給付金はもらったからといって、安心はできない ※画像はイメージです

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 いま、国民の関心事は、10万円の定額給付金がいつ手元に届くかです。すでに給付金が振り込まれた方もいるかもしれませんが、自治体によっては入金が6月にずれこむところもあります。実は、給付金の申請がまだの人も、振り込まれた人も詐欺への警戒が必要です。

【写真】詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト、多田文明氏

 本来なら、マイナンバーカードを持つ人は、家から便利にネットでの申請ができて、すぐに入金されるといわれていましたが、現実は違いました。すでにネットでの申請を取りやめた自治体もあります。

 さらに「マイナンバーカードの暗証番号を忘れた」とか、「5年の電子証明書が切れていた」と人々が役所に殺到してしまう事態です。この状況を見て、しめしめと思っているのが、詐欺師たち。詐欺を行うものにとって、こうした「混乱」は格好の好機なのです。

給付金を受け取る「前」と「後」で
詐欺の方法が変わる

 詐欺師たちは、ニュースなどの事象を足し算しながら、騙しの罠を仕掛けてきます。今は、新型コロナ蔓延への「不安」が増大しているので、それに便乗した詐欺が横行するのです。

 ご存じのとおり、「オレオレ詐欺」は息子になりすました人物が「オレオレ」と電話をかけて「急にお金が必要なったので、貸してほしい」と言って、金を騙し取ります。

 今は、それに「新型コロナ」を混ぜてきます。

「オレだけど、コロナ流行っているけど、体調は大丈夫?」
「マスク足りてる? オレのところに在庫あるから、送ろうか?」

 と偽の息子が電話をかけて、そのあとに「コロナの影響で会社が倒産してしまった。借金があって、お金を借りられないかな?」と言ってきます。こうした“コロナ版オレオレ詐欺”によって、高齢者らがすでに被害に遭っているのです。

 最近は徐々に感染者の数は減り、マスク不足も解消されてきています。そこで次に詐欺師らが使うのが、「給付金」というワード。

 まず、詐欺師が騙すうえで知りたいのは「電話をかけた相手が、申請書を出して、給付金を受け取ったか否か」。これによって、彼らが仕掛けてくる「詐欺の方法」が変わってきます。彼らはその情報を得るため、市役所職員などを騙って、多くの家に「給付金の申請はなさいましたか?」という詐欺の前触れ電話をかけています。

 そう尋ねられて、「まだしていません」と答えれば、「申請を電話でお受けします」「高齢者の方は、銀行が申請を代行してお金を振り込めます」とウソをつき、本人の家族構成や銀行口座などを聞き出そうとします。もし、これらの情報を相手に伝えてしまうと、先に伝えた銀行名の偽職員から電話がかかってきます。

「あなたのキャッシュカードは古いので、このままでは10万円の給付金が振り込めません。新しいカードに換えてください」

 そして新しいカードへの変更を理由に、家へキャッシュカードを騙し取りにやってきます。もちろん暗証番号は事前に聞き出されていますので、後にATMからお金が引き出されます。いま、こうした被害が後を絶ちません。

 ここで知ってほしいのは、なぜ「給付金」というワードを使うのか、ということ。光あるところに影ができるように、騙す側は言葉の裏面性をついてきます。「給付金」の表側には「お金がもらえる」という、うれしさがありますが、その裏には「不給付」が存在します。

 つまり、「キャッシュカードを新しいものに変えなければ、もらえるはずの給付金が、受け取れなくなる」と不安を煽る方向に話にもっていくことができる。先にも話したように、「混乱」や「不安」は詐欺を行う上での重要なファクターです。心の動揺を引き起こされた人はパニック状態に陥り、騙されてしまうのです。

 このほかにも、申請書類にまつわる詐欺はいろいろあります。

「市役所職員が特別給付金の書類を持ってうかがいます」という電話がかかってきたり、給付金の申請書が入った封書を投函したあとに、市役所職員を騙った女性が家を訪問してきたという事例もありました。

 このときは、家人は怪しいと思って対応したので、ことなきを得ましたが、相手の話を聞いてしまえば、申請の名目で手数料を騙し取られる可能性もあります。申請書が届かない人たちは、「いつ、くるのだろう」と思っていますので、つい話を聞いてしまいがちで、詐欺の方向に誘導されやすいのです。

SNSの書き込みにも注意!

 では、申請書が届いていた人の場合はというと、詐欺師は別のアプローチをしてきます。たとえば、「申請書類の書き方を教えます」と電話をかける。また「最近、記入ミスが多いので、内容に間違いがないか、チェックします」と、個人情報を聞き出されることもあるでしょう。ときに、申請書が届くタイミングで電話がかかってくることもがあるかもしれません。

 詐欺師はなぜ、申請書類が家に届いたのがわかるのか。それには、SNSの存在が大きく関わっています。SNSでは「申請書が届きました」という書き込みをよく見かけますが、詐欺師もそれを見ており、その情報をもとに詐欺の電話をかけることも充分にありえるのです。

 また、給付金が振り込まれたあとも油断はできません。

 先日、詐欺師が利用しそうな心配なニュースが入りました。寝屋川市で、2000人以上に給付金を二重で振り込んでしまったというのです。本来ならば、詐欺の対策として、「入金後、市役所が給付金の振り込みに関して、電話をかけることは絶対ありません」と言いたいところですが、こうした役所のミスがあると、給付金の返還依頼で連絡をすることは考えられるので、役所が電話をかけないとはいいきれないのです。

 今後、詐欺師がこうした事象に便乗して、「二重給付の可能性がありますので、振込みの確認をさせてください」と電話をかけてくる恐れもありますので、この言葉もぜひとも頭に入れておいてほしいと思います。

 二次補正予算には、雇用助成金の増額や家賃の支援などの経済対策が盛り込まれています。今後も詐欺師が「特別にあなたは給付が受けられることになりました」と言ってくるケースや、「給付金」を「助成金」に置き換えて詐欺の電話をしてくることでしょう。

 みなさんが置かれた状況は、ひとりひとり違うと思います。ですので、どんな詐欺が、どのようにして自分の身にやってくるかを、自らの事情に合わせた形で考えて身を守ることが大切なのです。

多田文明<ただ・ふみあき>
1965年生まれ。詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト。ルポライターとしても活躍。キャッチセールスの勧誘先など、これまで100箇所以上を潜入取材。それらの実体験を綴った著書『ついていったらこうなった』はベストセラーとなり、のちにフジテレビで番組化。マインドコントロールなど詐欺の手法にも詳しい。そのほか『だまされた! 「だましのプロ」 の心理戦術を見抜く本』など多くの本を出版、テレビやラジオ、講演会などへの出演も。