コロナ禍にもかかわらず、応募人数が増える分野とは?(写真:つむぎ/PIXTA)

総務省が発表した4月の完全失業率は前の月に比べ0.1ポイント上がり、2.6%。2カ月連続の悪化。就業者数は前年の同月に比べ80万人減となりました。減少は88カ月ぶりです。


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厚生労働省が発表した4月の有効求人倍率も1.32倍で、4カ月連続で低下しました。新型コロナによる雇用環境の悪化が明らかになったわけです。

ここ数年続いた、戦後経験したことのない求人倍率の上昇、「売り手市場」に歯止めがかかったといえます。

中途採用系のメディア・エージェント関係者に話を聞くと、

・未経験採用は減少傾向
・飲食サービス業界などでは採用を抑制
・デジタル系などは、果敢に採用を継続

など、コントラストも出てきました。業績が悪化するにつれて採用を抑制する会社はさらに増えると、多くの業界関係者が予測しています。

密かに進む「2つの変化」

こうした転職市場での変化が起きる中、いくつかの業種・業界で応募が急増しているとのこと。その1つが、運送業です。

コロナ禍の自粛生活で、運送業の重要性が再認識されましたが、人材ニーズは今後さらに高まると予想され、実際にすでに求職者の応募も増えているようです。

運送業への求職で印象的なのは、飲食・サービス業界の出身者の応募が増えているということです。これまでには見られない傾向と、ある運送業の人事部の方が驚いていました。

確かに飲食・サービス業界は営業自粛で売り上げがゼロに近くなるところも多く、店舗を閉鎖したり、新規採用の凍結をした会社も多くあります。

ある飲食チェーンの経営者に話を聞くと、6月以降も売り上げの減少は続くと考え、店舗の閉鎖や人員整理を進めているとのこと。当面は飲食業界から運送業など、別の業界に転職希望する人が相当数いるのかもしれません。

あるいは地方の中小企業において、首都圏など都市部から転職を希望する人の応募も増加傾向のようです。

大阪で製造業を営むSさんの会社は、営業職を中途採用しようと、HPで継続的に募集を行ってきました。ところが応募があったことなど皆無で、慢性的な人手不足に悩んでいました。ところが5月にはなんと10人ほどの応募があったとのこと。それも応募者の多くは首都圏勤務の20代です。

面接はこれからとのことですが「コロナがチャンスをもたらしてくれるかもしれない」と光明を感じているようでした。

同じように地方の中小企業で、都市部の若手社員が応募してきたといった話は何社か聞きました。

こうした背景にあるのが在宅勤務や、コロナ終息後への不安があるようです。就職情報会社「学情」が20代の転職希望者に新型コロナウイルスの感染拡大の影響についてアンケート調査を行ったところ「地方への転職を希望する」と答えた人は36%と大幅に増加。

・テレワークで場所を選ばずに仕事ができることがわかった

・都市部で働くことにリスクを感じた

とコロナで“都市部脱出”を検討し始めた若年層が増えているのです。移動の自粛が解除になると、大移動が起きる可能性があるかもしれません。

地方への転職も可能にしたリモート採用

運送業や地方の中小企業への応募の障害となっていたものが解消できたことも大きいかもしれません。それはリモートの採用プロセスです。

リアルな採用プロセスだと、面接や会社説明、会場への移動時間をどうやりくりしようかと躊躇していた人でも、リモートであれば無理なく応募ができます。

飲食業界に勤務していた知人のWさんは、働いていた飲食店がコロナで休業。6月以降の再開のメドが不明なこともあり、転職活動をオーナーから勧められたとのこと。当初は同業の転職先を探したのですが、条件の合う会社が見つかりません。

そこで未経験でも転職ができる業種を見渡したところ、運送業の求人があり応募。面接から内定までリモートで行われたので、スムーズに入社にまで至ったそうです。慣れない仕事ですが頑張りたい……と話を聞かせてくれました。ちなみに同じ営業所には、飲食業界からの転職組が数人いたとのこと。

また、地方の製造業の中途採用の求人に、首都圏の大企業に勤務する若手から応募が増えているようです。地方の中小企業でも最終面接までリモートで行う会社が登場。さらに地方に住めば給与が下がっても生活レベルは変わらないとの説明を受けて入社を決意した応募者もいたようです。

これまで地元出身の優秀人材は大学を卒業したら首都圏などの都市部に行ったまま戻ってこないのが当たり前となっていました。その状況に逆転現象が起こりつつあるのです。

まだ、大きな変化にまでは至っていないかもしれませんが、地方で経営する会社にはうれしい状況変化ではないでしょうか。

採用後も定着してもらうためのフォローがカギに

ただし、こうした、応募が急増する業種業界も安穏としてはいられません。景気が上昇傾向になれば、飲食業界のように人材の流出側になった業界でも、再び採用活動が再開します。これまで慣れた業界が恋しくなって「舞い戻る」決断をする人も出てくるかもしれません。

人事コンサルティングを行う立場からすれば、採用した人材が定着する仕掛けを準備しておくべきと考えます。慣れない環境への転職ですからオンボーディング、つまり職場環境に慣れてもらうための取り組みは丁寧に行うべきでしょう。

つい職場任せになりがちですが、そうなると対応にばらつきが出て、離職者を増やす可能性が高まります。会社に対するロイヤルティーや仲間意識を高めるための飲み会の開催……といきたいところですが、今はコロナで難しい状況です。感染予防をしながらコミュニケーションを取る方法について知恵を絞りつつ、一方で内容としては、前職の業界の経験が生かせる部分を見いだしてあげるといったフォローも大事かもしれません。

例えば、飲食も運送も、それぞれ安全管理の面が厳しい業界です。前職の経験を踏まえて、職場に対する改善提案をしてもらうよう、促してみるのもいいかもしれません。

会社に対する貢献を通じて帰属意識が高まり、離職防止につながると考えます。都市部から地方の企業への転職であれば、地元に対する愛着を高めるための市民活動への参加を勧めるのもいいかもしれません。

こうした取り組みを重ねることで異業種転職への緊張が緩和され、勤務する会社や業界に対する愛着が高まっていくのではないでしょうか。

知人が経営する運送会社では、パーソナリティーチェックをお互いにできる分析ツールを社員に提供しているとのこと。お互いの人柄を知る機会を通じて、対話を増やし、職場のつながりを高めるようにしているのだそうです。結果として、職場満足度調査をすると、信頼関係のポイントが上昇。離職率も改善したそうです。

今後もコロナショックの余波は続きますが、人材を採用できた業界や会社は、責任をもって彼らが活躍できる場を用意してほしいと願います。