金正恩が厳禁「病死豚肉」の流通で収容所送りも
家畜伝染病のアフリカ豚熱(旧称アフリカ豚コレラ)が、北朝鮮で再び猛威を振っていることは、デイリーNKジャパンでも既報のとおりだが、最近になって現地の詳細な状況が伝わってきていている。
流行の中心となっているのは、海を挟んで韓国と向かい合う黄海南道(ファンヘナムド)の海州(ヘジュ)と、道内でも北部にある安岳(アナク)だ。
現地のデイリーNK内部情報筋によると、海州と安岳では今月初め、豚が鼻血を出して倒れたり、一つの檻で10頭が死亡したりするなど、アフリカ豚熱が猛烈な勢いで広がっている。これまで感染の深刻な地域として挙げられていたのは黄海北道(ファンヘブクト)、平安南道(ピョンアンナムド)などだが、これら地域と隣接し、野生動物が媒介となってウイルスが広がることから、感染拡大はある程度予想されていたことだろう。
韓国でも昨年9月から、軍事境界線を挟んで北朝鮮と接している地域でアフリカ豚熱が流行した。ウイルスに感染したイノシシが、軍事境界線を越えて韓国に来たことで、感染が広がったものと見られている。
感染拡大防止策として、約38万頭の豚が殺処分されたが、豚を生きたまま土に埋めるという過酷な作業に動員された多くの労働者が、深刻なPTSD(心的外傷後ストレス障害)に悩んでいるとして、社会問題になった。
一方、中国と国境を接する咸鏡北道(ハムギョンブクト)の鏡城(キョンソン)、茂山(ムサン)、清津(チョンジン)などでも感染が拡大しているが、さらなる拡大を防止するために、強硬策が打ち出されたと現地のデイリーNK内部情報筋が伝えている。
今月6日、アフリカ豚熱が発生した全国の牧場に道、市、郡の朝鮮労働党委員会と人民委員会(道庁、市役所)、獣医防疫部門の担当者に対し、死んだ家畜を焼却処分した上で報告せよとの金正恩党委員長の方針が伝えられた。
アフリカ豚熱は人には感染しないが、食肉の流通に伴いウイルスが拡散するため、当局は販売・流通を厳しく禁じている。しかし、度重なる警告にも関わらず、未だに販売が続けられている。
当局はまた、食べ残しの豚肉が残飯として捨てられ、それが豚に餌として与えられることで感染が広がっている可能性もあるとにらんでいる。
業を煮やした当局は、病死豚肉を販売した業者のみならず、売却した牧場の労働者に対しても責任を追求する方針を示した。それも「肉の横流しは、獣医防疫方針を妨害する反逆行為に規定する」という強硬ぶりだ。つまり、政治犯扱いするということだ。
病死豚肉を横流ししたり販売したりしただけで、本人を含む家族全員が夜中に連れ去られ、管理所(政治犯収容所)送りにされかねないということだ。最悪の場合、まともに裁判も受けられず、即決で処刑されることすらあり得る。