「いつまでニコニコに投稿するの?」と言われることも――これからの時代、クリエイターはプラットフォームをどう選ぶべきなのか【歌い手 そらる×ニコニコ代表 対談】

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 YouTube、niconico、ツイキャス、OPENREC.tv、pixiv、など様々なプラットフォーム上で活動する「ネットクリエイター」たち。

 多大な再生数、収益、フォロワー数など華やかな成功を収めるトップクリエイターがいる一方、新規に投稿を始めたが思うように再生数が取れない、ファンやフォロワーを獲得できない、コンテンツの評判がよくない、収益につながらないといった悩みを持つクリエイターも少なくない。

 クリエイターはどうプラットフォームを利用し、プラットフォーム側はクリエイターとどう向き合うべきか? 

 ニコニコ動画での初投稿から12年、常に“歌い手”としてネットクリエイターの最前線に立ち続け、様々なプラットフォームで活動を行うそらる@soraruru)と2017年よりniconico運営代表を務める株式会社ドワンゴの栗田穣崇@sigekun)というクリエイターとプラットフォーム運営者それぞれの立場から語る対談が実現した。

 クリエイターが活動をしていく上で重要となるプラットフォームの選び方やプラットフォーム運営者に期待していること、プラットフォーム運営の実情についてなどが次々に語られる中、そらる氏からはクリエイターデビューの場であり、現在も投稿を続けるniconicoについての本音も飛び出した。

歌ってみた動画投稿者
そらる(@soraruru)
2008年ニコニコ動画にて“歌ってみた”動画を初投稿。以降niconico、YouTube、OPENREC.tvなど様々なプラットフォームでコンテンツ配信を続けるクリエイター。コンテンツ制作においては歌、作詞作曲からエンジニアリングまでマルチに活動し、幕張メッセを始めとするアリーナクラスのライブも次々に実現。動画の総再生数3億回、Twitterフォロワー144万人、YouTubeチャンネル登録96万人を持つトップクリエイター。
そらるさん投稿動画一覧ページ
 
niconico運営代表
栗田穣崇(@sigekun)
株式会社ドワンゴ専務取締役、niconico運営代表(2017〜)。niconicoのサービス改善、新規サービス開発をユーザー、クリエイターの意見を重視しながら進め、カスタムキャストなどniconico以外のサービス立ち上げも主導。
自身もネットゲーム実況をニコニコ生放送で配信する“生主”である。
栗田穣崇さん投稿動画一覧ページ

■クリエイターデビューの場所、niconicoについて

司会:
 そらるさんは2008年にニコニコ動画に初投稿、「歌ってみた」カテゴリを中心に累計で350本以上の動画を投稿されています。そらるさんにとってniconicoはどのような場所でしょうか?

そらる
 ニコニコ動画は、やはり一番最初に動画投稿をはじめた場所、今聞いてくださるファンの方が自分を知ってくれるキッカケになった場所という思いがあります。それが今でも動画投稿を続けている理由の一つでもあります。

栗田穣崇(以下、栗田):
 長くご利用いただき本当に心より感謝しています。ありがとうございます。

司会:
 そらるさんの現在のniconicoの主な使い方、印象などはどうでしょうか?

そらる
 音楽系の動画を中心にniconicoを使っているんですが、コメントシステムの優秀さ、同じ楽曲カテゴリ内でもソートがしやすく、検索もしやすいところはいいなと思っている点です。

そらるさんの歌ってみた動画に流れるコメント。動画プレーヤーの上部にはタグが表示され、ユーザーが興味のあるタグから別の動画へ移動できる。
(画像は「ボッカデラベリタ  歌ってみた【そらる】」より)

司会:
 YouTubeとよく比較される点として、他のユーザーさんの意見でもタグ検索などによる検索がしやすいというものやジャンル別ランキングなどがある点などが挙げられていますね。

そらる
 ええ。ただ、去年新しいランキング表示になりましたけど、昔は月毎や週毎のランキングが見れたりしていたんですが、それが少し難しい操作をしないと見れなくなってしまったことについては、個人的に少し残念だなと思いました。

栗田:
 なるほど。やはりランキングはかなり細かくチェックされているんですね。

そらる
 niconicoで活動するクリエイターにとってランキング順位やマイリスト数、コメント数は投稿のモチベーションに深く関わる部分ですし、また視聴者としても自分の好きなジャンルのランキングは細かく見たいというのがありますね。

ランキングの集計期間は「毎時・24時間・週間・月間・全期間」から選ぶことができる。
(画像はニコニコ動画ジャンルランキング「音楽・サウンド」より)

栗田:
 1ヶ月ランキングだとランクインしなくても24時間ランキングや、あるいはカテゴリランキングならランクインできる、という人も多いですよね。特に新人クリエイターの人などは前日ランキング◯位、などに入ると嬉しいものだと思います。

そらる
 自分はありがたいことに投稿すればある程度は見て頂け、ランキングにも入るという環境にありますが、新しく投稿されるクリエイターの方は、投稿してもランキングにも乗らない、再生数が伸びない、マイリストもされないというのはモチベーションへの影響が大きいと思いますね。

栗田:
 niconicoは今の体制としてクリエイターさん、視聴者さんの声も伺いつつ開発をするようにしていますが、やはりどこかを立てれば、どこかが立たないという部分も多々あり、多くの方が妥協できるポイントというのが今の着地点になっています。

 このランキングがベストなものかどうか、まだ試行錯誤の段階ですがそういった声が聞けるのはとてもありがたいことだと思っています。

そらる
 去年のランキング改修はどういった狙いがあったのですか?

栗田:
 これまでのランキングは上位が変わらない、固定化してしまって新規の方に光が当たらないという問題を抱えていました。そのために大幅なリニューアルをし現在の形に落ち着いたのですが、以前よりも細かく設定できるようになった反面、慣れていない人は不便を感じる事があるのかもしれません。今後の課題ですね。

司会:
 いま栗田さんが考えているランキングの理想形というのはありますか?

栗田:
 niconicoの強さはコミュニティにあると思いますので、タグであったり、好きなモノが似ているクラスタが見つけやすい、集まりやすい機能、こういった部分は今後もさらに伸ばしていければと考えています。

■クリエイターは再生数が重要? YouTubeとniconicoの違い

司会:
 YouTubeについてはどのような印象や使い方をされていますか?

そらる
 「YouTube」には再生数が伸びやすいという良さがあり、それに付随する形で収益化もしやすいというのが大きな利点です。やはりクリエイターが投稿する一番の目的は「見てほしい」というものなので、少しでも多くの方に見てもらえるところに投稿は集中するんだと思います。

司会:
 よく再生数についてはYouTubeとniconicoは比較されがちですが、栗田さんから見てYouTubeの「伸びやすさ」の強みはどこにあると思われますか?

栗田:
 再生数に関しまして、クリエイターの人気をピラミッド構造で考えた場合、上の方にいるクリエイターさんはYouTubeで物凄く再生される傾向にあると思います。Googleが運営するYouTubeは動画プラットフォームとして確立されていて、それを世界中に向け展開していますので、ネームバリューが高い人ほど、より多くの人に見られるプラットフォームになっています。

そらる
 上の方にいるクリエイターさんは、ということですが、例えば投稿初心者の人はそうじゃなかったりするんですか?

栗田:
 再生数は意外と、新規のクリエイターや特定カテゴリについてはniconicoの方が最初に伸びやすいという事例が多いんです。例えばniconicoの強みとして、先程のクリエイターピラミッド構造で言いますと、真ん中くらいの人にメリットが有ると言えます。クラスタによってはYouTubeより伸びたりもします。

司会:
 それはなぜでしょう?

栗田:
 YouTubeでは、例えばボカロの新曲を探そうとしてもレコメンド【※】が優先されるので過去の人気曲であったり、コスプレや3Dモデルなどの動画も含めて人気、話題性の高いものが優先的に出てきます。なので新人ボカロPが初投稿をしてもなかなか気付かれない事も多いと感じています。

※レコメンド
ユーザーの視聴履歴を独自のアルゴリズムで解析し、おすすめの動画を表示するシステム。

 niconicoの場合は「初音ミクオリジナル曲」などのようなタグ検索機能で楽曲に絞り込んだり、新着順、再生数が多い順など様々な表示メニューが分かりやすい位置にあるといったUIの違いや、そもそも視聴者が熱心に自分が好きなジャンルの新人の投稿者を探そうといった文化土壌があります。
 といった点から、YouTubeで配信しても全然気付いてもらえないですとか、再生数も回らないというユーザーが、niconicoに来て一気に伸びるという現象は、ここ数年でかなり大きなものになっています。

そらる
 なるほど。しかし「人気が出たらYouTubeの方が再生される」ということになってしまうと、やはり人気が出た人はみんなYouTubeに行ってしまうのでは? と思ってしまいます。

 まだ自分の周りにはniconicoに投稿を続けている人が多いですが、YouTubeだけになってしまった人もやっぱりいます。そんな方からは「いつまでniconicoに投稿するの?」なんて言葉をかけられたりもしますが、それでもniconicoとしては大丈夫なのでしょうか?

栗田:
 そうですね。人気が出てYouTubeに移られる。それでも「niconicoで大きくなった」というものは残るかと思いますし、クリエイターさんもniconicoにいるユーザーに対して、「たまにはコミュニケーションを取ってみようかな」という気持ちが残るんじゃないか、残って欲しいなと思っています。音楽でいうとメジャーとインディーズ、マンガでいうと商業誌と同人誌の違いのようなものだと思います。

そらる
 例えばオリジナル楽曲のMVを上げるときにも、自分が出演しているような実写のMVですと、niconicoに合っていないような感じがしてしまうんです。実際にほとんどいないんですよ。自分が出演するMVを上げている人が。
 なので、実写のミュージックビデオとは別にイラストのniconico用アニメーションMVを作成し、そちらをあげるようにしていたりします。ボカロ曲の歌ってみた動画などはもちろん、原曲のMVの世界観をそのまま二次創作として制作しています 。

栗田:
 niconicoはコメントなどでコミュニケーションする場ですので、実写のPV映像だと情報量が多くて集中して見てしまうこともあるのか、例えばボカロ曲のようにイラストが中心となっているような余白が大きい動画ほうがコメントの伸びが良いというのは、まさにniconicoの特性そのものと言えます。
 そらるさんが今でもniconicoに投稿されている理由としてはそのあたりの文化特性もあってのことですか?

そらる
 niconicoに今も動画投稿を続けている理由として一番大きいのは、「niconicoにも投稿してほしい」という熱量を持ったユーザーさんがいるということです。個人的にも、もちろんniconicoの文化が好きだということもあります。実況動画が好きでよく見るのですが、ああいう形の動画は特にコメントがあると数段面白く見ることができるので、niconicoで見ることが多いです。

 ただ……めちゃくちゃリアルな話をすると、YouTubeに比べると再生数の伸びにくさは否めませんし、それが理由で「投稿をやめちゃった」という話も周囲で凄くよく聞く話なので、この状況が続いてしまうと去っていってしまう方も多くなっていくのではないかと思います。

栗田:
 niconicoで成功してYouTubeに行く、YouTubeでも成功するという流れは良いと思うんです。ただ、コメントによる楽しさや一体感といったniconicoならではの良さをもっとたくさんの方に知っていただいて、クリエイターの方々にも使い分けていただく、ということを、どれだけできるかだと思います。

そらる
 せっかくの機会なので聞いてみたいんですが、昔のniconicoってカテゴリを超えた祭りや工作など色々なシーンがあって、投稿して数時間で10万再生を超えたり、そういうのも楽しみの一つでした。最近ではこのような盛り上がり方ですとか、バズり方が減ったような気がしていますが、実際のところはどうですか?

栗田:
 そらるさんの動画でも同じような事が起きていますか?

そらる
 例えば「動画を投稿しました」とTwitterでツイートした時です。いいね数は何万件とあっても、マイリストは数千件ほどしか伸びないという。そのせいか昔よりも話題性に対して伸びている動画が減っている印象はあります。

栗田:
 おっしゃるとおりniconicoの使われ方が変わってきているという実感はあります。Twitterで拡散されて、そこからniconicoに来てくれている人は多くても、コメントやマイリストをするというアクションまで起こしてくれる人の割合は多くはありません。

そらる
 まだまだniconicoに対してはアカウントのハードルが高いイメージあるのかなと思います。
 昔からniconicoを使っている方はわかっていると思うのですが、今も「アカウントがないと見れない」と思っている方も多く、「マイリストのやり方がわからない」という方もいるようです。投稿者のモチベーションに繋がりやすい部分なので、このあたりがもっと直感的になったりすればありがたいなと思います。

栗田:
 実際は数年前からアカウントがなくても動画の再生はできるようになっている【※】のですが、この点はしっかりブランディングのやり直し、リブランディングしていく必要がありますね。

※2018年2月28日(水)より、ニコニコ動画は会員登録やログインなしでも視聴できるようになり、ニコニコ生放送も2018年9月25日(火)より会員登録やログインなしで視聴可能となった。
(画像はニコニコインフォ「ニコニコ動画がログイン不要で視聴可能になりました」より)

 niconicoはインディーズで良い、とさっき言いましたが、だからといって「再生数が低くても良い」とは思っていません。
クリエイターの皆さんの動画がより多く再生やコメントをされたり、あるいはコンテンツ制作のサポートとなるような機能、サービスはもちろん強化していくつもりです。

そらる
 なるほど。ちなみに最近の新規の投稿者数はどうなのでしょうか?

栗田:
 最近の動画投稿数に関しては最も投稿者数の多かった4年前の数字まで戻っているという部分もあります。
 むしろコロナウイルスによる自粛期間の影響もあってか、3月以降で新規の投稿者さん、あるいはしばらく投稿していなかった投稿経験者さんがどんどん増えてきている状況です 。

司会:
 そのような状況の中でそらるさんの体感であったり、あるいはネット上で「どんどん人が減っている」と感じられる発言が多いのはどういう理由があるとお考えでしょうか?

栗田:
 実際にはYouTubeで投稿を始めたり、あるいはもともとYouTubeで投稿していた人がniconicoにも同時に投稿するような状態なんです。

 他のプラットフォームでクリエイターが投稿をすると「去られた」とか、戻ってくると「なんで戻ってきた」と言われたりしがちなんですがYouTubeとniconicoそれぞれの強み、ついているお客さんも違うので、クリエイターさんはどちらで配信していただいても構わないんです。テレビ局が複数あるのと同じように、展開や作風、活動によって使い分けをしたり、使い方の一つとして考えて頂けるとありがたいです。

そらる
 YouTubeで投稿を始める人はやはり、再生数が伸びやすいとか収益化しやすいというところに惹かれる面が大きいと思いますので、それに加えてniconicoにも再生数の伸びやすさとか、クリエイターのモチベーションアップのためにマイリスト登録やコメントがされやすいような強化をぜひ、お願いしたいです。

司会:
 そらるさんからの希望にあったような内容で、実際にniconicoとして着手されていることはあるのでしょうか?

栗田:
 いまniconicoとして考えているポイントは3つあります。

 1つ目はYouTubeに再生数で敵わなくても、コメントに熱量があり、その熱量が伝わりやすいコメントシステムがあるという点のさらなる強化です。
 2つ目は投稿のしやすさに向けた、UIの改善であったり、システムの改善でどこまで機能を今より良くしていけるか。
 3つ目はYouTubeで伸び悩みを抱えているクラスタに対する、再生数の安定、コメントの盛り上がり、そして収益が出せるということを実際に体験して頂き、共有を広げていくという展開です。

■コンテンツクリエイターと収益について

そらる
 収益についての強化は是非期待したいところですね。
 現在は昔と違い、動画投稿を職業にしている方も増えていますよね。なのでコンテンツをネット配信するクリエイターの多くには収益化を目標としている人が多いので、今後niconicoの動画再生での収益化が強化されて「niconicoは稼げるんだよ」という認識が広がれば、少なくとも「YouTubeとniconico両方に上げよう」という人はもっと増えるんじゃないかと思っています。

栗田:
 YouTubeは「稼げるんだよ」というプロモーションがすごく成功してますよね。niconicoはまだ「実は稼げる」ということはそんなに知られてないと認識していて、そのあたりのプロモーションは今後の課題です。

そらる
 YouTubeは「好きなことで生きていく」という打ち出しがあり、動画一本で生きていく、生きていこうという方が日本でも大きな流れになっていて、「YouTubeに投稿して人気が出れば食っていけるようになるかもしれない」という認識は出来上がっていると思います。

 せっかく動画を投稿するなら再生数が伸びて収益で生活できるようになればいいという思いを持ってる人は多いと思うので。

栗田:
 そうして「niconicoは儲からないから出ていった」と言われてる人たちもふらっと帰ってくればいいなとは思いますね。

司会:
 収益の話は読者のクリエイターの方々も気になるところだと思いますので、もっと突っ込んで伺いたいのですが、niconicoとYouTubeの収益構造に違いはあるのでしょうか?

そらる
 YouTubeには広告を自由に設定できるという点、広告の種類に関しても自分で設定しやすいという利点があります。また、niconicoとの大きな違いとして世界的な発信力があるので、海外の方が見てくれた際にもその国の方に向けた広告が表示されるというのは収益化に関して大きな利点となっていますよね。

栗田:
 そうですね。ユーザーさんが見てくれるだけで収益につながるというのを、YouTube以外で成立させるのは難しいと考えています。

司会:
 そうなんですか?

栗田:
 今は日本のネット広告(ディスプレイ広告)のかなりの部分をGoogleが占めていて、恐らく今後もさらにその傾向は強まるんじゃないかと考えています。なので日本の企業が独自で広告主から広告出稿を集めて、その広告をコンテンツに貼ってもらって見られた分だけ収益として還元するようなしくみは成立しづらくなっていくのではと思います。

そらる
 YouTubeの収益モデルで言うと良い面ばかりではないと思っていて、レギュレーション違反の問題に関しては今まで許されていたものが、YouTubeの判断で「ダメです」となり、それが機械的な判断で弾かれ収益化できないというシステムになっています。実際に収益化権利を剥奪された方の存在も多く聞いています。
 その点に関しては本当に怖いなと思っています。

栗田:
 YouTubeのレギュレーションの厳しさ、機械的に行われているレギュレーション違反の判断といった融通の利かなさがniconicoにはありません。なぜかというとほとんど人力でやっているからなんですけど(笑)。

そらる
 そうなんですね(笑)。

栗田:
 もちろん最近はAIも導入していますけど、人力とハイブリッドであることはniconicoの強みだと思います。やはり日本だけで頑張るということは、どこまで細かいフォローを提供できるかという点にもあると考えていますので。サポート体制も厚くしていきたいと考えています。

司会:
 niconicoのクリエイター収益モデルはどのような構造なのでしょうか?

栗田:
 niconicoの場合は月額会員さんが継続的に支えてくれるセーフティーネットとしての側面があります。プレミアム会員さんの月額課金額の一部を「クリエイター奨励プログラム【※】」で投稿者の方々に分配しているほか、ニコニコチャンネルで月額課金をする事が出来ます。今は一部のクリエイターさんのみがチャンネルを使えている状態ですが、これも拡張の必要性、個人が有料チャンネルを簡単に開設できるようにする仕組みが今後必要だと考えています。

 また、ニコニコ動画では二次創作の元になった「親作品」に対して、「子作品」の人気が増えた分だけ収益が上がるという仕組みも用意しています。
 ここはやはりインディーズとして、二次創作がどれだけ生まれやすいかという点を意識したものになっています。

※クリエイター奨励プログラム
プレミアム会員収入、広告収入の一部を原資に、創作活動の支援および二次創作文化の推進を目的として、niconicoの投稿作品に対して奨励金を支払う制度。算出方法は非公開だが、登録した動画の再生数等で算出されたスコアをニコニコポイントや現金に交換が可能。

そらる
 自分はリスナーさんからよくニコニ広告もしていただいているのですが、ニコニ広告のポイントも分配になっているんですか?

栗田:
 現在はニコニコ生放送(ニコ生)のみなのですが、投稿者さんに「クリエイター奨励スコア」として還元し、そこから現金やニコニコポイントに変えられるようになっています。ニコ生では昨年から「ギフト機能【※】」も追加されていますので、色々な方面から収益が得られるようになっています。

※ギフト機能 ニコニコ生放送で、視聴者がニコニコポイントを消費してギフトを放送者に贈ると番組にアイコンが表示されるとともに、クリエイター奨励スコアが放送者に加算される。
(画像はギフト機能紹介より)

そらる
 だいたいは理解しているんですが……色々あってわかりにくいので、そういう情報がまとまっているサイトなどがあると分かりやすいと思います。

栗田:
 複雑ですよね。分かりました。検討させて頂きます。

司会:
 さきほど栗田さんのお話で「ピラミッド構造の真ん中ぐらいのひとにはむしろniconicoのほうがチャンスがある」とありましたが収益面でも同じようなことはあるのでしょうか?

栗田:
 全く再生されない人が収益を得ることはどちらでも同様に厳しいと思いますが、YouTubeよりniconicoのほうが収益を得やすいという属性を持ったクリエイターさんは多いと思います。

 例えばオリジナル楽曲がカヴァーされる人やniconicoで強いジャンルのコンテンツを作っている人、映像、画像素材を作る人、動画制作ツールを作っている人なんかも自分の作ったコンテンツやツールが多くの人に二次創作されることで他にはない収益チャンスが生まれています。

 YouTubeでは稼げないけど、niconicoなら月に数万円稼げるよね、少しは食えるよねという方に向けた動きは強くしていきたいですね。

そらる
 話はそれるんですが、YouTubeは海外の人も見てもらえるというところで再生数と収益が伸ばしやすい面もあると思います。niconicoの海外展開ってあり得るんでしょうか?

栗田:
 海外からも見ることはできるんですが本格進出は考えてないですね。niconicoの特徴であるコメントについて、例えば英語だとちょっと文章が長くなって読みづらくなるため、あまり向いていないと考えています。

そらる
 中国語とかだと漢字なのでパッと見でなんとなく理解はできそうですよね。中国はbilibili【※】がありますけど。

※bilibili(哔哩哔哩、ビリビリ)。中華人民共和国の動画共有サイトおよびビデオ、生放送、ゲーム、写真、ブログ、漫画などのエンターテイメント・コンテンツ企業である。ニコニコ動画が開発した弾幕と呼ばれる画面上にコメントを表示する機能を持つことが特徴。
(画像は哔哩哔哩(゜-゜)つロ干杯~-bilibili公式サイトより)

栗田:
 そうなんですよ(笑)。なので基本的には日本語の圏内でしっかりやっていこうとしています。日本に特化したサービスや機能、そして運営はniconicoの強みなのかなという思いもあります。

そらる
 niconicoでは自動翻訳機能は実装できないんですか?

栗田:
 機能的には確かに難しいものではないですね。翻訳機能のシステム自体もかなり技術進歩してきたので面白いかもしれません。
海外展開をしない理由はリソース、コストの問題が大きくて、今までのniconicoはどんどん新しい機能やサービスを広げていった結果、動画や生放送の機能強化がゆっくりとしたペースでしか進められなくなり、それでユーザーさんからお叱りを受けたりした事がありました。

 なのでひとまずは地に足をつけた強化、改善をしていこうというのが今の流れです。ただ新しいことでも低コストで可能なことはドンドンやっていきたいという思いはあります。

■クリエイターの活動支援

司会:
 そらるさんはOPENREC.tv【※】でも配信をされているそうですが、そこでの活動はどのようなスタンスでされているのでしょうか?

※OPENREC.tv サイバーエージェントの100%出資子会社である株式会社CyberZが運営する動画共有サービス。主にゲーム実況やプレイ動画が投稿されている。
(画像はOPENREC.tv公式サイトより)

そらる
 ライブ配信は「OPENREC.tv」を中心に使うことが多いです。自分はゲームも好きなのでゲーム配信をしていますね。元々ゲーム配信もニコ生でやっていたんですが、画質の問題などもあり「OPENREC.tv」での配信が中心になってしまいました。

栗田:
 ニコ生の画質についてはちょっと心苦しいのですが、ニコ生もずいぶんと画質は上がりましてここ数年ではかなり改善したとユーザーさんから評価をいただいている部分はあります。

そらる
 ただゲーム配信だとちょっとまだ厳しいかなと感じますね。

栗田:
 ゲーム配信でなければ、現在はスマホで見る人が大半ですので、今の画質で満足、ないしはそこまで遜色がないというレベルにまでは持って行けているのかなという思いもありますが、ゲーム配信などの秒間60フレームといったハイエンドに求められる画質となりますと需要と供給のバランス、コストの問題で手がつけられていない状況にあります。課題としての認識はしています。

そらる
 あと、OPENREC.tvはクリエイターがコンテンツを作ることに協力的で、スタジオを使わせてくれたり、企画を立ち上げてくれたり、一緒にコンテンツを作ってくれていると感じられる部分が大きいです。
 それが結果的に良いコンテンツを作れることになって視聴者さんに還元できていますし、収益以外にもクリエイターのサポートをしてくれるのは良いところだと思います。niconicoはこのあたりはありますか?

栗田:
 制作のコンサルティングという面ではニコニコチャンネルで同様の事を行っていますね。主に生放送なのですがスタジオや制作スタッフを紹介したり、最近ではYouTubeと連動して向こうでお客さんをあつめて、niconicoの番組にも流れてもらうような企画提案の取り組みもしています。

司会:
 YouTubeの番組制作もniconicoが行っている、ということですか?

栗田:
 ニコニコチャンネルだと実際に無料放送部分をYouTubeで行っていて、課金部分をniconicoでというクリエイターさんが増えているので、そういったサポートのニーズに対応するためですね。

そらる
 メンタリストのDaiGoさんが成功している【※】というのはニュースで見ましたね。

※2019年、ニコニコチャンネル『メンタリストDaiGoの「心理分析してみた!」』が会員数で1位となったことを受けドワンゴの夏野剛社長から「ニコニコ栄誉賞」が授与されている。
(画像はメンタリストDaiGoの「心理分析してみた!」公式サイトより)

栗田:
 もうユーザーさんもどこそこのサイトだけしか見ない、という状況ではないと思いますのでniconicoだからとかYouTubeだから、とかはあまり気にしていません。

司会:
 月額会員制のチャンネルが収益の一つとして注目されていますが、そらるさんも検討されたり、提案を受けたことはあるのでしょうか?

そらる
 いくつかお話はされたことがあります。ただコンテンツを作るのって投稿者、クリエイターじゃないですか。例えば有料に値する投稿動画を用意しなきゃいけないのかなという不安なんかがあって、避けていたところがあります。自分が活動をはじめた頃って、例えばライブをやるにしても「ネットクリエイターがお金を取るのはちょっと……」みたいな空気感もありましたし、今もできる限りリスナーさんには直接お財布を痛めない方法を優先的に考えるようにしています。

栗田:
 今では運営方法も多様化してきていて、専用の動画や生放送だけではなくプレゼント企画やイベントチケットの優先販売などのファンクラブ的な使い方をされている人も多いんですよ。
 他にもコンテンツはniconicoだけで全て無料で見れるようにしながら、場所としてのチャンネルを有料課金にするというチャンネル運営の仕方もありますね。ネットでクリエイターが収益を得る方法がコンテンツ配信以外にも多様化してきています。

そらる
 コンテンツは全部無料で見られて、応援したい人は応援として会員になってくれる、その考え方は良いなと聞いていて思いました。

■最後に、クリエイターに向けたメッセージ

司会:
 そらるさんから最後に、これからコンテンツ投稿を新規に始めようとするクリエイターに向けてのメッセージをいただければと思います。

そらる
 最近頂く質問などを見ると、初めからクオリティの高いものでないといけないと思っている方が多いと感じています。
 自分はそうではなく、まずは楽しむことが一番大事で、大切にして欲しいことだと思っています。楽しければ自然に続けていけるし、例え数字が付いてこなくても自分が楽しいならプラスだなと。
 好きで続けることが上達への近道ですし、まずはクオリティにこだわりすぎず、楽しいと感じることを始めてみて欲しいですね。

 プラットフォームに関しては、自分のスタイルに合った配信サイトを見つけることも大事だと思います。それは今日の対談の中でも出てきましたが、自分のフォロワー数であったり再生数であったりといったステータスによっても変わるんですが、ひとつの配信サイトにこだわらず、やりたいコンテンツに応じてサイトを使い分ける事は重要だと思います。

司会:
 ありがとうございます。栗田さんからはこれからniconicoで投稿を始めようかな、と思うクリエイターの方に対して何かありますか?

栗田:
 niconicoは年内にバージョンアップも予定しています。そこでは今まで以上にユーザー同士が繋がれる面白さを打ち出していければと考えていますし、演者とユーザーと放送を巻き込んで一体感が感じられる機能の用意、もちろんクリエイターさんのモチベーションに繋がることもやっていきたいと考えています。
 そらるさん、本日は本当に貴重なご意見ありがとうございました。

そらる
 niconicoには、ユーザーとの距離が近いという部分を大事にしていって欲しいなという思いを持っています。
一時期のドンドン人が増えていく感じ、勢いを感じられるようになると嬉しく思います。そして、ここ最近のniconicoに対する厳しい評価の声を払拭していって欲しいです。
 niconicoの一ファンとして“常に新しいサイトであり続けてほしい”と願っています。

栗田:
 ありがとうございます。

■info

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