でのスロットルレスポンスは良く、700kgの軽量ボディには十分なパワーでした。

 また、2代目にはダイレクト感の強いラック&ピニオン式ステアリングギアボックスを採用し、全グレードでフロントディスクブレーキの採用。

 ホーシングタイプのリアアクスルながら、先代のリーフリジッドサスペンションから4リンク式コイルスプリングにあらためたことでサスペンションストロークも確保され、シャシ性能が大幅に向上しています。

 さらに、日本で最初のシリーズ戦形式のワンメイクレース「スターレット・カップ」が開催され、ラリーでも活躍するなど、高いポテンシャルを証明しました。

 1984年にはすべてが一新されたFFの3代目が登場。エンジンもすべてSOHCを搭載し、性能もあらゆる面で向上しています。

●スバル「レオーネ」

OHVながらターボもラインナップした「レオーネ」

 1971年、スバル初代「レオーネ」が誕生。名車と呼ばれた「スバル1000」の後継車として水平対向4気筒OHVエンジンを搭載し、ボディタイプも2ドアクーペ、セダン、ライトバンを展開。

 1979年に登場した2代目では、4ドアセダン、2ドアハードトップ、エステートバン、3ドアハッチバックと、ボディバリエーションを拡充。エンジンはそれまでの1.6リッターや1.4リッターに加えて1.8リッター水平対向4気筒OHVエンジンが登場しました。

 1.6リッターエンジンにツインキャブを備えたスポーツモデル「1600SRX」や、いまでは当たり前となったパワーステアリング、パワーウインドウ、オートエアコンを装備可能とした最上級車種「1800GTS」をラインナップ。

 また1.8リッターの4WD車はデュアルレンジと呼ばれる副変速機付き4速MTを搭載し、幅広いニーズに対応しました。

 1981年には、スバル初の5ナンバーステーションワゴンとなる「ツーリングワゴン」を追加し、1982年には折からのターボブームに追従するため、120馬力を発揮するターボモデルをラインナップ。

 水平対向OHVエンジンにターボを組み合わせた乗用車はレオーネが日本初で、偉業といえますが、パワー的には他車には及ばず、1984年に3代目の登場で新開発の1.8リッターSOHCが主力エンジンとなります。

 しかし、1.6リッターエンジンはOHVのまま生き残り、1994年まで初代「レガシィ」と併売されました。

※ ※ ※

 現在もシボレー新型「コルベット」にはOHVエンジンが搭載され、ダッジ「チャレンジャー」などのマッスルカーもOHVエンジンが設定されており、大排気量でハイパワーなアメリカ車の伝統を受け継いでいます。

 一方で、ベントレーは60年間搭載していたV型8気筒OHVエンジンの生産を2020年6月に終了。これも伝統を重んじてきた結果の採用でしたが、ついに消えてしまいました。

 性能的にはいまも現役を続けることも可能なOHVエンジンですが、騒音や環境対応などの対応には不利で、生産の合理化という面でも生き残るのが難しくなっています。

 実際、アメリカ車でもOHVは少数派ですから、近い将来には完全に淘汰されてしまうかもしれません。