なぜ新型コロナウイルス感染症が流行する中でオンラインショッピングの誘惑に打ち勝つことが難しいのか?
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは世界中の人々の生活様式を大きく変えており、かつてないほどオンラインショッピング需要が増加していることも判明しています。「一体なぜ、COVID-19の影響を受けている中でオンラインショッピングにハマってしまうのか」という疑問について、シドニー工科大学の上級講師であるAdrian R. Camilleri氏と、パデュー大学のEugene Y. Chan准教授が解説しています。
https://theconversation.com/cant-resist-splurging-on-online-shopping-heres-why-138938
オンラインショッピング需要の高まりを受け、2020年4月の最終週にはオーストラリア全体で1日当たり200万もの小荷物がオーストラリア郵便公社によって配達されたそうで、これは前年を90%以上も上回るとのこと。また、5月11日〜17日にかけて食品の購入取引が前年比で230%、家具および事務用品の購入取引が140%、アルコールおよびタバコの購入取引が45%も増加したことも分かっています。
COVID-19のパンデミックによって外出が制限されている中でも人々は生活を続けなければならないため、食品や服といった多くの製品カテゴリーでオンラインショッピング需要が増加していることは不思議ではありません。しかしCamilleri氏らは、人々がオンラインショッピングに引きつけられる背後には、心理学的な理由が存在すると指摘しています。
パンデミックにより、ここ数カ月間の人々は財政上の不安を覚えたり、愛する人と会えなかったり、日常生活の大きな変化を余儀なくされたりしました。これらの大きなストレスに対処する上で、「買い物」という方法が取られることがあるとのこと。高いレベルのストレスは人々の購入意欲を増加させるとの研究結果もあり、買い物は否定的な感情を減らして現実から逃避する手段になるそうです。
2013年の研究では、パレスチナの行政区画でありイスラエルと緊張状態にあるガザ地区周辺に住むイスラエル人と、ガザ地区から遠い場所に住むイスラエル人を比較しました。その結果、ガザ地区の周辺というストレスの多い環境に住む人々はそうでない人々と比較して物質主義的傾向が強く、「ストレスを解消するために買い物をしたい」という欲求が強いことが判明しています。
COVID-19のパンデミックによって映画館やレストランなどの施設が使えなくなった状況では、買い物が一種のエンターテインメントになっているとCamilleri氏らは指摘。買い物は人々を興奮させ、物事との関わりを高め、自由を感じさせ、空想の充足感を生み出すとのこと。また、過去の研究では人々が満足感を得る機会を遅らせることが難しいことも示されており、たとえ外出が制限されている状況でも化粧品や服、靴などを購入してしまうそうです。
さらに人々をオンラインショッピングに引きつけている要因として、「対面での支払いで発生する苦痛」が存在しない点も挙げられます。ほとんどの人はお金を失うことを望んでいませんが、取引による心理的な痛みは取引形態によって異なるという調査結果もあり、物理的に現金で支払うよりも、キーボードを操作して購入ボタンを押す方が心理的なハードルが低いとCamilleri氏らは述べました。
また、オンラインショッピングでは匿名性が保たれており、周囲の人々に自分が何を買ったのか分からないことから、「外で購入するのは恥ずかしい製品」の人気も高まっています。COVID-19のパンデミックが始まって以来、大人のおもちゃの売上が急上昇しているほか、ランジェリーなどの売上も上昇しているとのこと。
これらの消費者動向の変化に対応するべく、企業はさまざまな対応を行っています。たとえば、これまでオンラインでの宅配サービスを行っていなかったレストランが宅配サービスを始めたり、オンライン購入での割引きを実施したりして、企業は実店舗での売上が見込めないパンデミックの中で売上を確保しようとしています。
Camilleri氏らは、「残念ながらオンラインでの購入は簡単で、気分を高めたり娯楽を求めたりする人々のモチベーションが高まっているため、多くの人々が浪費して財政的ストレスを抱える危険にさらされています」と指摘。予算や支出計画を作成し、何かをオンラインで買う気になったら「今の自分は財布のヒモが緩んだ状態だ」と思い出し、ショッピングサイトを見る代わりに誰かと通話して孤独感を和らげるといった対策を推奨しました。