「後継者難倒産」件数推移

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 帝国データバンクの調べでは、後継者の不在や、事業承継の失敗などにより、事業の継続見込が立なくなった「後継者難」による倒産が2020年度4-7月累計で169件判明した。これは、過去最多の500件に迫った19年度(479件)の同時期を上回っており、後継者難倒産は今年度に入り過去最多ペースで推移している。

 後継者が不在であることを理由に倒産するケースでは、代表者の急な病気や死亡に直面し、事業継続が困難になるケースが多くを占めていた。しかし、近時は新型コロナウイルスの影響により事業継続を断念した後継者難倒産もこれまでに累計19件発生しており、20年度4-7月累計の中では1割超を占めている。

 従来から後継者が見つからなかった企業や承継直後の企業などで、新型コロナの感染拡大に伴い資金繰りや財務の悪化に直面、経営意欲を喪失して自らの代で事業を畳んだ「あきらめ型」の後継者難倒産も出始めている。

 政府は2020年度補正予算として、後継者不在企業の経営資源引継ぎなどへの支援策に100億円を計上し、企業の事業承継を支援するメニューを打ち出している。しかし、2019年に帝国データバンクが調査した結果では国内企業の6割以上が後継者不在であり、解決に向けた道程は依然として長期にわたることが予想される。

 こうしたなか、新型コロナによる経済への悪影響が長引けば、それが引き金となるケースが上乗せされる形で、後継者難による倒産が一段と増加する可能性がある。

卸売・製造業などで後継者難による倒産が増加

 2020年度4-7月累計の後継者難倒産で最も多い業種は「建設業」で36件。次いで「卸売業」(35件)、「小売業」「製造業」(29件)などが続いた。このうち、卸売業と製造業では前年同期に比べて増加しており、特に卸売業では前年同期から84%も上回るなど、増加傾向が顕著に見られている。

 後継者難倒産の増加率が最も多い卸売業では、飲食店向けなどの商材も多く扱う「飲食料品卸」が件数で最も多く11件発生。前年同期(5件)から2倍超に増加したほか、11件のうち4件が新型コロナウイルスの影響もあって事業継続を断念していた。アパレル産業の「洋服類卸」も7件発生し、このうち2件が新型コロナによる影響を受けていたことが明らかになっている。

新型コロナによる景気後退の動向次第で、 事業承継を「あきらめる」倒産増加も懸念

 今後は、新型コロナによる景気後退の動向と、事業を引き継がせたい・承継したばかりの企業に対する柔軟な支援が、後継者難倒産を抑制するカギとなりそうだ。既に、政府や自治体による事業承継支援、M&Aなども活用した事業存続の提案など、後継者不足による事業消滅を回避するためのプランが出揃いつつある。

 ただ、宿泊業や飲食業など需要の先行きが見通せない業種や、従前から業績が厳しい企業などでは、事業を承継するタイミングや人材確保が難しい。後継者問題を抱えていた企業のなかには、新型コロナによる業績悪化を機に事業継続を諦めたケースも出始めている。東京都のアパレル卸では、代表者の健康問題に加え、新型コロナの影響で売上が一段と悪化したことで資金繰りのメドが立たず、事業継続を断念した。

 また北海道の旅館では、一度は後継者に事業を引き継ぎ経営再建が模索されたものの、その矢先に新型コロナによる影響で宿泊キャンセルが相次ぐなどしたことで業績が悪化。事業承継後の経営が思うように立ち行かず、最終的に法的整理を余儀なくされたケースもある。

 新型コロナによる景気後退が深刻化するほど、承継を検討する人材が先行き不安から二の足を踏む可能性が高まり、事業承継はより難しくなることが予想される。コロナ禍において後継者難による事業消滅を防ぐには、特に後継者が不在となっている企業を中心に、後継者や事業譲渡先の選定など、本来長期にわたる事業承継のステップをこれまで以上に速いスピードで促すと同時に、新型コロナによる業績悪化を抑制する二正面でのサポートが求められる。