金星トラクター工場を現地指導した金正恩氏(2017年11月15日付朝鮮中央通信より)

写真拡大

経済協力開発機構(OCED)の2013年の調査によると、韓国の廃棄物のリサイクル率は59%で、調査対象となった加盟国の中で2位を記録した。一方で、リサイクルされた廃棄物の再生率は低いとの指摘があり、その向上が今後の課題となっている。

さて、軍事境界線を挟んだ北側の北朝鮮だが、統計はないものの、リサイクルが非常に熱心な国であることは間違いないだろう。モノがないからだ。リサイクルというよりも、使えるものは徹底的に使い倒すというものだ。

先月開催された最高人民会議第14期第3回会議でも、リサイクリング法が採択された。国際社会の制裁と新型コロナウイルス対策による経済的困難の中で「正面戦突破」「自力更生」を強調している北朝鮮は、リサイクル事業を今まで以上に積極的に進めている。

また、韓国の市民環境研究所のペク・ミョンス所長は、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)とのインタビューで、中国が2017年末に廃プラスチック類の輸入を禁止したことを例に挙げ、外貨不足に苦しむ北朝鮮が新たな外貨獲得手段として、廃棄物の輸入を目論んでいるのではないかと指摘している。燃料として使うと同時に、得られた外貨で燃料を輸入するというものだ。

「宝の山」である廃プラスチックだが、それとはレベルが違いすぎて比べようがないようなものに対して、供出令が出された。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋は、道内各地の郡で、1世帯あたり籾殻100キロまたはおがくず50キロを供出するように指示が出されたと伝えた。

指示が出されたのは先月22日。当局は道内の食品工場など地方の工場に対して、「最高人民会議の思想を貫徹する」として、「不足するエネルギー源を補充するために、再資源化技術を受け入れ、籾殻やおがくずを集め資材として使ってでも地方の産業を生かさなければならない」などとして、住民に供出令を伝えた。

北朝鮮の国営工場は、国の生産計画に基づいて予算や資材の配分を受け、生産を行う。それが曲がりなりにも回っていたのは、旧共産圏からの支援があった時代の昔話だ。共産圏が崩壊したことで援助を得られなくなり、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」と前後して、計画経済システムが機能しなくなってからは、多くの国営工場は操業を停止した。

しかし、すべての男性が工場に所属し、そこを通じて数少ないながら配給を受けることもあれば、思想統制などを受けるなど、国のシステムの基本となっていることもあり、国営工場は開店休業状態ながら、組織としては存続している。

情報筋は「郡党(朝鮮労働党の地元の党委員会)は、最高人民会議の思想貫徹のために無条件でしなければならないとの宣伝と共に、これは地方の産業を生かして、郡も住民も豊かにするのが目的だと強調し、住民を説得しようとしている」と状況を説明した。

籾殻とおがくずで操業を停止していた工場を再開させ、地方の産業を復興させるというものだが、生き馬の目を抜くような時代を生き抜いてきた北朝鮮の人々に、そんな子ども騙しの論理が通用するわけがなく、早速不満の声が上がっている。

使えるものは何でも使い倒すのが当たり前の北朝鮮では、昨今の物価高騰、経済難で多くの人が練炭や薪の代わりに、籾殻やおがくずを使っている。なのにそれを差し出せというのは煮炊きをするなというのも同然だ。また、収穫期の秋ではないため、籾殻を集めるのは決して容易ではない。

また、「籾殻やおがくずを集めたところで工場のボイラーの燃料になるのか」「たまにしか稼働しない地方の工場が稼働したところで、製品は住民に配給されるのはなく、市場に卸されるのに、そんなものになぜ貴重な籾殻やおがくずを出さなければならないのか」などと疑問と不満が渦巻いている。

籾殻やおがくず、廃材を使ったバイオマスボイラーは、高度な技術的な裏付けがなければ、効率のいいものを作り出すのは困難で、手間ばかりかかる。北朝鮮の人々は、未だに一部で使われている木炭車を通じて、その困難さを実感していることだろう。

(参考記事:木炭車で燃料不足を乗り切る北朝鮮の人々