「エール」47話 裕一、最後のチャンス「船頭可愛や」 モデル古関裕而の場合、どのように誕生したか
第10週「響きあう夢」47回〈6月2日 (火) 放送 作・清水友佳子 演出・吉田照幸〉
47回はこんな話
木枯(野田洋次郎)に紹介された作詞家・高梨一太郎(ノゾエ征爾)に彼の詞それは「船頭可愛や」に曲をつけてほしいと頼まれた裕一(窪田正孝)。廿日市(古田新太)からはこれが最後のチャンスと突きつけられる。一方、音(二階堂ふみ)は「椿姫」の稽古がはじまったが、うまくいかずに悩んでいた。
最後のチャンス「船頭可愛や」
コロナ禍における外出自粛も解けて、全国的に出社する人も増えたであろう6月1日(月)放送の46回は視聴率も21.9%と高く好調の「エール」。やっぱり朝ドラは今日も一日頑張るぞーという朝の支度と共にあるドラマなんだなあと思う。ドラマでも裕一も音も頑張っている。まず裕一は「船頭可愛や」に挑む。がしかし、
廿日市「仏の顔もなんとやらだよ」
杉山「三度までです」
さらに、「船頭可愛や」が売れなかったら、契約終了、これまで前貸ししていた契約金も一括で返却してもらうと廿日市に言われてしまう。
いくら大物・小山田(志村けん)の紹介とはいえ、2年も成果を出せないのでは、廿日市も我慢の限界のようだ「仏の顔も三度」ってまだレコード2枚目だけれど……。
廿日市も廿日市で、もっと売れるための計画を裕一と共に練ればいいのではと思うが、抜本的な改革は行わず、高梨一太郎が作詞と聞いてふたつ返事でレコード化を許可し、歌手には流行りの芸者を起用しようと軽いノリ。しかも、結局、芸者はギャラが高いので、下駄屋の娘を芸者・藤丸(井上希美)ということにして起用。どこまでも調子がいい。
幸い彼女は歌がすこぶるうまく、廿日市も悪いところばかりではないと思わせたのだが……。井上希美は劇団四季出身。張りのある美声を披露した。
「船頭可愛や」とは
裕一のモデル・古関裕而はコロンビアレコードでなかなかヒットが出せなかったが「船頭可愛や」でようやくヒットに恵まれる。古関裕而の自伝「鐘よ鳴り響け」によると、昭和5年の入社以来くすぶっていた古関が、「酒は涙か溜め息か」以後、次なるヒットに恵まれなかった高橋掬太郎(高梨一太郎のモデル)と組んでまず「利根の舟歌」(昭和9年)を作り、これが古関の最初のヒットになった。その後、昭和10年、再度、高橋と組み作ったのが「船頭可愛や」。瀬戸の民謡からとった歌詞に合わせ日本民謡調で作曲。歌い手は、楽譜は読めないが熱意ある商家の主婦。芸名は音丸だった。この曲、最初は売れなかったが、じょじょに火が付いて古関最初の大ヒットとなる。
ドラマで高梨を紹介した木枯のモデル・古賀政男は、昭和10年にテイチクレコードに移籍し、文芸部長になった。もともと古賀はコロンビアレコードに社員として入社し、吹き込みの記録などを担当、古関のレコーディングに立ちあっていた。その傍ら作曲も行い、人気作曲家となったのである。
「福島三羽ガラス」が面白くなってきた
「おはよう日本 関東版」で、高瀬アナが鉄男のことを話題にしていて、「福島行進曲」の「引き眉毛」に続く渾身の一作を期待しますよと応援。なぜか「ラーメン屋一代記ですか?」と言っていたが、おでん屋と間違えたのだろうか。人は間違えることもあるということをNHKのエリート・高瀬アナに身を持って教えてもらってホッとした朝。鉄男は、おでん屋のおやじに店を譲り受け、職を得る。働く彼の姿を見て、裕一と久志は「前髪が変わってる」「爽やかになってる」とひとしきり盛り上がる。これまで暗い顔を背負ったナイーブで、それでいて反骨心旺盛な青年というイメージのあった鉄男に軽やかな一面が加わった。
裕一が新作に挑むと聞いて、前のめりになり、歌を芸者が歌うと聞いて、さらに興味津々。芸者という話題に食いついたのは久志のほうで、ひとりでやたらと妄想にふけっていた。久志は、売れなかったことをやたらと不安に思う裕一に「売れた時の幸せを想像してみたらどうだろう」とやたら前向きなところもいい。
裕一、鉄男、久志、なかなかいいチームワークで楽しくなって来た。鉄男と久志は勝手に「船頭可愛や」のレコーディングに見学にやって来るという図々しさを見せる。
廿日市は鉄男(中村蒼)を「トランプくん」(「福島行進曲」の歌詞から)、久志(山崎育三郎)を「ひらひらシャツ」と呼ぶ。たちまち、ふたりに愛嬌ある個性ができた。これからはふたりをそう呼ぶといいかもしれない。
「なんで仕事場で旧交あたためてるのよ」と廿日市がまっとうな台詞を吐く。やな人にも見えるが、じつはまともなことも言っているのである。現実主義者なのであろう。そういう感じを古田新太が軽やかに演じている。
双浦環に裕一の話をする音
「椿姫」のヒロインになったものの、稽古がうまくいかない音。正確に歌うことと表現することを両立することに悩む。ソファで久志演じるアルフレードにもたれながらも正確に歌うことがなかなかできない。もともと基礎がなかったが、女給体験によって深まった表現力に可能性を感じてもらった音。やっぱり技術の高い千鶴子(小南満佑子)のほうがふさわしいのでは、という声も聞こえてきて……。だんまりで稽古に参加している千鶴子は何役なのか。単なる見学? それとも代役?
うまくできずに悩んでいる音にアドバイスする双浦環(柴咲コウ)。日本では売っていない、パリで環がやった「椿姫」のレコードを音にプレゼント。環に裕一の話をする音。流行歌には興味ないですよねと言うと、いい曲はなんでも好きよと返す環。古関裕而の史実を予習しておくと、この会話が今後の展開に関わってきそうなことがわかる。
今日の窪田正孝
最後のチャンス、売れなかったら契約金を一括返済と追い詰められた裕一はその苦悩を、腕立て伏せの追い込みで表現する。苦悩がひしひしと伝わってきた。(木俣冬)
東京編の主な登場人物
古山裕一…幼少期 石田星空/成長後 窪田正孝 主人公。天才的な才能のある作曲家。モデルは古関裕而。関内音→古山音 …幼少期 清水香帆/成長後 二階堂ふみ 裕一の妻。モデルは小山金子。
小山田耕三…志村けん 日本作曲界の重鎮。モデルは山田耕筰。
廿日市誉…古田新太 コロンブスレコードの音楽ディレクター。
杉山あかね…加弥乃 廿日市の秘書。
木枯正人…野田洋次郎 「影を慕ひて」などのヒット作をもつ人気作曲家。モデルは古賀政男。
山藤太郎…柿澤勇人 人気歌手。モデルは藤山一郎。
小田和夫…桜木健一 ベテラン録音技師。
梶取保…野間口徹 喫茶店バンブーのマスター。
梶取恵…仲里依紗 保の妻。
佐藤久志 …山崎育三郎 東京帝国音楽大学の3年生。あだ名はプリンス。モデルは伊藤久男。
村野鉄夫 …中村蒼 裕一の幼馴染。川俣で新聞記者をやっている。詩を書くことが好き。モデルは野村俊夫。
夏目千鶴子 …小南満佑子 東京帝国音楽学校の生徒 優秀で「椿姫」のヒロインに最も近いと目されていた。
筒井潔子 …清水葉月 東京帝国音楽大学で音と同級生。パートはソプラノ。
今村和子 …金澤美穂 東京帝国音楽大学で音と同級生。パートはアルト。
先生 …高田聖子 東京帝国音楽大学の教師。
双浦環 …柴咲コウ 著名なオペラ歌手。モデルは三浦環。
番組情報
連続テレビ小説「エール」◯NHK総合 月〜土 朝8時〜、再放送 午後0時45分〜
◯BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜、再放送 午後11時〜
◯土曜は一週間の振り返り
原案:林宏司
脚本:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
キャスト: 窪田正孝 二階堂ふみ 唐沢寿明 菊池桃子 ほか
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」
制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和