ドラマ『愛してると言ってくれ』のワンシーン

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 5月31日より、TBSで1995年の夏に放送された、豊川悦司・常盤貴子主演のヒットドラマ『愛していると言ってくれ』が“2020年特別版”として再放送され、好評を得ている。

【写真】懐かしすぎる!『101回目のプロポーズ』の浅野温子と武田鉄矢

 聴覚障害者を演じた豊川との純愛が当時、大きな感動を生み、それをさらに盛り上げたDREAMS COME TRUEの主題歌『LOVE LOVE LOVE』もその年のオリコン年間1位という大ヒットを記録した。

トレンディドラマ全盛期から
バブル崩壊の不安感へ

「これは'90年代なかばのドラマを代表する作品で、ひとつの転換期とも呼べるのでは」

 と、あるドラマ評論家は言う。

 この作品から少し前、'90年前後は、いわゆる「トレンディドラマ」全盛期。'88年の『君の瞳をタイホする!』(陣内孝則・柳葉敏郎)と『抱きしめたい!』(浅野温子・浅野ゆう子)、'89年の『君の瞳に恋してる!』(中山美穂・前田耕陽)、『愛しあってるかい!』(陣内孝則・小泉今日子)、'90年の『世界で一番君が好き!』(浅野温子・三上博史)、『キモチいい恋したい!』(安田成美・吉田栄作)、'91年の『東京ラブストーリー』(織田裕二・鈴木保奈美、いずれもフジテレビ系)と、華やかな恋愛模様と浮世離れした職業模様を描いたドラマがヒットする時代だった。

「その後、バブル崩壊とともに、キラキラしたトレンディドラマの世界から、心のつながりを描くようなドラマ、純愛や家族愛を描いたドラマに人気が集まるようになっていきます」

 その代表が、'91年の『101回目のプロポーズ』(浅野温子・武田鉄矢)や'93年の『ひとつ屋根の下』(江口洋介・酒井法子、どちらもフジテレビ系)だ。その一方で、『ひとつ屋根の下』を手がけた野島伸司による『高校教師』(真田広之・桜井幸子)や『人間・失格〜たとえばぼくが死んだら』(赤井英和・堂本剛)など、さらには“冬彦さん”が社会現象にもなった『ずっとあなたが好きだった』(賀来千香子・布施博、いずれもTBS系)など、センセーショナルな作品にも人気が集まった。

「バブル後の不況などによる不安感から、あたたかいものと刺激的なもの、両面が求められたのではないでしょうか」(同前)

今後のドラマは、コロナ禍不況が反映か

 言葉という壁を超え、気持ちをぶつけ合いながら愛を育んでいく、『愛していると言ってくれ』の豊川悦司と常盤貴子の姿に、多くの視聴者が感動した'95年。このドラマの1クール前に、野島伸司もやはり聴覚障害者を演じた酒井法子の『星の金貨』(日テレ系)を、秋には香取慎吾が知的障害者を演じ、若者たちの無力感を描いた『未成年』(TBS系)といった感動的な要素の強いドラマを手がけ、ヒットさせている。前出のドラマ評論家は言う。

「この年は、1月に阪神淡路大震災、3月には地下鉄サリン事件が発生した年でもあります。日本中が不安な気持ちに包まれる中、ドラマの中で感動を求めたいというところはあったのではないでしょうか」

 そして2020年。新型コロナウイルス禍において、これまでに経験したことのないような日々が続き、テレビ局もさまざまな収録が中断を余儀なくされた。そんな中で生まれた各局の再放送の流れだが、『野ブタ。をプロデュース』や『ごくせん』など、'00年代の看板ドラマを放送する日本テレビ、シリーズドラマの多い利点を活かして、『BG〜身辺警護人〜』や『警視庁・捜査一課長』、『家政婦のミタゾノ』などの新作枠でシリーズ旧作を再放送するという、違和感の薄い再放送に取り組むテレビ朝日など、各局の色が出ている。一方、TBSは、『恋はつづくよどこまでも』や『逃げるは恥だが役に立つ』、『下町ロケット』など、比較的近年のヒット作を再放送していたが、'90年代のヒット作『愛してると言ってくれ』を放送しはじめるなど、幅の広い展開が見られるようになってきた。

 近年のヒット作品で視聴者の心をつかんだところで、懐かしさに加え純愛・感動モノを持ってきたところに作戦のうまさを感じる。新ドラマの収録が再開されつつあるが、まだまだ放送するには至っていない。今後のテレビ界のドラマ放送について、テレビ誌関係者は、過去のドラマのように時代背景の影響が反映されるのでは、と言う。

「この再放送で、各局、どんなものが求められているかも、ある程度わかることになるかと思います。コロナの影響がどこまで続くかはまだまだわかりませんが、秋から冬あたりの新作ドラマには、不安な世の中を反映させたようなドラマが作られヒットするかもしれませんね」

 テレビドラマは、時代とともに“色”を変えていくーー。

〈取材・文/渋谷恭太郎〉