「飽きられる文章」と「読まれる文章」、いったい何が違うのでしょうか?(写真:apichon_tee/iStock)

なぜだかわからないがグイグイ引き込まれていく本がある一方で、数ページ読んだら離脱してしまう本があります。この違いはどこにあるのでしょうか。プロの書き手ではない私たちが「おもしろい」と思われるような文章を書くには。

本稿では、『メモの魔術』などのヒット作編集を手掛けた、ビジネス書の編集者の竹村俊助氏が、「おもしろいと思われる文章」のつくり方について解説します(本稿は、『書くのがしんどい』より抜粋・編集を加えたものです)。

おもしろい文章は「共感8割、発見2割」

「おもしろいな」と思う文章には、何かしら新しい情報が入っています。ただ、「なるほど!」「へえ!」がずっと続くような文章は疲れてしまうのです。

例えば、こんな文章があるとします。

パプアニューギニアは南太平洋にあるニューギニア島の東半分および周辺の島々からなる立憲君主制国家です。東南アジア諸国連合(ASEAN)の特別オブザーバーですが、地理的にはオセアニアに属します。オーストラリアの北、ソロモン諸島の西、インドネシアの東、ミクロネシア連邦の南に位置します。

これは「パプアニューギニア」を説明したウィキペディアの文章に少し手を入れたものです。地理に詳しくない人にとっては「新しい情報」だらけ。でもこの文章を「ほうほう、おもしろい」とはなかなか思えません。バンバン固有名詞が出てきてついていけないのです。

では、こんな文章はどうでしょうか?

「パプアニューギニア」って聞いたことありますよね? どこにあるかわかりますか?

地図で言えば、オーストラリアの上にあります。

30代後半以上の人であれば『南国少年パプワくん』を思い出す人もいるかもしれません。「南国の、ほのぼのとした国」というイメージを持つ人も多いでしょう。

でも実はこの国、第二次世界大戦前までは「パプア」と「ニューギニア」という2つの地域に分かれていました。戦時中は日本軍と連合国軍がこの土地で争い、約21万人もの兵士が戦死。大戦後に2つの領土が統合されて「パプアニューギニア」と呼ばれるようになったのです。

こちらのほうが、おもしろいのではないでしょうか。何が言いたいのかというと、おもしろいと思う文章の8割くらいは、決して新しい情報ではないということです。

・「パプアニューギニア」って聞いたことありますよね?
・どこにあるかわかりますか?
・地図で言えば、オーストラリアの上にあります。
・30代後半以上の人であれば『南国少年パプワくん』を思い出す人もいるかもしれません。「南国の、ほのぼのとした国」というイメージを持つ人も多いでしょう。

などの部分は、別に新しい情報でもなんでもありません。ハッキリ言っておもしろくない。ここが長すぎると逆に飽きられてしまいます。ただ、この部分には「書き手と読み手のあいだの溝」を埋める効果があります。よって、その後の

・ 第二次世界大戦前までは「パプア」と「ニューギニア」という2つの地域に分かれていた
・日本軍と連合国軍がこの地で争い、約21万人もの兵士が戦死した

といった「新しい発見」が際立ち、伝わりやすくなるわけです。

このように「パプアニューギニアってどこだっけ?」「あーパプワくん、懐かしい」などといった「共感」で引っぱりつつ、残り1〜2割くらいで「そうなんだ!」「なるほどね!」と思わせる。こうすることで「新しい考え方・できごと・情報」がそこまで多くなくても「おもしろい文章」を無理せず書くことができます。

「おもしろい文章を書く」といっても、内容を「100%おもしろいことだらけ」にしなくてもいい。「共感8割、発見2割」を目指すくらいでちょうどいいのです。

「共感」を入り口にする

「共感」はものすごく大切な要素です。お笑いの世界でも「あるあるネタ」をやるとだいたいウケます。いつの時代も「あるある」は強い。人は「共感」を求める生きものなのでしょう。

飲み会の帰りに微妙な知り合いと一緒に帰るのがつらいから「ぼく、コンビニ寄って帰りますね」って言ったら「あ、じゃあ私も」ってついてきちゃって、うわああってなる。

これは「人見知りあるある」です。「あるある」がうまくハマると「あ、この人、自分と同じ感覚だ」と読み手に思ってもらえます。「この人、すごい私のことわかってる」と。すると信用してもらえるのです。

おもしろい文章を書きたいのであれば、日頃から「あるあるネタ」をストックしておくといいかもしれません。「こういう会話、よく聞くよな」「こんな人、けっこう多いよな」と思ったら、ささいなことでもいいのでメモしておきましょう。

ぼくが本を編集するときも、この「共感と発見」のバランスを意識しています。本の場合は「共感:発見」が「6:4」だったり「5:5」だったりしますが、とにかく「発見だらけ」の本は疲れるし「共感だらけ」の本は飽きられます。そのバランスを考えてつくるわけです。

似たようなことで、「読者の期待どおりの部分」と「期待を超えた部分」をバランスよく配合することも意識しています。

みんな「ホリエモンにはこれを言ってほしい」「オリラジの中田敦彦さんにはこれを言ってほしい」という「期待」を暗に持っています。堀江さんには「電話には出るな」「会議は無駄だ」「ネクタイなんてやめろ」と読者は言ってほしい。

その期待に素直に応えてあげる。これも「おもしろさ」につながります。水戸黄門で印籠がいいタイミングで出てくるように、予定調和にも価値があるのです。

ビジネス書を読んでいると「あいさつをしたほうがいい」という項目が出てきます。そんなことは昔から言われつくされているわけです。著者のなかには「いまさらこんなこと言っても、コンテンツなんかにならないんじゃない?」と言う人もいます。でも、それをあえて言うことは、読者の期待に応えることになります。

「その人が言う」ことが求められているなら、それは立派なコンテンツなのです。

ビジネス書の8割くらいはすでに言われていることです。そこに新鮮さや奇抜さはないのかもしれません。ただ、それを読むことで安心感を抱く人も多くいるわけです。自己啓発書を読む人は「夢は叶うよ!」と言ってほしいから読みます。予定調和を求めている。新しいことしか書いていないような本に人は反応しづらいのです。

「共感8割、発見2割」の法則は人間にも当てはまりそうです。

まったく共通点のない、共感もできない奇人変人には、怖くて近寄れません。「見てるぶんにはおもしろいけど、仲よくなりたいとは思わないな」という人が大半だと思います。でも、8割くらい自分と一緒で、2割くらい自分と違う部分があったり、変だなと思うことがあれば「おもしろいな」「この人と仲よくなりたい」と思うはずです。

逆に自分とまったく同じような人は、仲よくはなるかもしれないですが「おもしろいな」とは思わないでしょう。

文章も完全に新しい情報だらけだと「超奇抜な人」になってしまいます。意外と人気にならない。8割くらい自分と同じことを言って「わかるわかる」「あいさつ大切ですよね」「夢、叶いますよね」と共感させておいて、残り2割で「人脈はクソだ」など斬新なことを言うと「これは新しい!」と思ってもらえるのです。

「完全に新しいもの」など書かなくてもいいのです。結論は一緒でもいい。エピソードが違えば新しいものになりますし、「誰が書くか」ということでメッセージは変わってくるのです。

読み手の「ツッコミ」を先回りする

飽きずに読み進められる文章も「共感」の力をうまく使っています。

長々と概念的な話が続いたら……

「もう、わかったよ。早くやり方を教えてくれよ」と思われているかもしれませんね。しかし、もう少しだけ説明させてください。

説明が長々と続いているときは……

説明が長いと思われているだろう。しかし実は、ここが大切なポイントなのでしつこいかもしれないが繰り返させてほしい。


など。つねに「こう思ってますよね? でもこちらはこういう意図なんですよ」と絶妙なタイミングで、できれば少し「先回り」して伝えると読み手は安心して読み進めることができます。ぼくは途中で文章が読まれなくなることをすごく怖がっています。「ここで離脱されちゃうかも、飽きられちゃうかも」とつねに考えています。

テレビ番組を見ていると、視聴者が飽きそうになるところで話題が変わったり、「ここでまさかの展開が!」というテロップが出たりします。テレビの制作側は、チャンネルを変えられないように工夫をこらしています。普通の人がそこまでやる必要はないですが、それくらいの気持ちで文章を編んでいくと魅力はグッとアップするでしょう。

読み手の気持ちに添う。共感してもらえるように書く。読み手が疑問に思いそうなところは、先回りして言及するか、早めに回収しておく。すると、最後まで読まれる「おもしろい」文章になるはずです。