マイナポイントでキャッシュレス決済は再び盛り上がるのか(佐野正弘)

2019年10月の消費税増税に伴って経済産業省が実施していた「キャッシュレス・消費者還元事業」が、2020年6月30日をもって終了しました。

この施策ではキャッシュレス決済をするだけで、店舗によっては5%のポイントの還元が受けられるという非常にお得度合いの高い施策であったことから、非常に多くの人が利用したようです。

実際、政府が当初計上していた2798億円では予算が不足し、累計では事業費が7750億円にのぼるとのこと。それだけ高い関心を寄せる事業であったと同時に、キャッシュレス決済の認知と利用拡大に大きな影響を与えたのは確かでしょう。

ですがキャッシュレス決済の利用拡大を目的とした、政府のポイント還元施策はまだ終わってはいません。今度は総務省が2020年9月より「マイナポイント事業」を開始する予定で、早くも注目を集めているようです。

▲2020年9月に開始「マイナポイント事業」のWebサイト。特定のキャッシュレス決済とマイナンバーカードを紐づけることで還元が得られるのが特徴だ

こちらもすでに多くの報道で取り上げられていることからご存知の人も多いかと思いますが、改めて簡単に説明しておきますと、要はマイナンバーカードに特定のキャッシュレス決済をひもづけ、チャージまたは買い物をすることで最大5000円分のポイントが付与されるというものになります。キャッシュレス・消費者還元事業とは異なりマイナンバーカードが必須なことから、キャッシュレス決済だけでなくマイナンバーカードの普及も狙った施策といえるでしょう。

マイナポイント事業は2020年9月から始まるので2か月程度間が空くのですが、すでに2020年7月からマイナポイントの申し込みは可能となっています。しかもマイナポイントにひもづけられるキャッシュレス決済は1人1つに限られることから、早くもマイナポイント需要を獲得するべく、キャッシュレス決済事業者同士のキャンペーン競争が始まっているようです。

中でも多く見られるのは、ひもづけることでマイナポイントに加え、独自に金額を上乗せして還元するというもの。「d払い」は500円、「Suica」「au PAY」「メルペイ」は1000円、「WAON」は2000円相当の金額またはポイントを、それぞれの決済サービスにチャージすることで上乗せして付与するとしており、直接的なお得さのアピールで登録を狙おうとしている様子がうかがえます。

▲イオンのプレスリリースより。マイナポイントに電子マネーの「WAON」を登録することで、最大5000円分のマイナポイントに加え、独自に2000円のWAON残高を進呈するというお得なキャンペーンを実施している

一方、キャッシュレス決済で大きな存在感を発揮するようになったソフトバンク系の「PayPay」も、マイナポイント申し込み開始に合わせて「マイナポイントペイペイジャンボ」を実施することを明らかにしたのですが、その内容はマイナポイントの登録者に抽選で、最大で100万円相当のPayPayボーナスが当たるというものでした。

当然100万円が当たればものすごくお得ですが、PayPayの登録ユーザー数が3000万人を超えている現状、その確率は決して高いとはいえないでしょう。キャッシュレス決済各社は2019年までのバラマキ合戦で相当疲弊していることもあって、特にPayPayのようにユーザー数が多い事業者は、大規模なバラマキをやりにくくなっているようにも感じます。

▲PayPayはマイナポイントに登録することで、抽選で上乗せされるPayPayボーナスの額が決まるキャンペーンを実施。当たれば大きいが外れると何ももらえない可能性もある

それに加えて今回はマイナンバーカードが必要というハードルもあり、消費者から見れば参加自体のハードルが高いことから、一定の盛り上がりが期待できるとはいえ、キャッシュレス・消費者還元事業と比べると大きな盛り上がりは期待しづらいかもしれません。ですが消費者の盛り上がり以上に懸念されるのが、キャッシュレス・消費者還元事業の終了で店舗側のキャッシュレス決済に対する熱が冷めてしまわないか?ということです。

実はキャッシュレス・消費者還元事業は、消費者よりも店舗側のキャッシュレス決済導入を促進する狙いが大きい施策でもありました。国が5%のポイント還元の原資を負担することで集客につなげるというだけでなく、キャッシュレス決済用の端末代や設置費用を最大で無料にする、決済手数料が3.25%で実施期間中はその3分の1を国が補助するなど、国は店舗に対して至れり尽くせりの策を提供していたのです。

▲「キャッシュレス・消費者還元事業」のWebサイトより。同事業では店舗側のキャッシュレス決済導入促進のため、端末の導入や決済手数料に補助をするなど多くの支援策を打ち出していた

そこには導入がなかなか進まなかった中小の小売り店舗に、キャッシュレス決済を導入させたいという国の方針が大きく影響していた訳で、事業の対象を基本的に中小規模の店舗に絞ったのもその狙いが大きかったからこそといえるでしょう。

ですがそもそも中小店舗がキャッシュレス決済を導入したがらなかった最大の理由は、決済事業者に決済手数料を支払う必要があり、なおかつ支払われたお金が入金されるまで時間がかかるなど、現金では考慮する必要がなかった金銭・時間的な負担が発生してしまうからです。大企業であれば効率化のための必要経費で済むかもしれませんが、特に利益が少ない商品を扱う店舗、日々の仕入れのため手元資金が必要な店舗などは、それらが非常に大きな負担となってしまうのです。

キャッシュレス・消費者還元事業では国の補助によってそれらが緩和されていた部分がありますが、マイナポイント事業に関係するのは基本的に消費者とキャッシュレス決済事業者のみ。店舗側に対する施策は特にないようなので、負担の増加を嫌ってキャッシュレス決済を推奨しない、あるいは止めてしまう中小店舗が少なからず出てくることが懸念されるのです。

しかも現在は、多くの店舗が新型コロナウイルスの感染拡大による顧客の減少で非常に苦しい状況にあります。いくらキャッシュレス決済事業者が「現金は汚い」といったところで、決済手数料が死活問題となる体力の弱い中小企業には響かないでしょう。

それだけに、マイナポイント事業を盛り上げてキャッシュレス決済のさらなる拡大へとつなげていくには、決済事業者が店舗側に向けてどのような策を取るかが求められることになりそうです。経済産業省も2020年7月1日に、決済事業者の手数料や入金サイクルの一覧を公開するなど透明性を高める取り組みを進めていることから、決済事業者の消費者向けだけでなく、店舗側に向けた競争にも今後は注目していく必要があるでしょう。

▲経済産業省が2020年7月1日に公開した「キャッシュレス決済事業者の中小店舗向けプラン一覧」より。中小店舗からの声を受け、国としても決済手数料などの透明化を進めていく方針のようだ

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